美しい夜
色んな不安を抱え、眠りにつけなかった私は、特に用もなく夜の街を歩いていた。
アルデンの夜はとても平和で、街灯の下で踊りを披露する踊り子の姿や、噴水のベンチでキスを交わしている恋人、力比べと言わんばかりの腕相撲をしている人など。
沢山とはいえないが、様々な人の姿が見えた。
私はアルデンの中心に位置する時計塔の下まで来た。ここは、カイルと2人で来た思い出の場所だった。
その思い出に浸るようにして、私は時計塔を登り始めた。
時計塔の中は、あの時よりも少し古くなっていて、時間が経っていることを、より深く感じた。
時計塔の頂上へ繋がる階段を登り、頂上に出た時、そこから広がった景色は、あの時とは全く違うものだった。
「あの時とは違う、」
確かに年月が過ぎているのだから、景色は変わっているだろう。しかし、そういう意味ではなかった。
アルデンの街は、相変わらず美しい。
だが、違う。
あの時、私が見たのはもっとーー
「綺麗な夜だな」
私が時計塔の上で夜景を眺めていると、背後から声をかけられた。
誰かと思い、後ろを振り向けば、そこには、私がチョイスした黒色の服の上から紺色のジャケットを羽織った、アルラさんの姿があった。
「どうしてここに?」
「眠れなくてさ、それで街を歩いてたらここに辿り着いた」
真顔で答えるアルラさんに対し、自分と全く同じ辿り着き方だと知り、そういう雰囲気でもないのに笑ってしまった。
「なんで笑ってんだよ」
「だって、ここまでの辿り着き方が全く一緒なんだもん」
それを聞いたアルラさんは、「はぁ」と軽いため息をつくと、呆れながら私の隣まで来た。
「アルデンの街は美しいな」
「そうよね」
アルラさんが、隣でそう呟いた。
しばらく2人で夜景を眺めていると、なんだか自然と気恥ずかしい気持ちになり、私は何か話そうと口を開こうとしたが、先に口を開いたのはアルラさんの方だった。
「この1ヶ月、色んなことがあったな。あの時出会ってからここまで来るのに、辛いこともや悲しいこと、失ったものも沢山あった」
そう語るアルラさんの目には、やはりミラ姐の姿が映っていた気がした。だがそのことは口には出さず、私は静かに頷いた。
アルラさんは私の方を向くと、その真っ直ぐな瞳で私のことを見つめた。
「でもーー」
私の方を向き、いつものような軽い笑顔で、こう言った。
「俺はアリアと出会えてよかったよ」
月明かりに照らされ、澄み通るような青い瞳は、より一層美しく輝いていた。
その時私は、アルラさんの姿に見惚れていた。単純にカッコいいからとかではなく、アルラさんの何かに惚れていたんだと思う。
口にするつもりはなかったのに、気がつけば自然と、その言葉は口から溢れていた。
「私もアルラさんと出会えて本当に良かった」
私の顔には自然と笑顔が浮かんでいた。そして、私の冷えていた心が温められていくのを感じていた。
もしかしたら、この時点で私はアルラさんに惚れてしまっていたのかもしれない。カイルではなく、アルラさんといる方が幸せなのかもしれない。
私は心の中でそう感じてしまっていることを、「そうではない」と押し隠してしまった。
何故なら私は、カイルと過ごしてきた10年間を裏切れないし、カイルも私を愛してくれているからだ。
それでもやはりーー
そんなことを考えてしまい、頭に靄が残る状態で私は、アルラさんと夜景を眺めていたのだった。
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宿屋の3階のとある一室で、2人の少年と少女がいちゃついていた。少年の方は少々困っている様子だったが、竜人の少女の方はとても楽しそうだった。
「………もっとライルのこと聞かせて」
「まだ聞くのか!もう散々話しただろっ」
昼は、レイシアが竜人であることを隠すための特殊なコートを身にまとい、ライルとアルデンの街でデートをしていた。
夕方は2人で食事を食べ、夜はライルの昔話をレイシアに話していた。しかし、話し始めてから3時間が経過していたため、ネタがもう底をつきかけていた。
そんな時だった。
コンコン
扉をノックする音が聞こえたのだ。
こんな夜中に訪ねてくるものは、只者じゃないことを分かっていたため、ライルは目の色を変え、念のためのナイフを手に持ち、扉を勢いよく開けた。
「ライル、話がある。ついてこい」
「フリードさん!?」
扉の向こう側にいたのは、いつもより少し険しい表情のフリードさんだった。
何事かと思い、ライルは速攻で武器を腰にしまい、敬礼をした。フリードさんは、その敬礼は見事にスルーして、歩き出してしまった。
「あっ、待ってくださいよぉ!」
ライルは駆け足でフリードさんを追いかけた。
フリードさんは人気のない裏路地まで来ると、立ち止まった。ライルは不審に思いながら、辺りを見回す。
当然ながら誰もいなかった。
「なんでこんなとこに呼び出したんすか?」
「それを今から話す」
そして、フリードさんは語り出した。
ライルは、フリードさんから放たれる言葉を信じられなかった。いつもなら反論していただろう。しかし、今回ばかりは反論したくても、出来なかった。
「わかったな」
様々な疑問が残る中で、ライルは頷くことしか出来なかった。
そして、事態は大きく動き出す。
私の運命の分岐点は、すぐそこまで迫っていた。あの日、あの時まで残りーー1日




