2人の魔者?
「あ、あの先輩……!どこに行くつもりですか!?」
暫く身を任せていたものの、私は不安になって加賀魅先輩に尋ねる。
するとようやく先輩の足は止まり、困ったように眉を下げながら「どこ行くんだろ。」と呟く。
(無計画……?)
そして近くにあった公園に入ると、私の手を握ったまま並木道を歩きだした。
「ごめんね、嫌だった……?抵抗もされなかったから連れて来ちゃったけど。」
加賀魅先輩は優しい笑顔を浮かべながらそう口にする。
「嫌ではないけど、次からちゃんと一言断って下さいね。あとそろそろ手を離して下さい。」
そう告げると、加賀魅先輩は「ごめん」と呟いた後手を離す。
「もしかして、私と朱天君が先輩を放置しちゃったから物足りなったとか?……すみません、せっかく誘ってくれたのになんだか夢中になっちゃって……」
「まあそれもあるけど。まだ1人になりたくないなーと思って。あと……今日は色々悔しかったから、悪あがきみたいなもんかも。」
「悔しかった……?」
私が尋ねると、加賀魅先輩は湖の前で足を止め
「鬼丸がずっとスポーツ上手だし、気遣えるし、かっこよかったでしょ……?しかも茂木さんに『可愛い』とか、『好き』とか平気で言うし……」
と拗ねた顔で言う。
「先輩だって簡単に可愛いとか言うじゃないですか。」
失笑気味に反論するも、加賀魅先輩は頬を染めながら「心外。毎回勇気出して言ってるんだぜ。全然簡単じゃないもん。」と口にした。
(そう……なの?適当に言ってるんだとばかり……)
「今日、絶対茂木さんの中で鬼丸の株ばっかり上がってた。……俺だってちょっとカッコつけたかったのに。」
言いながら、加賀魅先輩は抱えてたぬいぐるみ視線を落とす。
「あー……それ、好きなんですか?可愛いですよねうさこうもり!」
先輩の機嫌をなんとか取ろうと、私は咄嗟に彼の腕の中にあったぬいぐるみに話を逸らした。
「俺の為に欲しかったんじゃないもん……」
しかし、加賀魅先輩は一段と顔を歪めて呟く。
「じゃあ、妹さんへのプレゼントとか?」
「……茂木さんにあげようと思ってたやつ。」
「えっ」
口を尖らせながら答える加賀魅先輩。
私は想像していなかったような答えに思わず目を見開いた。
「女の子ってとりあえずうさこうもりが好きなんでしょ?遥とか熱狂してるし。」
「遥は女子ではありませんが……確かに人気ですね。」
「だから……あげたら喜んでくれるかなと……思って……」
ぬいぐるみを睨みながら途切れ途切れに口にした加賀魅先輩は、恥ずかしそうに俯いたまま動かなくなってしまう。
(ああ、だから対決って話が出た時焦ってたんだ。私と朱天君がお金出しちゃったらプレゼントにならないから……)
「ふっ……」
私は思わず笑みを零す。
(この人、こんなかっこ良くてモテるのに、すっごい不器用なんだな。)
そう思うと、少し可愛く思えてしまった。
「笑うなよー……」
加賀魅先輩は顔を伏せたまま震えた声で嘆く。
「すみません、馬鹿にしてるわけじゃないんです。微笑ましくて……」
「嘘だ。絶対鬼丸の方がかっこいいって思ってるんでしょ。今日の俺、ずっと拗ねてばっかだから嫌だったでしょ。」
私は拗ね気味の加賀魅先輩に少し近付くと
「まあその……かっこいいって言ったらそうかもしれないですけど。今ぬいぐるみの話を聞いたら同じくらい先輩への好感度も上がりましたよ。
別にスマートさとか身体能力だけが人間を惹きつけるわけじゃないですから。」
と励ましの言葉を投げかける。
「ほんと……?」
ようやく顔を上げた先輩に、私は「本当です」と返事をした。
「……私ね、恋とかでは全然ないんですけど、すっごく大好きだった友達がいて……
わがままだし、手の掛かる奴でしたが、その子の世話焼いてる時、幸せだったんです。
完璧であることと可愛げのあることってイコールじゃないと思いますよ。」
私は言いながら遥の顔を思い浮かべる。
(朱天君が魔者だと確定した今、遥と加賀魅先輩を疑う理由はなくなった。……仲直りしたいな、遥と……)
そんなことを考えていると、加賀魅先輩は私を引き寄せて「ねえ、今誰のこと考えてる?」と尋ねてきた。
「へ……」
「俺といるのに、俺じゃない人のこと考えてたでしょ。」
さっきまでヘロヘロと自信なさげにしていたはずの加賀魅先輩が、真剣な顔で詰め寄ってくる。
私はそのギャップに思わず頬を赤らめた。
「あ……あのね!スポッチョの時みたいに寂しくて拗ねてるだけなんでしょうけど、
距離感を間違えないでください!私は朱天君みたいに先輩が拗ねたからって抱きついて撫でてあげたりできないんですよ!」
加賀魅先輩を軽く突き放し、自分に言い聞かせるようにそう言い放つ。
(危なかった!何が『俺に惚れないで』よ、勘違いさせるようなことばっかりして……!)
「ご、ごめん……なんか俺、茂木さんへの関わり方全然分かんなくて……!キモかったよね、嫌いになった……?」
加賀魅先輩はしゅんとしながら再び俯いてしまう。
「あー……嫌いにはなってないです!先輩が私に自分に惚れない女だという価値を見出してることは把握してますから、今後距離感だけ気をつけて頂ければ、それで……!」
私がフォローすると、加賀魅先輩は安堵したように顔を上げ
「良かった、嫌われてなくて。」
と呟く。
――その一瞬、彼の瞳がくらい夜の中でぼやりと青く光ったように見えた。
(えっ……?)
……今のは何だ?
退魔部の魔者は朱天鬼丸だと分かった筈。
なのに、どうして今加賀魅先輩の瞳が光ったのか?
普通、人間の目が発光するなど有り得ない。
(光の当たり方でそう見えただけ、だよね……?)
私はそう自分に言い聞かせながら、加賀魅先輩と駅に戻った。
★ ★ ★ ★
先輩と別れた後、私は帰宅した後に部屋に戻る。
そしてベッドに転がりながら、加賀魅先輩のことを考えていた。
(『退魔部には、魔者がいる。』1人だけが当てはまるのだと思っていたが、もしかしたら、先輩も……?もし……もし、遥まで魔者だったら……私は……)
暫く思考を巡らせていると、まるでそれに蓋をするかのように眠気が襲い、私はゆっくりと目を閉じた。
――――
――
(真っ暗……そっか、私寝落ちたんだ。……ってことは、これは夢?)
私が考えている間に、目の前に謎のモヤが現れたかと思うと、そこからぬっと遥が現れる。
遥……に見えるが、少しだけ輪郭がぼやけていて、まるで解像度の悪いスクリーンに映し出された映像のように見えた。
そして、遥は3歩程後ろに下がりこちらをじっと見つめている。
(……何も言ってくれない……)
戸惑っていると、遥は少し躊躇うように視線を泳がせ「ねえ、俺のこと、誰に見えてる?」と尋ねてきた。
「え……遥、でしょ……?」
私が答えると、遥は少し悲しそうな様子で「そっか。」と小さく呟く。
そして、夢の中の空間がぐにゃりと歪んだかと思うと、私は目を覚ました。
「……やば、寝落ちてた……」
時刻は深夜の3時。中途半端な時間に目を覚ましてしまったようだ。
(何だったんだろ、あの夢……)
私は疑問に思いつつも、再びベッドに入り目を閉じたのだった。




