プロローグ
世界は突如表れた魔王によって恐怖に包まれた。
魔王の率いるモンスターの軍勢に人々はなすすべもなく蹂躙された。
その結果、多くの人々が死に、多くの国がなくなった。
人類の絶滅は時間の問題。
人々がそう思っていた時、神からの祝福を受けた者が現れた。
その者こそが勇者と呼ばれる存在。魔王に唯一立ち向かい得る人間。
人類の希望、勇者のパーティーは選ばれし6人によって構成されている。
神の祝福を受けた唯一無二の存在、少女勇者ジャスティーン。
王国随一のエリートであり、全知の天才と言われる賢者、テスタス。
単純な力は勇者をも凌ぐ戦士、アリッサ。
絶大な魔法力を誇る魔法使い、ノコ。
神域に達する癒しの力を持つ神官、リーシア。
雑用、ドヤネン。
たった6人で多くのモンスターを倒し、多くの人々を救った。
その姿はまさに人々の希望。
人類の最後の希望そのものだった。
しかし・・・
ある町でのこと。勇者のパーティーは宿屋に滞在していた。
ある日、雑用ドヤネンはその一部屋に呼び出される。
ドヤネンは部屋のドアを開けたとき、その異様な雰囲気に只ならぬものを感じた。
まず、他の皆が既に旅支度を済ませて部屋の中にいたのだ。
もう出発するなど自分は聞いていなかった。
嫌な予感のするドヤネンが部屋の中ほどまで行く間、その姿を皆がじっと見つめていた。
自分が部屋に入ってから誰も何も言葉を発していない。ただ自分を見ている。
どうしていいかわからないまま意を決して口を開こうとしたドヤネンだったが、それを遮る様に賢者テスタスが口を開いた。
「ドヤネン。お前は俺たちの仲間として相応しくない。故に・・・パーティーを抜けてもらう。」
この嫌な感じの正体はわかったが、言われたことの意味についてドヤネンは全く理解ができなかった。今までそんな素振りは全くなかったからだ。
「え?そ、そんな・・・。え?冗談、だよね?」
信じられないドヤネンは狼狽する。しかし
「冗談でそんなことを言うと思っているのか?俺たちは魔王を倒すために旅をしている勇者のパーティーだ。戦闘力を全く持たないお前は足手まといだと言っているんだ。」
氷のような冷たい目で見下すように、そして突きつけるようにテスタスは言った。
「そ、そりゃ僕は戦う力はもっていないけど、でも、それでも今まで一緒にやってきたじゃないか!・・・皆、皆もそう思ってるの?僕が役立たずだって。」
ドヤネンは、これは何かの間違いか、もしくは悪い冗談だと思い、他のパーティーメンバー達へ視線をやるが、
「そ、それは・・・。」
「ドヤネン君・・・。」
「・・・・・・・・。」
「もう決まったことですから。」
ある者は視線を外し、ある者は真っすぐ見つめながら。またある者は気の毒そうに。
取り付く島もなければ、にべもない。その様子にドヤネンは肩を落とす。
「そ、そんな・・・。」
確かに自分は弱い。でも今まで一緒にやってきた。仲間との関係性も良好だと自分は思っていた。それは自分だけが勝手にそう思っていたのか。
しかし自分は戦闘は弱いながらも他の面では役立たずではなかったはずだ。
もう一度考え直してもらえれば、自分の話を聞いてもらえれば。そう思った。
しかし・・・
「わかったか?今日この時をもってお前を追放する。世界のことは俺たちに任せて、お前は精々達者で暮らすんだな。」
賢者テスタスはその整った端整な顔を崩し、ドヤネンが今まで見たことのないような醜悪な顔でそう言った。
それを見たとき、ドヤネンは理解したのだ。
もう、どうにもならないことなのだと。
人類の希望である6人も心は普通の人間と違いはない。
様々な思惑、誤解、些細な事の積み重ねを経て、仲間の1人であるドヤネンはパーティーを追放されてしまう。
信じていた者達に否定され、拒否された彼は失意の内にパーティーを去り、自暴自棄になり、かつての仲間たちに復讐を考えるに至る。
しかしそんな折、偶然にも不幸な奴隷の少女と出会い、その少女を引き取るところから彼の人生は大きく変わる。
彼の人柄に心酔する女性や気のいい地方領主の一人息子らと出会い、親交を深めた彼は後に辺境の地に移住する。
そこで彼を愛する多くの者たちに囲まれ、気ままなスローライフを営むことになる。
そして彼は世界に名を轟かす程の大人物と成っていくのだった。
一方、彼を追い出した勇者のパーティーはどんな手を講じても彼の抜けた穴を埋めるに至らず、大きな苦労を背負うことになっていく。
ある者は激しい戦いの連続にすり減り、またある者は死に急ぐように戦いに明け暮れ、またある者はそれら全てに責任を感じ心を壊す。
それは結果として魔王の討伐を遅らせ、人類により多くの犠牲を出すことになってしまう。
この話はその原因、後世歴史に記されるに足る程の大失敗である「ドヤネン追放」、その中心となった賢者、テスタスの話である。




