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不思議な加賀魅

「遥……それ……?」


私は震えた声で遥の手を指さす。

遥はすぐに手を隠すと

「あっ……ごめーん汚かったよね、俺絆創膏貼り慣れてなくってさ。」

と言って再びうさこうもりの描かれたカラフルな絆創膏を手に貼りなおした。


「傷……昨日、ついてたよね……?」


「やだー。桃ちゃんさ、俺一応男だよ?若い男の回復力なんてこんなもんでしょ、かすり傷くらい一日で治るし。」


遥は言いながら、どこか虚空を見つめている。

いくら健康な男子だからって、たった一日で傷跡も、赤みすら残らないものなのか?


その後何となくお互い気まずくなり、暫く沈黙しながらケーキを食べ進めていた。


……


その後、どうなったのかはいまいち覚えていないが、遥は何事もなかったように「それじゃまたね!」言ってカフェを後にしたような気がする。

私が呆然としながら家に帰ると、母がすぐに出迎えてくれた。


「あら桃ちゃんおかえりー!今日も部活だったの?いつもより遅かったのね。」


母なら……何か知っているかもしれない。

私はそう考え、遥の回復力について尋ねることにした。


「あ、あのさ……私くらいの年代の男の人って、かすり傷くらいならどれくらいで治るもん……?」


「え?あー……どうなのかしら?大体きれいさっぱりなくなるのに3~4日はいるんじゃない?」


母の回答に、私は「やはりあれは異常だったんだ」と確信する。


「じゃ、じゃあさ!例えば……だよ?すっごい回復力の高い魔者っているのかな……?」


「え?あー……そうね……『吸血鬼』なら……或いは。」


私はその名前を聞いて戦慄する。

吸血鬼は魔者の中でもかなり厄介とされていて、穏健な層は人に被害を出さぬよう医療機関等と連携して何とか食事をしているらしいが、過激な奴らは夜な夜な街に繰り出しては人の生き血を吸っているらしい。


加えて魔力も強大で、かねてから退魔師の天敵とされている種族だ。


よりにもよって遥が……そんな訳ない。と思いつつ、「日光が弱点」という遥の性質は吸血鬼の弱点とも一致している。


(退魔部の魔者は……遥だった?)


「桃ちゃん……大丈夫?なんか疲れた顔してるけど。」


「え!?あ、ああ!大丈夫!答えてくれてありがとうね!」


私は母に礼を言うと、逃げるように自室へ向かう。


(気のせい……だよね。きっとそう。)


自室のベッドに蹲りながら、心の中で何度もそう呟いた。


★ ★ ★ ★


(ああ、色々考えてたら眠れなかった……)


遥とケーキを食べた翌日、私は放課後ふらつきながら部室を目指す。

すると、廊下の先からやかましい女子の声が聞こえてきた。


「私じゃだめなんですか!?ねえ!」


(うわ……何よ学校であんな大声出して……修羅場?)


恐る恐る廊下の先を覗き込むと、そこには困惑した表情の加賀魅先輩と必死な様子の女子生徒の姿が見えた。


「……だから……俺にその気はないんだってば。私じゃだめ以前に彼女を募集してないの。」


諭すように、しかしはっきりと加賀魅先輩が伝えても女子生徒は引く素振りすら見せない。

女子相手だからか、加賀魅先輩も強くは出れないようでただ頭を抱えていた。


(仕方ない、恩でも売っておくか。)


私は女子生徒に近付いていくと、そっと後ろから腕を掴む。


「はい、そこまで。うちの部員に絡まないでよね!」


女子生徒にそう言い放つと、彼女は私をギラリと睨んだ。

しかしこちらは退魔師、魔者に比べたら普通の人間なんて怖くない。


「何?文句があるなら屋上で決闘でもしましょうか?」


その言葉を聞いて女子生徒は舌打ちをした後「なにこいつ……きも。」と言って去って行った。


(はん、語彙力のない小物ね。)


勝ち誇った顔で女子を見送っていると、加賀魅先輩が戸惑ったように「ありがとう」と呟く。


「え?ああ……そうですね、10個分くらいの貸しになったかな。」


「いくらなんでも多くない……?」


私の言葉に冷静に突っ込むと、加賀魅先輩はバツが悪そうにこちらを見下ろす。


「何ボーっとしてるんですか?入ろうとしていたのでは……」


「う、うん……そうだね。」


加賀魅先輩と共に部室に入ると、珍しく遥の姿がないことに気付いた。

朱天君はいつもいたりいなかったりがデフォルトだが、ほぼ毎日来ていた遥がいないなんて……


しかもあまり話したことのない加賀魅先輩と一緒なのは少し気まずい。


加賀魅先輩はいつものように奥の長いテーブルに腰掛け、私は部室の扉近くに椅子を置くとそこに座り相談者を待った。


(そうだ、そういえば加賀魅先輩も男子高生なんだし、聞いていいかも。)


加賀魅先輩のシャーペンの音だけが響く静寂に包まれた中で、私は後ろに体を向けながら

「加賀魅先輩に聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

と尋ねる。


加賀魅先輩は少しびくりと体を揺らした後に

「………何?」

とやけに緊張した面持ちで答えた。


「男子高生って、かすり傷が治るまでにどのくらいかかります?」


私の質問が思っていたものと違ったのか、加賀魅先輩は安心と驚愕が同時に来たような表情で

「えっと……どの程度のもん?かすり傷って言っても度合いがあるでしょ。」

とたどたどしく言う。


私は一昨日の記憶をなんとか引っ張り出し、「傷は深くなさそうだけど……血が出てて、かさぶたには絶対なるなって感じでした。」と宙を見ながら正確に伝えて見せる。


「なら、3日か4日はかかるんじゃない?……ていうか、男子と女子で変わるもんなの?」


やはり、現役の男子高生である加賀魅先輩の答えもあまり母の回答とは変わらない。

遥の回復力は、やはり人間のそれではないのだ。


「そうですよね、ありがとうございます。」


お礼を言って再び扉の方に体を向けると、また暫くの沈黙が続いた後で

「……それだけ?」

加賀魅先輩がふいにそう口にする。


「それだけ……とは?」


振り向きながら問いかけると、加賀魅先輩は戸惑った様子でノートを見つめていた。


「いやその……俺のこととか、聞かないの?」


「聞いて欲しいんですか?」


「えっ……ううん!そういうことじゃない!……ごめん、メンヘラみたいな絡みして……」


そう言うと加賀魅先輩は再び手を動かし始める。


(なんだ、好きになるなとか言っておいて距離を詰めたいのか?)


「……聞いていいですか、加賀魅先輩のこと。あの女子、なんか変な様子でしたけど……どうしてあんな絡み方されちゃったんです?」


一応、気になっていたことだ。

あの女子の様子は明らかに普通ではなかった。


「別に……大して話したこともなかったのに急に絡んできて……家の近くにあるコンビニの店員やってて、そのくらいしか関わりないんだ。」


たったそれだけの絡みであんなことに?この男、噂通りかなりモテるようだ。


「そうですか、不審者にはお気をつけて。」


私はそれだけ言うとまた扉に向き直り遥について思考を巡らせた。

吸血鬼は強力な種族でありながら、弱点の多い魔者でもある。


吸血鬼の弱点を遥にそれとなく試して様子を見てみるのが今できる最適解かもしれない。


……


夕方、部室が茜色に染まってきた頃。

そっと席を立つと帰り支度をする。


するとふいにこちらを見ていた加賀魅先輩と目が合い、彼は咄嗟にそれを逸らした。


「……一緒に帰ります?」


尋ねると、加賀魅先輩はこわごわとした様子で頷く。


なにやらずっとビクビクしていて、それでもこちらを気にするような態度がまるで家に迎えられたばかりの猫のように見え、私は(人見知りなのかな)等と考えながら先輩の帰り支度を待ったのだった。

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