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出会い

長らく放置してすみませんでした。

 きっと、これからもずっと、宗一と一緒に過ごす日々が続くんだろう。互いに寄り添い合い、時にはケンカすることもあると思う。けれど、すぐに仲直りして、また同じ時間を共有するんだろう。多分、ううん、絶対にそう。お互いの良いところも悪いところも認め合って、一緒に暮らすようになって、そして家族になる日が来るかもしれない。まだまだ遠い、現実を一切考えていない未来の話だけど、いつかこの夢が叶ったら、嬉しい。

 だから、だからこそ思い出さなければいけない。

 ジリジリと焼き付くような暑さが続いた出会いの夏を。

 例え宗一が忘れたままでもいい。わたしがあの記憶を持ち続ければいいのだから。

 思い出そう。

 まだ幼くて、真っ白だったわたしたちが経験した夏を。

 楽しさや悲しさ、恋や現実、色んなものを知った夏を。

 

「アイスまだ? まーだー?」

 ソファの上で足をじたばたさせ、宙は母親である司にアイスを催促する。気温は現在三十六度を超え、猛暑日に相応しい熱気が辺りに渦巻いていた。こんな日に外へ元気よく出ていった姉、香に対して、宙は「よく外に出ようって思ったなぁ」と半ば呆れていた。最も、当時の宙に呆れるという動詞が語彙の中に含まれていないのだが。

 さて、小学一年生にも関わらず、早々に自堕落な時間を過ごす愛娘に、司はほとほと困ったという顔をした。

「宙ちゃん。お姉ちゃんと一緒に遊んできなさい。走り回った後の方が、アイス、とてもおいしいわよ」

「動きたくなーい」

「仕方がないわねぇ。お姉ちゃんを呼んできてくれないかしら。そしたらアイスあげるわ」

 香は当然ながらケータイを持っておらず、何か言伝があるときは直接話すしか手段がなかった。このまま冷房の効いた天国のようなリビングから、灼熱地獄と形容しても充分に納得できる外へ赴くと思うと、足が重くなるばかりだ。しかし、至高の一品たるアイスを諦め、天国に居座り続け無為に時間を過ごすという選択は、宙にとって外出よりも遥かに苦痛の伴うものであった。

「……わかった」

「そう、偉いわ。じゃあお願いね。車に気を付けるのよ。あと知らない人についていかないでね」

「うん。いってきます」

 石化しそうな足を無理やり動かし、宙は自分との戦いへと出陣したのだった。

 

「お、ねぇ、ちゃん」

「あ、宙。どうしたの? 干からびそうな顔してるよ」

 妹とは対称的な、瑞々しく清々しい顔で香は宙の下へと駆け寄った。宙は地面にへたれ込むと「あついよ。アイス早く食べようよ」と半ば涙目になりながら必死に訴えた。宙の言葉の端々から色々と情報を読み取ったらしく、香は「お疲れさま。みんなで一緒にアイス食べようね」と慰めた。涙を拭い、香を支えにして再び立ち上がると、宙は見慣れない、こちらを見て一人ぽつんと立つ男の子を視界に収めた。

「お姉ちゃん。あの子、だれ?」

 男の子から見えないように香に隠れ、ひそひそ話をする音量で宙は訊ねた。香は忘れていたようで、慌てて男の子に宙を紹介した。

「この子、あたしの妹なの。宙っていうの」

 宙は「彼は友達なのだろうか」と香にしがみつき、警戒しつつも男の子をじっと観察する。宙の観察眼によると冴えない普通の男の子だった。

「宙。あの子は神崎そーいちくん。あたしのお友達よ。だから怖がらないで」

 髪をすくように宙の頭を優しく撫でる。大丈夫だよ。ちゃんと挨拶なさい。姉の気持ちが宙の中へと直に伝わってくる。おずおずと宙は男の子の前に出て、「こんにちは。はじめまして。宙です」と小さいながらも自分の声で宗一に自己紹介した。これが初めて宗一に話し掛けた言葉だった。緊張した声音を感じ取り、宗一は少し開いた身長の差を埋めるように僅かに膝を曲げ、晴れやかな笑顔で口を開いた。

「僕は神崎宗一。よろしく、宙」

 宙が聞いた彼の第一声は、このよく聞きがちな二言だった。まさか、今後の人生に宗一が大きく関わることになるとは、この時宙は思ってもみなかった。

改めて、長らく放置してすみませんでした。


一か月か、二か月に一度の更新になりそうです。

伏線回収、前日談を書いていきます。

では(・ω・)ノシ

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