服で着飾る
今回は比較的平和な話です
ーー朝、宿屋の食堂にて
朝の食事は30人全員でまとまって食べると、他の客から不審に思われるので、何個かのグループに分けて食べさせた。
私の席には、今後の方針を話し合うために、フリードさんとアルラさんが座っていた。運ばれてきた食事を口に運びながら、話を進めることにした。
「それでアリア、婆さまってのはどこにいるんだ?」
アルラさんは、いつものような健康そうな食事を頬張りながら、私に聞いてきた。婆さまは、私が幼い頃、アルデン王家専属の子守り係を務めていた。現在はとある図書館で小さい子達に本を読み聞かせるボランティア活動をしている。
ある程度、王国の重要人物と繋がりを持っているため、一番有力で協力してくれる人物だった。
「今は街の大きな図書館で、小さい子達に本を読み聞かせてるはずよ」
「そこに行けば会えるわけか」
「そういうことね。ただーー」
その図書館まで行けば会えるだろう。だが1つ問題があった。
「婆さまと交渉しに図書館へ行くなら、アルラさんと2人で行くわ」
「それは何故だ?」
今度はフリードさんが私に聞いてきた。何故アルラさんと2人で行くのか、それには理由がある。
「山賊団みたいなゴツそうなメンバーが図書館にゾロゾロ入れば、それこそ目立つでしょ。だからといって私1人で行くのも危ない。だからゴツくなくて目立たず、私の護衛も出来るアルラさんと2人で行くのが適任だと思う」
「なるほど、それが良さそうだな」
フリードさんも納得したようで、深く頷いていた。残りのメンバーには、宿屋で待機か、観光で時間を潰してもらうことにした。
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荷物の準備を終え、宿屋の外に出ると、私のことを待つアルラさんの姿があった。
服装は冒険者というよりは、盗賊といった感じで、悪目立ちしそうな格好だった。私も人のことを言えない格好であり、これで婆さまに会うのは流石にまずいと思った。
「そんなこっちをジロジロ見てどうした?」
「…………男って服とかに無神経なのね。とりあえず服屋に行くわよ」
「え、服屋?って置いてくなよ!」
私は街のメインストリートの方へ向かって歩き出した。
ーーメインストリート
アルデン王国内で最も栄えている場所であり、様々なお店が並んでいる場所だ。魔法屋、道具屋、武器屋、レストランに雑貨店。屋台までも出ている。
かつて、カイルと兵士の方を連れて、ここに来たことは何回かあった。その時は、身分に縛られていたため、自由行動は出来なかった。
そのため、やはりここまで自由に動けるのは初めてのことで、とても胸が踊った。
「ここが噂のメインストリートか」
アルラさんも思わず感嘆の声を漏らした。
確かに人もすごいが、何よりその活気が凄かった。冒険者から、家族連れ。商人もいれば、魔法使いの姿もあった。
今日もメインストリートは大賑わいだ。
「アルラさん、こっちよ!」
「ちょっ、おい!」
私はアルラさんの手を引っ張って、メインストリート1番の服屋まで連れて来た。
店の大きさが通常の服屋の何倍もあり、そこに売られているのは、戦闘モノの服ーーというよりはファッション用の服がほとんどだった。
「全部耐久力低そうだな…」
アルラさんが、壁にかかっている服を見て、そう呟いていた。この平和なご時世、争いが起きることが無かったため、このような服が発達したらしい。
色鮮やかな可愛い服から、かっこいいギャングな服まで、幅広いジャンルの服が存在した。
「これはファッションって言って、自分を着飾るためのものなの」
「自分を着飾る……なんのために?」
アルラさんが不思議そうに聞いて来た。まさか、ここまで無神経だとは私も思わなかった。たしかに男は、ファッションなんてものに興味を持つ人は少ないだろう。
でも少しぐらいは、楽しんで欲しかった。
「いいから、ほら!これ着てみて!」
私が手に取ったのは、清潔感があって、だが少しロックな感じがする、黒色のちょっと変わった服だ。
私は自信満々でこれをチョイスしたが、その服を渡された本人は、微妙な顔をしていた。
「……これを着ろと」
「そうよ。さぁ、着替えて来て!」
アルラさんは着ることに抵抗して来たが、私は無理矢理それを押し切った。渋々更衣室に入るアルラさんを笑顔で見送って、私も自分の服のチョイスをすることにした。
情熱がありそうな赤のセーターや、少し派手なピンクのスカート。清潔感のある青の下着など、色々な服があった。
私はそれを楽しみながら見ていると、更衣室から着替えを終えたアルラさんが出てきた。
「こんなのでどうだ?」
私がアルラさんに視線を向ければ、そこには完全に危ない盗賊のアルラさんから、美少年感溢れる清楚なアルラさんへと変わっていた!
「いいよ、すごくいいよ!」
「そ、そんなに良いのか」
あまりの良さに、勢い余る私に少し距離を取りながら、アルラさんは等身大の鏡を見た。いつもの何かを殺して奪うような気配は、今のアルラさんにはどこにもなかった。
十分にアルラさんのコーディネートを楽しんだ後、次はアルラさんに私の服を選んでもらうことにした。
「それじゃあ、次はアルラさんが私の服を選んでね」
「えっ、俺が選ぶのか!?」
最初は物凄く困惑していたが、また私が無理矢理押し切ると、諦めたようで「わかったよ」と言ってくれた。
アルラさんは、思ったよりも真剣に服を選んでくれていて、1つ1つ丁寧に見ていた。
ふと、アルラさんがとある服に指をさした。それは、胸に可愛らしいリボンのついた私ぐらいのサイズの、白のワンピースだった。
「これなんてどうだ?」
アルラさんは、その白のワンピースを手に取って私の着ている服と重ねると、サイズはぴったしだった。
「これ着てこいよ。似合うと思うぞ」
ファッションに縁がないアルラさんにしては、とても良いチョイスだった。アルラさんは、とても爽やかな笑顔で、そう言っていた。
周りにいた女性の何人かは、アルラさんのカッコよさに惹かれて、目が釘付けになってたりしていた。
実際、私もその爽やかすぎる笑顔には、少しドキッとしたのは内緒だ。
2分ぐらいして私は着替え終わり、更衣室から出た。何かと服を物色しているアルラさんに後ろから近づいて、声をかけた。
「アルラさん!」
アルラさんは服の物色を中断し、私の方へ振り向いた。アルラさんは私の服を見るなり、ポカンとしていた。
「どうして固まるの?」
「あ、いや!そういう訳じゃなくて…」
アルラさんは頭を軽くかいた後、少し恥ずかしそうに私から視線を逸らしながら、私にこう言ってくれた。
「その、すごい似合ってる」
素直に嬉しかった。カイルにも着ている服を見せて、「似合ってるよ」と言われて嬉しかったことは何回かあった。
でも、それとはまた違う。何か別の嬉しさか何かがあった。
恥ずかしそうに頭に手を当てているアルラさんに、私が今心の底から本当思っていることを伝えた。
「ーーアルラさん。今、私とても嬉しい!」
ここまで支えてくれたアルラさんに、多分今までで1番良い笑顔でそう返せた。この時の私は、心の中が幸せで一杯だった。
もしかしたら、カイルといる時よりも幸せかもしれない。そう感じるほどだった。
その笑顔を当てられたアルラさんは、私に今まで見せたことのないほどの良い笑顔を返してくれた。その時だった。
ゴォォーーン、ゴォォーーン!
その鐘の音が聞こえたのは、時計塔の方向からだった。
「!もう12時なのね、急ぎましょ!」
「そうだな!」
それは12時を告げる鐘の音だ。婆さまが図書館にいるのは12時〜12時30分の間なので、急がなければ間に合わなくなってしまう。
急いで服を購入し、婆さまのいる図書館へと向かうのだった。




