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夢と願いの学園恋歌  作者: surteinn
エピローグ
39/44

10月6日

本編最終話です。

 夕食後、文にいつもの感謝の念を伝えた後、自室に戻ってベッドに寝転がる。

 「何してんだろ、俺」

 宙から告白を受けて早くも一日が過ぎようとしている。今日は宙と一度も会うことがなかった。別に珍しくはないのだが、人間は不思議なものでそこに関係性があるように感じてしまう。宙は俺に愛想を尽かしていないのか。自分の状況を客観視してみる。考える前から分かりきっているが、やはり俺は優柔不断なやつに見えるだろうし、事実そうなのだと思う。

 天井を見ながら今日も宙のことを考える。

 宙の表情は真剣そのもので、その想いは並大抵のものではないことが見て取れた。だから、だからこそきちんと考えた上で答えたい。

 でも、俺は果たして宙の気持ちを、とてつもなく大きな心を受け止められるのだろうか。その自信が、俺にはない。

 昨日答えに躊躇してしまったのは、きっと俺に覚悟がなかったからだ。宙の気持ちに応える覚悟が、宙と恋人同士になる覚悟が。このちっぽけな存在の俺が、大切な人を守れる覚悟がなかったから。結局は言い訳に過ぎないことは百も承知だ。

 うじうじと悩んでいると、ドアを叩く音が耳に届いた。

 入っていいよと言うと、失礼しますと中に文が入ってきた。俺は起き上がり、ベッドに腰掛ける。

 「何かあったか?」

 「ううん。わたしには何も」

 わたしには。意味ありげに言われた言葉が、微妙に引っかかったがすぐに思い当たる。

 「俺のことか」

 「うん。最近、といっても昨日からだけど、様子がおかしいと思ったから」

 「……心配してくれてありがとう」

 「いいの。だって……幼馴染なんだから。それで何があったの? もし嫌じゃなかったら教えて。二人の間に何があったのか」

 二人の間と言ったからにはおおよその見当がついているのだろう。

 文は座るね、と断りを入れてベッドに腰を下ろした。自然と二人並んで座る形になる。昔は公園のベンチとかで、よくこうして並んで座っていた。四方山話に花を咲かせたり、相談に乗ったり乗ってもらったりしていた。懐かしいと感じた。

 だから、というわけではないが、この場は誤魔化さず、正直に話すことにした。

 学園祭の終わり、屋上で宙に告白されたこと。それに対しどう返答すればいいのか分からない事。これらの事を簡潔に伝えた。

 「そっか。そんな事があったんだ」

 文は扉の向こうを見つめ、俺の話を呑み込んでいた。文の瞳は扉の向こうよりも遥か先を見ているようだった。

 「宗くんは何に迷ってるの?」

 「昨日から今まで、俺はあいつの事が好きなのか考えてた」

 「うん」

 「俺は、あいつの事が好きだ。はっきりとしたきっかけは無いけれど、宙といると、どうしようもなくドキドキする」

 「……うん」

 文の声が少しだけ陰るのが聞こえた。俺は気付かないふりをし、そのまま続けた。

 「でも、怖いんだ」

 「怖い?」

 「あいつの気持ちがさ、俺にとって凄く大きいんだ。本当に俺の気持ちがちっぽけに思えるほどでさ」

 文は黙って俺の話を聞いてくれている。俺の悩みを解決するために、必死に。

 「あいつの気持ちをちゃんと受け止めきれるか不安で。そう考えると俺の気持ちがあやふやなものに見えて」

 「それが、宗くんの悩み?」

 「あぁ。そう、だな」

 時計の音が室内に響き渡る。一定のリズムで時を刻み、不思議と心を落ち着かせた。

 「そっか。そうだったんだね。なら、わたしは……」

 「どうした?」

 そのまま押し黙った文に声を掛けると、何でもないという風に笑顔を見せた。

 「え、ううん。なんでもない。じゃあ、いくつか質問するね。宗くんは、本当に宙ちゃんの事が好き?」

 「うん」

 「どんなところが?」

 「あいつの元気で明るいところ。それで何度か救われた事があった」

 「うん、次が最後ね。宙ちゃんがいない日々を想像できる?」

 「え?」

 質問の意図が分からず、俺は戸惑いを口から零した。文はすぐさま他の言葉に変換してみせた。

 「宙ちゃんがここに来る前の生活を思い出すだけでも良いよ」

 それなら簡単だ、と目を閉じ想起する。

 宙が来る前。文と一緒に過ごす朝は変わらない。和志がいて、奏がいて、時折楓が話しかけて。思い出す。九月の中旬、宙が転向する前の日常を。

 だが。

 出来なかった。たった二、三週間前のことを思い出すだけなのに、ただそれだけの事なのに。思い出そうとしても、どの風景にも宙の姿が当然のようにあった。思い浮かべる日常の、どの日常にも欠ける事なく宙がいた。

 彼女の笑顔が想い起こされる。

 学校での時間、放課後の時間、家での時間、全ての光景で彼女がいる。

 ようやく気付く。

 彼女がいない日々を想像できない。彼女のいる風景こそが俺の日常だった。

 突然俺の手に何かが触れた。

 文の手だ。

 文は俺に手を重ね、諭すように言う。

 「心配しなくてもいいんだよ。宗くんが宙ちゃんを好きだって気持ちは、宙ちゃんの宗くんを好きだって気持ちに劣ってなんかいない。ううん。その気持ちに優劣なんて無い。そんな疑問、元々間違ってるの」

 文の言葉が心に染み込んでいく。

 「だから受け止められるか、なんて考えなくてもいいの。人が人の想いに応えるのに、受け止められるかなんて些末な事だよ。本当に必要なのはただ純粋に好きだって気持ちだけ」

 そうして俺の心は一つに固まっていった。

 「……ありがとう。決心が着いた」

 「お役に立てて何よりです。それじゃあまだ洗い物が残ってるから、下に降りるね」

 文はベッドから立ち上がるとドアを開け、外に出る。

 「また今度、借りを返す」

 「ふふっ。期待してるね」

 文が部屋を出て行った後、部屋に入った直後と同じ体勢で寝転ぶ。

 一方、心の在りようは全く別のものになっていた。

 

 階下へ行き、台所で途中にしていた洗い物を再開する。カチャカチャという音が静かなキッチンに響き渡る。その音をBGMに考え事をしていた。

 先程の事についてだ。

 宗一の悩みを聞き、彼自身の気持ちを知り、そして助言を与えたつい数分前の事。それを思い返す。

 「……私の、負け、かな」

 知らずそんな言葉を零す。

 何というのか。

 幼い頃からずっと抱いていた気持ちが報われぬものとなり、呆然としてしまっていると言うのが一番しっくりとくる。そしてそれを当然とばかりに自然に受け入れてしまっている自身に一番呆然としている。

 何でわたしは告白しなかったのだろう。油断してたのかな。今まで、宗くんと一緒にいるのが当たり前で、ずっと宗くんの隣で人生を歩んでいくのだと考えてたから、結局わたしはこの胸の内を明かさず、彼に想いを届けれなかったかも。

 馬鹿みたい。

 彼の想いが彼女に真っ直ぐ向けられているのは分かってた。彼女は彼の中で想い人で、わたしは彼の中で単なる幼馴染だった。

 何が違っていたのだろう。彼女の方が積極的だったから? 違う。彼女が彼といい距離を保っていたから? 違う。

 つまるところ、わたしが臆病だったから、今の関係を壊したくなかったから、彼の想い人になれなかったのだ。

 視界が歪んできた。あぁ、わたし、今泣いてるんだ。そう意識した途端、涙が止めどなく溢れ出した。

 何でわたしは宗くんにアドバイスしたの? あのままだったら宙ちゃんは宗くんに愛想尽かしてたかもしれないのに。まだチャンスはあったかもしれないのに。

 わたしは何処までも偽善者で、何処までも臆病者で、何処までも大馬鹿者で、

 何処までも宗くんのことが好きだった。


 放課後になり、各々が帰路に着くべく教室を後にする。俺も同様に教室を出て行ったが、向かう場所は他の人とは違っていた。俺が足を運ぶのは屋上、彼女から想いを告げられたその場所で俺は二日間のけじめをつける。歩いている間頭の中で幾つも伝える言葉を考える。

 どれが一番この気持ちを伝えられるか。

 どれが一番相応しいのか。

 何回も何回も考える。しかし、そんな思考を途中で放棄する。考えなくてもいいじゃないか。ありのまま自分の心を相手にぶつける。ただそれだけでいいではないか。

 屋上の入り口前に着く。一旦立ち止まり大きく深呼吸する。そして目蓋を閉じ、自分に問いかける。

 ……大丈夫。

 この想いは、変わらない。

 躊躇いもなくドアノブに手を掛け一気に引いた。

 

 風と陽光が雪崩れ込んでくる。

 一瞬間目が眩み思わず顔を背けた。再び前方を見るとフェンスを背にしもたれかかって、こちらをじっと見つめる人がいた。

 宙だ。

 静かに、しっかりとした足取りで彼女の前に進む。

 「宙」

 「……どうしたんですか。いきなり放課後にここへ来いって言われて驚きましたよ」

 「本当にいきなりでごめん」

 「いえ、何も予定が無かったので」

 「そうか、良かった」

 夕焼けの光を背に、穏やかな笑みを浮かべ佇んでいる。その神々しい光景に目を奪われる。が、すぐに意識を戻した。

 「お前に、宙に伝えたい事がある」

 「伝えたい事……」

 「この前の返事だ」

 それを聞くとやはりというように顔を少し硬くした。

 こちらを見つめる目は不安に満ちている。早く気持ちを伝えなければ。一刻も早く彼女を不安から解き放ってあげたい。不思議と心は落ち着いている。ぶれたりしない。

 「宙」

 「はい」

 ただ名前を呼んだだけなのに、声がどうしようないくらい震えていた。そっか。宙もあの時こんな気持ちだったんだ。不安と期待に押し潰されそうな恐怖と戦ってたんだ。いや、俺なんかよりもずっと、ずっと怖かったに違いない。

 「もし、お前の気持ちが変わっていないのなら、聞いて欲しい」

 

 俺は宙の目を、

 「俺は」

 真っ直ぐに、

 「神崎宗一は」

 しっかりと見て、

 「和泉宙のことが好きだ。この世の誰よりも、宙を愛してる」

 想いを形にした。

 

 宙は目を丸くし、信じられないといった様子でいたが、それも束の間。フェンスから飛び跳ねるようにして離れると、俺の胸に飛び込んできた。

 抱きしめる。

 力強く、想いの強さを確かめるように。

 お互いに何も言わず時間だけが過ぎていく。

 風の音、グラウンドからの人々の声、宙の鼓動や息遣い、温かさ。五感全てで感じているこの時間がとても愛おしい。

 「先輩」

 「何だ?」

 「私、今とても幸せです。幸せ過ぎて、嬉しすぎて、泣いてしまいそうです」

 「俺も、とても幸せだ」

 さらに強く抱きしめてくる宙。それに応えるように強く、強く抱きしめる。俺達はしばらくそのままでいた。

 そのまま、ずっと。


さて、一応ひと段落つきました。

八月の終わりから十月の上旬まで繰り広げられた、ハイテンションラブコメディはこの話をもって終わります。


次からは、毎回宣言している通り、伏線回収ストーリーならぬ、独白編を開始します。

あのキャラの幼い頃の姿や、この人を出るのかよ、みたいなキャラも出していきます。


多分文章量はそんなに多くはならないはずです。多分。


感想、意見などがありましたら、感想フォームまでご一報を。

では(・ω・)ノシ

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