私の、守りたい人。
「無理だよ……俺なんか……」
花田を退治したその日の夜、めそめそと泣く鬼丸を遥と加賀魅が囲んでいた。
「どうしちゃったのこれ。」遥が眉をピクピクと痙攣させながら呟く。
「なんか、鬼丸のお母さん経由でことの経緯を聞いたらしいんだけど……『皆に迷惑かけた』とか『あの時こうしてれば』とか悩んでずっと泣いてるみたい。」
加賀魅は淡々と説明すると、鬼丸の頭を撫でる。
「俺はねー、こんな時こうしてもらえたら元気出るよ!」
「先輩はね!鬼丸はそう単純じゃないの。」
遥はそう言い切ると鬼丸の瞳を覗き込み「あのなあ、あれは100あっちが悪いの!鬼丸に非があったとしたら優しすぎたことくらい。気にするだけ無駄。」と彼なりに励ましてみせた。
「そうだよね、俺甘いんだ。だからいつもこんなことに――」
しかし、鬼丸がさらにへこむので遥の額に青筋が浮かんだ。
「遥どうどう〜ピキッて音が俺にまで聞こえてるってば〜。」
加賀魅が言いながら遥の頭を撫でると、遥は少し落ち着き「今は何言っても無駄かもな。」と口にする。
その時、鬼丸のスマートフォンから可愛いメロディが響く。少し反応したものの、鬼丸は真っ赤な顔でそれをやり過ごそうとした。
「え、鬼丸の着信音こんなんだっけ?」
「いつもはなんか、三味線のロックみたいな感じだった気がする。人によって着信音変えてんだなー。絶対茂木さんからだよ。」
遥と加賀魅のヒソヒソ話に耐えられなかったのか、鬼丸はスマートフォンを掴み電話に出る。
「もしもし……」
【あ!朱天君!?良かった出てくれて!あのさ、急で申し訳ないんだけど……明日の13時、遊園地行かない?】
本当に急な申し出に驚き、鬼丸はスマートフォンを耳から離して暫く硬直していた。
「なん……で?」
鬼丸が意を決して尋ねると、桃子は【伝えたいことあるし、後、朱天君今絶対落ち込んでると思ったから!じゃ、待ってるね!】とだけ告げて電話を切ってしまう。
わなわなと震え「どうしよう……」と呟く鬼丸に、遥は「いや知らねえよ、行きたきゃ行け。」と吐き捨てた。
「これ、来るんじゃない?告白!」加賀魅が輝く瞳で言うと、鬼丸はまた青い顔で丸まってしまう。
「……おい、いい加減にしろ。次は何が引っかかったんだよ。」
再びイラつきだす遥に、鬼丸は「俺……行かない。」と呟いた。
「「はあ?」」
「だって……桃は遥が9年想い続けた人だし……加賀魅先輩にとって1人しかいない普通の恋ができる子なんでしょ。……俺、もう嫌なんだ……誰かから何かを奪うのが……」
震えた声で言い放つ鬼丸の頬を、遥と加賀魅が両頬から強く引っ張る。
「あでででで!なんらよ!」
「あのな……よく聞け。お前は僕たちから桃ちゃんを奪ったんじゃない。桃ちゃんが鬼丸を選んで、鬼丸も桃ちゃんを選んだ。それだけのことだろうが。」と遥が言い、
加賀魅と「たった1人しかいない存在ってのは、鬼丸にとっても同じなんじゃないの?……それでも、『俺たちの為』とか言って……茂木さんから逃げたいのかよ?」と続けた。
「茂木から……逃げ、る……?」
鬼丸は、過去の自分の人生を思い返す。
大好きなサッカーから始まり、様々なことから逃げてきた鬼丸。桃子という、初めて自分を「守る」と言ってくれた少女からも逃げたいのか、そう自分に問いかけていた。
「……逃げ……たく、ない……」
そして、まるで零れたみたいに言葉が鬼丸の口から飛び出す。
「逃げたくないよ……!俺……!桃と一緒にいたい!」
大粒の涙を流しながら言い放つ鬼丸。そして、遥と加賀魅を抱きしめ「皆とも……」と呟く。
「じゃ、行ってこい。」
「すっぽかしたら許さないからね。」
遥と加賀魅はそう言って、鬼丸の背中をさすったのだった。
……
鬼丸は最寄り駅で桃子を探す。そしてすぐに彼女を見つけると、名前を呼びながら駆け寄った。
「行こうか。」
いつ「伝えたいこと」について切り出されるのかと思ったが、楽しく遊んでいる内に時間はどんどん過ぎていく。
「見て見て!朱天君の好きなクマちゃんのぬいぐるみだよ!さっきそっちに売ってた!」
「わーかわいい!ありがとう!写真撮って写真!」
そして、ようやくハッとした。もう時刻は16時を回っており、鬼丸はこのままでは解散する流れになると危惧する。
「あ……のさ。桃、俺……桃に言いたいことあるんだけど、言っていい?」
そう切り出すと、桃子はチュロスを食べながら「なにー?」と緊張感の無い反応を返した。
「俺……やっぱり、桃が好き!この前改めて思ったんだ。今度は俺が桃を守るから……付き合っ」
「ごめん無理」
言い切る前に断られ、鬼丸はショックで固まってしまう。
「……ごめん、言葉が足りなかった。朱天君に必要な言葉はさ、それじゃない気がして……」
先程とは打って変わって真剣と眼差しで見つめてくる桃子。
鬼丸はもう一度息を吸うと、
「俺、これからも桃に守られることがあるだろうけど……!桃が好き。桃からだけは、絶対逃げたくない!だから……俺と、一緒にいてください!」と一息で口にして頭を下げる。
桃子は鬼丸に顔を上げさせると、背伸びをしながら目を閉じた。
鬼丸は緊張しながら顔を近付けるも、唇を逸れて口元にキスをしてしまう。
「あ、さっそく逃げた。」
桃子が不満げに言うと、鬼丸は「ごめん……可愛すぎてだめだった……多分俺、口にキスしたら死ぬ。」とぼやきながら胸をさする。
「じゃ、今は手を繋ぐくらいで許すか!」
鬼丸は、桃子の差し出した手を握る。
手を繋いだ2人の後ろ姿は、どこかとても幸せそうに見えたという――
★ ★ ★ ★
――5年後
「よし!今日はこのくらいで終わりましょうか。」
鬼丸は病院の一室で患者にそう声をかける。
「だめですね、俺……全国目指してたのに、歩けもしなくて。」
患者の少年は悔しそうに拳をにぎった。
「――俺、やっぱりまだやれます!うちのチーム、キーパーできる人あんまりいなくて……!痛みになら耐えられますから、お願いします!」
鬼丸はそう懇願する少年に対し首を振ると、「無理するのは遠回りだから、また明日。今君に必要なのは自分がやらなきゃって無理することじゃなくて、他人を頼ることだよ。」と伝える。
「……めっちゃいいこと言いますね……それ言われたら、無理できなくなっちゃいます。」
「でしょ、俺の大切な人が昔言ってくれた言葉。」
しみじみ噛み締める鬼丸に、少年は「あ、奥さんでしょ?」と口にしながら鬼丸の左手にある指輪を見た。
鬼丸は照れ笑いを返すと報告書を書き進める。
筆箱の中にはなぜか、1本の黒い色鉛筆が入っていたのだった。
これにて一応、全ルート扱いで完結でございます。
猿方は綺麗に終わったなと感じてるので、個別ルートは書きません。
一通り見返したら完結ボタンを押す予定です。読んでいただきありがとうございました!




