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第三百五十八話 vs神戯 NPC

 フォルティシモの【拠点】にある大広間に大勢の人影がある。フォルティシモとその従者、ピアノとその従者、狐の神タマとその周囲を固める狐人族の少女たち、ちょっと異色なのがテディベア。


 フォルティシモと狐の神タマが向かい合う形で座っていて、その他は思い思いの場所と言った自由な雰囲気だ。


 全員にお茶とお茶菓子が行き渡った後、まず狐の神タマが口を開く。


「知る限りのことを教える約束を果たそう。まずは目の前の太陽についてかえ」

「それも重要だが、後回しだ」

「最も重要な話からするのを好むと思っていたが?」

「そうだ。話の優先順位付けが出来ない無能じゃないらしいな。だが、お前の優先順位は俺とは違うようだ」


 フォルティシモは自分が冷静でない自覚があったため、お茶を飲んで自らを落ち着かせるべく湯飲みを持ち上げた。


 フォルティシモの掴んだ湯飲みは、ばきっという音を立てて砕け散り、熱々のお茶がこぼれ落ちる。本来ならカンストSTRでも破壊不能な湯飲みをちょっと力を入れただけで壊してしまう。フォルティシモは神戯の勝利者へ到達した。その影響がこんなところにも出ているらしい。


 真横に座っていたキュウが驚いて耳を逆立てて、急いでタオルをフォルティシモへ手渡した。


「せっかく入れてくれたお茶を台無しにして悪かった」


 フォルティシモはキュウに謝罪をしてから、狐の神タマへ真剣な表情を向ける。


「良いか、何よりも重要な話だ。神戯が終われば、俺が太陽神を倒せば、―――この異世界の住人も、この世界も、キュウも消えるのか?」


 今のフォルティシモにとって、何よりも、おそらく異世界や仕様や太陽神や神戯や“最強”よりも重要な問いかけだった。


「消える」


 それに対する狐の神タマの返答は無慈悲だ。


「あくまでも遊戯盤の住人であるがゆえ、当然の帰結かえ」


 狐の神タマの表情を見るだけで、それが事実なのだと分かった。クレシェンドがあの状況でフォルティシモへ嘘を吐く意味がないので事実だとは思っていたが、改めて突き付けられると再び動揺が戻って来る。


「これだけはクレシェンドに感謝したいくらいだ。この事実をキュウが先に知っていたら、キュウは俺に隠し通して、最後の最後でキュウが消えるなんて、悲劇礼賛物語にありがちな胸糞展開が現実になるところだった」


 キュウの耳と尻尾がぴくりと動いたことを、フォルティシモは見逃していない。


 この異世界ファーアースは神戯を行うために女神が創り出した、ある意味で偽りの世界。神々にとってのゲームの世界だ。その住人がゲームが終わった後は消えてしまうのは理に適っている。どれだけ認めたくなくても、現実だ。


「異世界を存続させる方法を知る限り教えろ。いや、この世界の住人を残す方法だ。それ以上に重要な情報はない」

「ない」


 フォルティシモの問いかけに対する狐の神タマの返答は、一切の迷いがない。最初から想定していたのだろう。


 フォルティシモは思考が冷たくなっていくのを感じる。狐人族の少女たちが一斉に座布団を被って震えだしたのは見ないことにした。


「………今の俺は冷静になったからな。その「ない」の意味は、知らないか存在しないか、どっちだ?」

「悪魔の証明に付き合うつもりはないかえ。わてやお前には、この異世界ファーアースを救う方法は、ない」

「なるほど、知っている上に存在はしてるんだな?」


 フォルティシモはキュウをいつも見ていたからか、狐の神タマの黄金色の動きが感じ取れた。あの黄金色のもふもふの耳と尻尾の動きは間違いない、狐の神タマには動揺がある。


「一つとして、神戯を永遠に続ける方法があるかえ」

「永遠に続ける?」

「そう。あらゆる神戯参加者を抹殺し、あらゆる神の試練を乗り越えれば、理論上、神戯は永遠に続く。クレシェンドが引き延ばしていた方法に近い」

「プレイヤーも神も殺す真の魔王となれば良いって話か。クレシェンドにできるなら最強のフォルティシモにも可能な話なのに、それが無理なのは、俺が神戯の勝利条件を達成したせいか」


 狐の神タマは首肯を返した。


 フォルティシモはカンストした【魔王神】にクラスチェンジした時に、情報ウィンドウのログに流れた文章を表示させる。




> おめでとうございます!

> 参加者【フォルティシモ】

> あなたは神戯の勝利条件を達成しました!


> あなたには【最後の審判】を受ける権利が与えられます

> 【最後の審判】ではあなたが神と成るに相応しい存在かどうかが判定されます

> 終末まで世界をお楽しみ下さいませ




 文章を読んで受ける印象は、異世界ファーアースはフォルティシモが勝って終わるか負けて終わるか。それだけしかないように思えた。


「一つ、と言ったな。他には?」

「神戯そのもののルールを変更する。これには大勢の神々の同意が必要だ。交渉も根回しもする時間がないゆえ、実質的には不可能だろう」


 近衛天翔王光の神戯イコールオリンピックの例えに倣えば、オリンピックのために作られた競技場を、その国ではなく優勝選手の所有物にしてくれと言っているようなもの。交渉や根回しの余地があると言った狐の神タマの常識を疑うくらいだ。


「他、だ」

「これは時間稼ぎだが、お前が死ねば、この神戯は続く」


 フォルティシモはその手段を想像していたので、押し黙るしかなかった。


「それはできません。タマさん、他の方法はないのでしょうか?」


 フォルティシモの代わりに否定して別の方法を問いかけたのは、他ならないキュウだった。


 キュウは自分が消える話をしているにも関わらず、まったく恐怖を感じていないのか、毅然とした態度で狐の神タマと向かい合っている。


「かかか、キュウはフォルティシモのため、自分が命を懸けるのに躊躇いはないはずだろう? なのにフォルティシモがキュウのために命を懸けるのは否定するのかえ?」

「タマさんの言う通り、私はご主人様のためなら命も懸けられます。ですが、私が命を捨てることをご主人様は望まれません。私も、生きてご主人様の御側にいたいです」


 フォルティシモはキュウの言葉が嬉しくなって、キュウを少々強引に抱き寄せて力強く抱き締めた。このまま何もかもを忘れて、フォルティシモとキュウの自室へ戻って世界の終わりまで一緒に過ごしても良いと思えるほどだ。


 それに対して狐の神タマは、キュウの視線から逃れるように扇子で口元を隠す。その行動が狐の神タマのどんな感情から来ているのかは分からないけれど、彼女の感情を動かした気がする。


「とにかく、お前が知る限り、異世界ファーアースの住人を生かすには、神戯を続けるか、神戯そのものをどうにかしないといけないってことだな」

「そうだ。もしそんな方法があれば、それは神戯への、神々の遊戯への挑戦と言えよう」




「フォルティシモ様、私もタマ様へ質問を投げ掛けてもよろしいでしょうか?」


 フォルティシモが狐の神タマの言葉を考えていると、ラナリアから声を掛けられた。


「いちいち俺に聞かなくても、気になったことがあれば随時聞いて良いぞ」


 下位の者は上位者の許可がなければ口も開けない、というのはアクロシア王国の貴族界の常識であって、フォルティシモたちの常識ではないのだが、ラナリアは公式の場では必ずフォルティシモの許可を取る。


 ちなみに公式の場でなければ、ラナリアもダアトやキャロルのように意見をしてくるので、彼女なりの矜恃があるのだろう。


「この世界が、神々が創り出した遊戯盤であり、人も大地もすべて遊戯が終われば消えるものだというのは理解いたしました。しかし神の創造したものと定義するのであれば、この世のすべてが同条件であるはずです。私たちだけが、遊戯が終わり次第消えるとされている理由は何でしょうか?」

「創られた目的の違いかえ」

「創造時点で消滅が運命付けられていたということでしょうか? それでは、私たちが他の被造物と異なった運命を付けられた理由は何でしょうか? 私たちが異質であることの意義は何なのでしょう?」

「答えるなら、神戯を最初に作った偉大なる神が、そう決めたからになるかえ」

「なるほど。疑問を呈する余地のない明確な回答です。ラムテイルお兄様が絶望するはずですね」


 狐の神タマはラナリアの質問に対して、冷静に一つ一つ簡潔に返答を繰り返していた。ラナリアは自分の命や尊厳まで差し出したアクロシア王国が、神々の作った砂上の楼閣でしかないと聞いて冷静さを失うかと思ったのに、そんな様子は欠片も見られない。


「ラムテイル、懐かしい名前だ。NPCの中にも、あれほどの者が生まれてくる」

「キュウさんのようにでしょうか?」


 ラナリアの質問に対して、狐の神タマはただ表情を緩めた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、御作を読みました。  遊びで演劇(ロールプレイ)の舞台設定を準備したよ。  進行のため、一部の役割をNPCに割り振ったよ。  NPCが生命持ったんだけど? 創造者「なにそ…
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