手を伸ばしても届かない
ドゴォォンッ!!
「アリアッ!!」
アルラさんの叫び声が聞こえた。
急に景色が変わり、辺りを見回せば、私のちょうど目の前で飛散した雷と、こちらに駆け寄ってくるアルラさんの姿が見えた。
その時ようやく、私は現実に戻ってきたと理解した。
「大丈夫か!?」
「……う、うん」
私はボーッとする意識を保ちながら、カイルに返事を返した。エイスの方に視線を向けると、エイスは既に戦闘態勢を解いていた。
私はアルラさんの方に視線を向ける。今も倒れそうな私を支えて心配してくれている彼は、今までと何1つ変わらなかった。
自然とアルラさんの腕の暖かさが、私の身に伝わってきた。
そこでやっと私は気づく。
もしも、あそこでエイスの手を取ってしまっていたら、私は今まで出会ってきた人を裏切ることになると。
ーー幸せになってね
ミラ姐の最期の言葉が脳裏によぎる。なんとしてでも、ミラ姐の想いを繋げなければいけない。
ーー俺はアリアと出会えて良かったよ
今も大切に私のことを支えてくれている、アルラさんの言葉だった。
そしてフリードさんと、その仲間たちの顔が頭の中に浮かぶ。
最初は怖かった。何もかも失い、挙句の果てには山賊に捕まってしまう始末。
だが、その彼らが私を助けてくれた。支えてくれた。そして、ここまで導いてくれた。私は、そんな彼らをどうしても裏切りたくはなかった。
(私は…)
心の中に温かいものが宿った気がした。
どこからか、心にくるものを抑え切れずに、私は泣きながらアルラさんに抱きついた。
「アルラさん、あと少しで戻れなくなるとこだった。ごめん、ごめんね…」
アルラさんは全てを悟ったかのように、先ほどまでの堕ちそうだった私を、無言で優しく抱きしめてくれた。
やはり暖かかった。
「そう簡単には堕ちてくれないかぁ…」
独りでにそう呟いたのは、残念そうに私のことを見つめるエイスだった。
私は溢れる涙をようやく止めて、アルラさんから離れる。先ほどまでの堕ちそうだった自分から逃げずに、私は真っ直ぐ前を向いた。
それは、もう逃げたくないと、エイスと正面から戦う姿勢だった。
そんな私に対し、エイスはこう言った。
「いいねぇ、アリアのその姿勢に免じて、アリアだけは見逃してあげるよぉ」
エイスは私だけ見逃すと言った。しかしアリアだけとなると、アルラさんは見逃してくれないのだろう。
「アリアだけは、か。どうやら、俺は逃してくれないわけだな」
「当たり前さぁ」
私はアルラさんの方に視線を向けた。
アルラさんは、私に向かって軽く頷いた。もう私には、彼が言いたいことが分かる。
ーーここは俺に任せて先に行け
そうアルラさんの声が聞こえた気がした。
私もアルラさんに向けて軽く頷くと、エイスの横を思いっきり走り抜けた。目指すは、カイルのいる王室だ。
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残された2人、エイスとアルラはお互い睨み合っていた。否、エイスの方は煽るかのように嫌らしい笑みを浮かべていた。
「あ〜あ、行っちゃったね」
「それがどうした?」
エイスが煽るように、アルラに言った。彼は冷静に対応し、彼女の煽りには乗らなかった。
しかし次に、無視できないような言葉が飛んでくる。
「好きなんでしょぉーーアリアのこと」
「……」
否、といえば嘘になる。本当のことをいえば、アルラはアリアのことが好きだった。
いつからかは分からない、気がつけば愛しい感情が芽生えていたのだ。誰にも悟られないように過ごしてきたが、ここでバレるのは予想外だった。
「いいのぉ?このまま行っちゃえば、カイル王とアリア結ばれちゃうよぉ?」
「それはっ…」
アルラは言葉に詰まってしまう。そのことを最初から分かっていたが、いざ現実として他人から言われると、思うところがあった。
アルラはあの日の夜、アリアと時計塔の上で話した時に決意した。アリアが幸せになってくれるならそれでいい、と。
だが、やはりどこかに心残りはあったのだろう。今になって気持ちが揺らいでしまう。
そんなアルラに、エイスは悪魔の囁きをかける。
「止めに行くなら、今しかないんじゃない?彼女の心が欲しかったら奪えばいい、だってあなたたちはーー」
エイスは暗い笑みを見せた。
それは確実に光ではない、闇に堕ちた者の瞳をしていた。そして彼女は、アルラに現実を告げる。
「もう騎士ではない、奪う側の人間なのだから」
そしてアルラは気づいた。これがエイスの本性。人の心の闇を読んで、闇の世界に堕とす彼女のやり方なのだと。
それを分かった上で、アルラの脳裏に選択肢がよぎる。
1つは、エイスをアリアのところに行かせないために、ここで戦って彼女を倒す選択肢。
そしてもう1つは、 エイスの言葉に乗って、カイル王に会いに行こうとするアリアを止めに行く選択肢。
「俺はーー」
アルラは、どうすべきなのかを考えた。自分はどうしたいのか、何を為すべきなのか。そんなのは既に決まっていた。
アルラは真っ直ぐ前を向いて、一点の曇りもない瞳でこう答える。
「ーーアリアに幸せになって欲しい。だから、ここでお前を倒す!」
それはアルラの本心。
どんな状況であっても、愛しい人が失われることが、いかに辛いことかってことも分かってる。自らの行動で、彼女を失うことに手助けしているこの状況も苦しかった。
やはり、このままアリアが手の届かない所に行ってしまうのは嫌だ。
それでも、やはりーー
自分のせいでアリアの幸せが失われるのは、もっと嫌だから。
「はあぁぁぁっ!!」
剣先をエイスに向けると、アルラは隠していた全魔力を剣先に集中させ、最大の一撃を放った。
それは、強大な剣の衝撃波。軽くここら辺一帯は吹き飛ぶほどの魔力だ。アルラはこの一撃でエイスを仕留める気なのだろう。
だがやはり運命というやつは、そう上手くはいかないものだ。
「もういい」
エイスが低い声でそう言った次の瞬間、突如現れた次元の歪みに衝撃波が吸い込まれた。
予想外の出来事に一瞬混乱したアルラのその隙を狙って、エイスはアルラの背後に瞬間移動した。
「テレポートっ、!?」
咄嗟に後ろを振り向いた。
そこには、身も凍りつくような無表情をしていたエイスがいた。
次の一瞬、アルラの真下に出現したのは、テレポートの魔法陣。確実に飛ばすために、拘束の魔法やフリーズ、その他様々な魔法が付与されていた。
アルラは必死に逃れようとしたが、複数の魔法が複雑に絡み合って、解けるものではなかった。
アルラは目の前に来たエイスを睨む。
「あなたは面白くなかった。本当はここで始末したいけど、カイル王の命令だから遠くへ飛ばす」
「カイル王…?」
アルラの耳に入ったのは、エイスがカイル王からの命令を受けているということだ。エイスの言葉が本当ならば、彼女が自分たちを襲撃したのは、カイル王の命令だということになる。
ここでアルラは、ある1つの最悪の可能性に当たる。
もしも、自分たちを抹殺しようとアルデン兵を配置したのが、カイル王の仕業なら。もしも、レイラとカイル王がグルだった場合、どうなるか。
ーーアリアが危ない
「離せええぇぇええっ!!」
そこでやっと気付いたアルラは、必死に足掻いた。アリアを助けにいかなければ、彼女はどうなるか分からない。
足掻く
必死に足掻く
しかし、届かない
ここまで戦ってきて最後に待っていたのは、エイスの残酷な笑みと最悪の言葉だった。
「アリアは私が思う存分遊んであげるからぁ」
「ーーッ…!!」
アルラは何か言おうと口を開こうとしたが、そこで彼の意識は途切れた。
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私は永遠に続くような、長い廊下を走っていた。この先にあるのは、私の最愛であるカイルのいる王室。
ここまで来るのに、色々なことがあった。
辛い出来事や、新たな出会い。そして、別れ。色んな経験があってこそ、今の私がある。
その想いを胸に、私は廊下を駆け抜けていた。
空が色を取り戻し始め、僅かな光がアルデンを照らし始めた。もうじき夜が明けるのであろう。
「!」
カイルの王室が目に入った。残り30mといったところだろう。
……色んな人に、色々なことを言われてきた。その中には、辛い言葉もあった。心の闇だって抱えたし、最悪の別れもあった。
ーーでも
それ以上に最高の出会いがあったから、今の私があるのだと、分かっていた。
脳裏に次々と、仲間の顔が思い浮かんだ。
アルラさんにフリードさん、レイシアにライル。山賊団の仲間たち。彼らを胸に、私は王室の扉の前に来た。
そして、1つ大きく深呼吸をすると、その扉を思いっきり開けた。
バァンッ!
「カイルッ!!」
どうしてだろうか。いつも人間というやつは、理不尽に理不尽を重ね、人をどこまでも追いやろうとする。
もちろん私も例外ではない。だが、この光景はあまりにもーー
ーー私にとって、凄惨すぎる光景だった。
日の出が眩しくて、私は目を抑えていた。じきに光が収まり、私は手を下に降ろす。
そして次に、私の目に入ったもの。それは、あまりにも悲惨な結末。
カイルとレイラはお互いに、唇を重ね合っていたのだ。
次話から凄惨なものになっていきます




