(2)
前期試験、終わりました。
いろいろな意味で。
では本編をどうぞ。
色々と見て回った後、俺たちは宙のクラスの出し物「うらない」へ行くことにした。
中等部と高等部、計六学年が同時に開催する学園祭。もちろんその規模がかなり大きい。とはいえ計画を立ててさえいれば、めぼしい出し物は見てまわることができる。昨日は文と一緒だったため、あらかたの出し物はまわり終えていた。宙も俺と同様、昨日の内に大体の所は見てきたらしい。残してあるのは俺と行きたい場所だと照れた笑み浮かべながら言ったのが印象的だった。目的地に向かう間、占いの内容はどうしますか、やっぱり恋愛ですよね、占うまでもなく先輩との仲は良好どころかバーストです、などの宙の発言を右から左へ受け流していった。
いつも通りの時間が流れていった。
「ついたな」
宙のクラス前までついた俺達は案内人に従い、「うらない」の中へ入った。五分くらいは並ぶかと思っていたが、タイミングは良かったらしく、すんなりと進めた。宙が言うには、この店名が決まる際、最後にエクスクラメーションマーク、俗に言うびっくりマークを入れるか否かで激しい議論が繰り広げられたようだ。何を意識しているのか明白だったため、あえて何も言わないが、後輩達の将来が不安になったことは伝えておこう。
「占って貰う内容はどうする? 宙が決めていいぞ」
「恋愛とかはダメですか?」
「別にいいぞ」
「やった! では、今後の二人の将来はどうなるのか、にしましょう」
「将来、か」
未来何が起こるか分からない。だから占いを参考にしようと考える気持ちは若干ではあるが分かる。しかし、二人の、とはどういうことだ。誰と誰をもって二人と言っているのか。これもまた明白だったがため、あえて何も言わないが、俺の将来が不安になったことは伝えておこう。
「だ、ダメですか?」
「いや、てっきり恋占いって言うものだと思ってたから、何というか、不意を突かれた」
先程の思考を一切考慮していない、しかし本心からほとんど外れてない返答をした。
「ふふふ。わたし達の恋は占うまでもありません。いつでもバーニングです。燃えさかってるのです。ですよね、せ・ん・ぱ・い♪」
宙はルリヒナギクのように笑顔を咲かせ首を傾けた。その所作はまるで猫のようだった。
まもなく、俺達の番が巡り、魔術的な空間とポップな空間が支配する室内へと入った。
結果として、ここの占いは生半可なものではなかった。全てを飲み込みそうな雰囲気をまとった、呪術を実際に行使してもおかしくない風貌の占い師、そして彼女が示した俺達の将来が冗談だと笑い飛ばすにはいささか重たかったのだ。学園祭の出し物としては異常な、楽しむという点では欠けていた。今の感想は恐らくこの子が占った場合のみ抱くものだろう。
俺の将来は、彼女曰く「偶発的な出来事によって道が大きく変わる」らしい。世の中偶発的な出来事だらけではないのか、と訊いたが、どうやらそれとは違うようだ。例えば事故、自然災害、未知の病気など自分の意識ではどうしようもないことを、偶発的な出来事というらしい。そして「今までにも偶発的な出来事に巻き込まれたことがあるはず」と彼女は確信という光を宿した瞳を俺に向けた。
宙の将来は、彼女曰く「親族によって人生が左右される」らしい。大きな決断をする際には関わってくるようだ。彼女の言葉に思い当たる節があるのか、席から立ち上がるときに、宙は決心したかのように力強く頷いた。
「うらない」を出た後、しばらく二人の間に嫌な空気が流れたが、時間と祭りの空気がそれを修復してくれた。
いつも通りの空気に。
いつも通りの二人の空気に。
「今日は本当に楽しかったです」
夕暮れ時になり、そろそろ学園祭が終わりを告げようとしている。宙に連れられ俺は屋上にいた。四方が解放された空間に立つ俺の元へ風がどこからともなく流れてくる。涼しい、心を清らかにしてくれる秋風だった。
振り返るとあっという間の二日間、楽しい時間はとみに流れが速くなる。目に映るこの光景も、大切な思い出の一ページに残り、いつか自分の心の支えとなるのだろう。思い出にしがみつくのではなく、支えにしてこれからを歩んでいきたい。
「あぁ、俺も楽しかった。今までの中で一番充実した学園祭だったよ」
「それって、もしかしてわたしがいたからですか?」
いつもの調子でそんなことを訊いてくる宙。その問いに意地悪な返答をしようか迷ったが、すぐに思い直した。
何故なら、宙が来てからは騒がしい日々が続いたが、楽しい、面白い日々を過ごせているとはっきりと自覚していたからだ。奏や和志がもたらす騒動とは少し違った騒がしさが、妙に心地よいと感じるようになったのはつい最近のことだ。
だから俺はこう返した。
「そうだな。おまえが来てからは毎日退屈しないな。おかげで、何というか、毎日が大事な思い出に感じてる」
心の底から出た言葉は、何の曲がりもせず真っ直ぐ口から紡がれた。
宙は目を丸く開くが、たちまち細める。
「あははっ。ありがとうございます、先輩。そう言って頂けて何よりです」
朗らかに笑う宙の顔は夕日の所為か紅く輝いている。それは何とも神々しくて、儚くて、今にも消えてしまいそうで。俺は神秘的なその在り様に一瞬心拍が早くなる。
「ねぇ、先輩。今日屋上に行きたいって言ったのには理由があるんです」
「理由?」
「そう、理由。ここなら誰も来ないし、落ち着いて話が出来るから」
宙は俺の目をじっと見つめてきた。泣く一歩手前のような顔をしていた。
そして、
「先輩。わたし、和泉宙はあなたの事が好きです」
彼女自身の想いを告げられた。
「……え?」
「出会った時から好きで、どうしようなく好きになって、今はもっと好きなんです。押さえ切れないほど、寝ても覚めても先輩のことしか考えられなくなりそうなほど。だから」
少し俯くと、意を決したようにもう一度顔を上げる。
「わたしと付き合ってくれませんか? わたしは、あなたの特別な人になりたい。わたしを、神崎宗一の恋人にして貰えませんか?」
宙は真剣な眼差しで伝える。冗談でもなく、いつもみたいな軽い感じでもなく、本気の告白だった。
いつもと違う宙の様子、そして生まれて初めて経験する状況に戸惑いを隠せない。
どう答えたらいいのだろう。
どう言えばいいのだろう。
どうすればいいのだろう。
頭が混乱して何も出来ずに突っ立っているしかなかった。
「はい」か「いいえ」。
その二択の内一つを選ぶだけだというのに、何故こんなにも動悸が早くなって、頭が真っ白になってしまうのか。
俺の気持ちは? 俺が宙に対して抱いている気持ちは何なのか。
どう答えればいいのか、どう言えばいいのか、どうすればいいのか。
何を考えているんだ。
もう既に決断したはずだ。昨日の夜の海岸沿いで、俺ははっきりと選択したじゃないか。答えは決まっているのに、決まっているはずなのに、けれど、なかなか声に出せなかった。
「そんな、いきなりこんな事を言われても、迷惑ですよね」
俺が困ってるのだと思ったのだろう。宙は無理に作った笑顔を必死に保って、そう言った。
「いや、そんな迷惑だなんて」
「なので、『今すぐ返事を下さい』とは言いませんから。じっくり考えて、ちゃんと返してください。先輩は優しいですから、わたしに気を遣うかもしれないです。だから、気を遣わないでください。遠慮しないでくださいね。先輩の、正直な気持ちを伝えてほしいです」
俺は自分を殴りたくなった。情けない事この上ない。今更怖じ気づくなんて。宙が俺の気持ちを酌もうとしているのに、俺は宙の気持ちを全く酌んでやれていない。
結局俺は宙の提案に首肯した。
「分かりました。それでは待ってますからね」
屋上のドアが閉まる音を聞き届けてから、俺は屋上のフェンスに寄りかかった。
伝える事は伝えたから。屋上を去る際の彼女の背中はそう言ってるように思えた。
手で目を覆う。
「馬鹿だよ、俺は」
家に帰っても、ベッドに入っても、屋上での事を考え続けた。
結局答えは出ずに朝を迎えた。
宗一が残念な感じになってしまった。
優柔不断にもほどがあるだろ、とsurteinnは思います。
そのまま告白を受けてしまえばいいと思うかもしれませんが、
宗一が悩んでいるある一つのことを取り上げたくて、こうしました。
もちろん二股とか、そういう展開にはなりませんのでご安心を。
さて、学園祭が終了し、残すは宗一の返事と
ぼろぼろ出た伏線の回収です。
途中で出てくる女の子は誰なのか、とか
見知らぬ記憶は宗一の過去なのか、他の誰かの過去なのか、とか
色々回収していくつもりです。
感想、意見などがありましたら感想フォームまで。
では(・ω・)ノシ