第20話:ダイブ・カウントダウン
「おはよう、葵」
大会予選日、朝。
下駄箱でローファーに履き替えていると
隣から落ち着いた声で話しかけられた。
振り返ると、きれいに整えられた黒髪と制服を着こなした
『蓮見 凛』が立っていた。
成績優秀、運動神経抜群、誰にでも優しく気配りが出来る
クラスのアイドル的存在。
周囲の生徒たちが「蓮見さんおはよ~。」「凛ちゃんまたね~。」
と声をかけ、通り過ぎていく。
凛は「おはよう、また後でね。」と完璧な優等生スマイルで手を振ってみせた。
2人は自然な歩調で、廊下を並んで歩きだす。
「......ねえ凛、今日だね。」
「うん、昨日はよく眠れた?」
凛は明るいトーンのまま、隣を歩く私に少しだけ顔を近づけた。
周りから見れば、仲の良い女子高生2人が
朝の挨拶を交わしているようにしか見えない。
「ううん、緊張しちゃって...何度か目が覚めちゃった。」
「私はバッチリだよ。
今夜の予選に備えてコンディションは完璧。」
凛はすれ違う生徒に小さく手を振り返しながら
周囲に聞こえないくらいに声のボリュームを落とし
いたずらっぽく微笑んだ。
「にしてもさ、サブアームの使い方も結構慣れてきたよね葵。
ジャムった時のリカバリーも、切り替えも、コンタクトショットも
総合していい感じになってきたじゃん。」
「う...うん、m1shaさんとの厳しい訓練があったからね.....。
B0risさんにもカスタマイズの心得教えてもらったし....。
大会予選前だからって変えなかったけど、もし予選通れれば
【MPX-K】もまた少し弄ってみようかな。」
「良いじゃん、その時は私も付き合うよ。
......それじゃ、教室行こっか。」
凛は爽やかな笑みを浮かべて前を向き
いつもの優等生の足取りで教室内へと入っていった。
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昼休みの教室。
賑やかな声と美味しそうな弁当の匂いが混ざり合う中
私は自分のデスクでノートを開いていた。
「白坂さん、数学のノート貸して~?」「あ、うん...いいよ。」
クラスメイトと適当に会話を交わしながら
私は無意識に右手の指先を微かに動かしていた。
頭の中で反芻されているのは『SAF』での戦闘感覚。
MPXのグリップを握る感触、軽いトリガーを思いっきり引く感覚
Staccatoを思いっきり引き抜き....敵へ押しつけトリガーを引く。
指先が勝手にトリガーを引く動作を繰り返す。
ふと視線を上げると、教室の中央で女子グループの輪の
中心にいる凛の姿が目に入った。
輪の中で談笑していた凛が視線に気づき、ふっとこちらへ視線を向ける。
クラスメイトから気づかれないように片目を瞑り
優等生スマイルのまま「準備万端」と口パクで合図を送って来た。
私も呆れ半分で小さく笑い返し、ペンを握りなおした。
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放課後、通学路。
下校する生徒やそのまま遊びに行く生徒たちが行き交う中
凛がすっと真剣な目に切り替えて、私を見つめた。
いつもの優等生顔ではなく、SAFでの相棒としての顔。
「予選は32チーム....一発勝負だね。
絶対勝って本選に行こう、葵。」
「うん....!また今夜、ロビーでね。」
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19:20 自宅の自室。
夕食と入浴を済ませ、部屋の照明を少し落とす。
制服から動きやすい部屋着に着替え、デスクの上に置かれた
『イージスリンク』のメタリックな筐体を見つめた。
ピコン、とスマホの通知音が鳴り画面が光る。
『凛:あと40分!!!遅れんなよ!!!
m1shaがカリカリして待ってんぞ!!!』
画面に踊るガサツで豪快な文面を見て、思わず吹き出してしまう。
学校でのおしとやかな姿とのギャップが本当におかしい。
「......ふう、よし。」
スマホを机の上に置き、代わりにイージスリンクを手に取る。
昼までの『白坂 葵』から『AO』へと、脳のスイッチを静かに切り替える。
頭部にしっかりと装着し、電源を入れる。
視界が暗転し、意識が電子の海へと沈んでいく。
予選ブロックの32チームがしのぎを削るサバイバル大会
『セクターZero 奪還作戦』
その予選の幕が、今まさに上がろうとしていた。
暫く更新止まると思います。
再開まで今しばらくお待ちください。
1週間はかからないと思います。




