第九話
お待たせしました。第九話です。
どうぞ。
黒い煙が晴れて、中から昇が姿を表す。
「オイオイ、今のは中々効いたぞこの野郎。」
口元から垂れた血を拭いながら口を開く昇。だが誠は、その言葉が嘘だとすぐに分かる。
そしてその直感は正解だ。確かに、拳による打撃のダメージは通っていたが、その次に放った電撃によるダメージは、昇が障壁を張った事でダメージはほぼ完全に防いでしまっている。
その直後、体勢を整えた健太が昇に向けてアサルトライフルの引き金を引いた。
ドガガガガッ!と言う音が響き渡り、人間では視認できないスピードで昇の体を無数の弾丸が貫こうとする。だが―――
「効かねぇよ。」
迫り来る弾丸は、一体何の冗談か全て昇に直撃する前に赤く発光し、消滅した。
驚愕の表情を浮かべる健太に昇は続ける。
「俺にアサルトライフルの弾丸は通らねぇぜ。」
得意げな顔をする昇。
だがそこに―――
「ドヤ顔してんじゃねえっつうのぉ!!」
その横っ面をぶん殴ろうと、いつの間にか立ち上がり、昇に接近していた悠斗が、硬い氷に包まれた右の拳を振り上げる。
だが、右の拳を包んだ氷のグローブが、昇の頬に触れた瞬間、まるでマグマの中に放り込まれたように、一瞬で溶け、蒸発してしまった。
「俺のグローブが!?」
「悠斗!そこをどけぇ!」
信司がそう叫びながら、悠斗の背後から昇に飛び掛り、炎の剣を真上から振り下ろした。
だが、剣は完全に空を切り、信司は大きく体勢を崩した。
そして信司、悠斗の顔面を、昇の両拳が同時に襲った。
2人は勢い良く吹き飛ばされ、俺のすぐそばまで来ると、背中から地面に激突した。
「信司!悠斗!」
俺は二人の身を案じて信司、悠斗の順番に助け起こす。対する昇はくだらなさそうに首をゴキゴキ鳴らす。
「なら!」
そう言った健太はアサルトライフルを投げ捨てると、懐からサバイバルナイフを取り出す。
ナイフの柄を握った瞬間、彼の纏う雰囲気が一変した。
洗練された無駄のない動きで一気に昇に接近する健太。まるで、どこかの軍で長い間訓練を受けたような、そんな動きだった。
「そらっ!」
左の拳が健太を襲うが、流れるようにそれをかわすと、首元めがけてナイフを振りかぶる。
「っ!」
反射的に後ろへ飛び退こうとする昇だったが、右足が動かない。
見てみると、健太が履いているスニーカーが、自分の履いているブーツを踏みつけていたのだ。
「やべっ!?」
「シッ!」
健太は最小限の、それでいて最大限の力を込めてナイフを振り抜いた。
ナイフの刀身は、完璧に昇の首元を捉えた。だが、
「なっ!?」
ナイフの刀身が首の皮膚に触れた瞬間、そこだけ溶解炉に放り込まれたようにナイフの刀身が赤く発光し軟化。無力化してしまった。
「ふん!」
その隙をついて、昇が右手で掌打を健太の鳩尾に突き刺した。
「うぐっ!」
たたらを踏んだ健太に、胴へ全力の前蹴りをかまして追い討ちをかける。
「か、はっ!?」
健太の体がくの字に折れ曲がり、誠のいる所まで吹き飛ばされた。
「健太!しっかりしろ!」
健太を抱きかかえる誠。一時的な呼吸困難に陥っているらしかった。
「オイオイどうした新入生?そんなんじゃ合格はやれんぞ?」
そんな誠たちを見ながら退屈そうに言う昇は、まだ魔法らしき魔法も使っていない。ほぼ全て白兵戦だけで誠達の攻撃を全て受け流してしまっている。
当然だ。昇は何百何千という業魔と戦い、全て勝利を収めてきたのだ。実戦すら経験してないヒヨっ子に遅れを取るはずがない。
今の誠達と昇では、力の差があり過ぎた。
「さて……じゃあ俺もそろそろ、反撃開始と行こうかな?」
昇はそう言うと、開いた右手を頭上に掲げた。
程なくして右手の中に、小さな火の玉が生まれた―――かと思いきやそれがものすごい速さでどんどん巨大化し、最終的には巨大な炎の塊となっていた。
「むぅん!」
昇が気合の掛け声と共に、頭上に掲げられた右手を突き出すと、先程まで右手の中にあった炎の塊が放たれ―――誠たちの真横を通り過ぎ、背後の壁に激突すると、大きな爆発音と爆煙を噴き上げた。
誠が恐る恐る背後を振り返ると、壁には大量の亀裂と焦げ跡が残っていた。
「な、何て威力だよ……。」
同じく後ろを振り向いていた信司が、震える声で呟く。
その声がはっきり聞えた昇が、その後に口を開く。
「いやぁ、すまんすまん。つい結構な出力で炎を出しちまった。」
あはは、と笑いながら昇は続ける。
「今、俺が放った炎の温度は、摂氏1500度だ。もっとも今の俺は最大で2000度まで出せるがな。」
その数字を聞いた時、誠の目が見開かれた。
彼の脳内では、今信じられないことを目の当たりにして混乱しているのだろう。それでも彼は口を開いた。
「地底に流れるマグマの温度を……上回ってんじゃねえか……!」
思わず昇はおっ?と声を出してしまった。
「良く勉強してるね北条君。その通りだ。地底を流れるマグマの温度なんかせいぜい800度から1200度さ。」
そして昇は、ここで己の手の内をさらけ出すことにした。
「俺は火炎系の魔法を操る「魔道師」さ。さっき新井君の弾丸が消滅したのは、弾丸に熱を加えたからだし、野上君のグローブが蒸発したのは、熱の膜を全身に張り巡らせたからさ。っていうかさ……」
そして昇は右手に魔力を集中させる。右手首から先が炎を纏う。
「俺も少し退屈してるんだよね。せっかく手の内を明かしてあげたんだ。だから……」
そう言って昇は、炎を纏った右手を持ち上げて―――
「ちょっとは楽しませろよ新入生共ォ!!」
思い切り横薙ぎに振るった。
巨大な炎の塊が、弧を描きながら爆炎を撒き散らし、誠達に襲い掛かる。
「みんな!左右に散らばれ!!」
そう叫ぶと誠はとっさに電撃を放ち、昇の出した炎の壁に対抗した。
だが、いくら独学で得た電撃魔法とはいえ、昇が放つ上級魔法に比べれば、その力は微々たる物。
「(なめやがって……そんな電撃程度で)」
右手に魔力をさらに込める。
「俺の炎に逆らう気か!!」
誠の電撃はなす術もなくかき消され、先程誠が出したの指示が行き届いていたおかげもあってか、誠の体だけが炎の中に飲み込まれた。
「ほらほらぁ!早く何とかしないと黒コゲに―――」
そこで昇の言葉が不自然に途切れた。
目の前で誠を飲み込んでいた炎が、跡形もなく消滅したからだ。
「なっ!?」
目の前の光景が信じられず思わず声を上げてしまった雫。
だが、驚いているのは彼女だけではない。この場にいる全員が、驚愕していた。
「昇が放った炎が……消えた!?」
そう、先程まで誠を飲み込んでいた炎が、跡形もなく消滅していたのだ。
「あの消え方は昇がやったものじゃない。考えられんが……あの金髪が消しのだろう。」
副団長の推測を、桜花がすぐに否定する。
「ちょ、ちょっと待ってください!お兄ちゃんは日本連合でも五指に入るS級魔術師、賢者なんですよ!?そんなお兄ちゃんの炎が消されちゃうなんて……」
「っ!みんな、見て!」
普段は大人しい秋穂が放った大声に、皆が闘技場を見る。
「何、あれ……?」
楓の言う「あれ」とは、誠の右手の甲に存在した。
先ほどまで何もなかったはずのそこには、極彩色に輝く一つの魔方陣が浮かんでいた。
誠はそれを前に突き出している格好になっている。
「あれは一体……何なんだ!?」
副団長の声に答えられる者は、いなかった。
次回の投稿予定日は10月10日です。
お楽しみに。




