14話 トリトスのマナー講座
ポルトゥヌス神殿でウォーターの神託を受け、ヘリオンとの魂の絡まりをほぐしてもらい、魔力的な繋がりを整えられた俺は、その後の訓練によって、実戦で使えそうな技をゴズウェルと共に編み出す事に成功した。
そこまでは良かったのだが、気づけば四日間も神殿に籠りきりになってしまっていた。
くたくたになりながらも意気揚々とブルトゥス訓練所に戻った俺を待ち受けていたのは、上位闘士への昇格式について熱弁を振るう、若旦那トリトスさんの『マナー講座』だった。
「ヘリオンさん! 上位闘士になる以上、これまでのようにお気楽な言動は慎まねばなりません」
―――トリトスさんがノリノリだ。
「いいですか? 上位闘士とはまさに訓練所の看板になるのです。皇帝陛下が直々に管理されている大闘技場での試合ですよ?! 明日は大事な昇格式なんですから、しっかりしてもらわないと!」
どうしよう⋯⋯上位闘士は興行師と対等だ。みたいな事を言っていた気もするが、疲れているとか、眠いとか言える雰囲気じゃなさそうだ。
「今後は試合の組み立てや入場時の演出、それだけでなく日頃の態度にも気を配っていただかないと―――ヘリオンさん! 聞いてますか?!」
「は、はいっ!」
「もっと胸を張って、堂々となさってください!」
暑苦しい人情家で博打好きなダモンさんの息子トリトスさん。全然似てないと思っていたけど⋯⋯
これは間違いなく、血筋だ。
「―――新しい武器の案はあるのですか?」
「え? あ……ありません!」
つい反射的に素直に答えてしまい、しまった! と思った時には遅かった。トリトスさんの顔から血の気が引いている。
「あなたの売りは武器でしょう? 『変幻自在の武器使い』、観客はそれを楽しみにチケットを買うわけです。
この後すぐにでもキュクロ鍛冶師長に相談してください! いいですね!」
「あ、はい。すみません」
「今後は貴族との交流も増えるでしょう。ヘリオンさんの名声を利用しようと近づいてくる者だって増えてきます。いつまでもボンヤリしていては困ります。
式典も増えますので所作も覚えなくてはいけませんね。もっと英雄らしく振る舞ってくれなくては―――」
新しい武器か、そろそろ考えて依頼しておかないと⋯⋯
「ヘリオンさん、人々に夢を与えるのも仕事ですからね!」
「は、はいっ!」
そうか、上位闘士に上がるんだ。記念にパティアとオドリーへお礼の品を用意しよう。なんと言っても昇格だものな。
こんな時くらい、いつもお世話になっているお礼に奮発したプレゼントをしようか⋯⋯
どんな物を贈ればいいか悩んでいたら、ジト目のトリトスさんに思い切り睨まれてしまった。
察し良すぎだろ!
この後トリトスさんから、今後は訓練所を代表しての発言と取られる事もあるとか、英雄には英雄らしさが求められるとか、長々としたお説教が深夜まで続いたのだった。
「よーし!起きろ、ヘリオン!!」
「んあっ……」
「んあっ、ではないわ! 執務室でそのまま寝ちまいおって。これから上位闘士の昇格式だぞ!」
え? ダモンさん、今なんて⋯⋯
「さっさと用意せんか! 今日のために理容師も呼んであるからな。その無精髭を綺麗に剃ってもらえ。この日の為に専用の鎧とマントも用意したぞ!」
なんだって?! 昇格式が今日?
トリトスさん、そんな大事な話なら教えてくれてもいいだろうに⋯⋯言ってたかな?
あぁ、鎧にマントか。奴隷闘士時代には考えられなかった装備だ。これまでチュニック一丁で散々、危険な試合をやらされたからな。
投げ矢で脇腹をグサグサ抉られて死にかけた事もあったし⋯⋯
そうそう、死にかけたと言えば『人狼のライカ』
彼女との試合は忘れようがない。
素早い二刀流でそこら中を切り刻まれ、失血死するかと思った。あの時に鎧を着けていたら少しは違ったはずだ。
人狼化してからの一撃については鎧があっても無事では済まないだろうけど⋯⋯
これまでの苦労を思い出して感慨に浸り、うんうんと頷いているとダモンさんから、バシッと頭を叩かれた。
「いでっ!」
「今日からお前は上位闘士だ。期待しているぞ、ヘリオン!」
ここまで来れたのは間違いなく、興行師であるダモンさんの助力あっての事だ。対戦相手だったウェスパシア訓練所に所属していたら、ヘリオンとはいえ使い潰されていただろう。
そう思うと、なんだか熱いものがこみ上げてきて、しわくちゃのダモンさんの顔が眩しく見える。
しっかりと返さないと。彼に感謝を――――
「応!」
毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。
次回は6月19日(金曜)です。
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