表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第2話 転生して孤児になったけど、なぜか兄と姉が増えた。



「ねえ~マリア、ジャック大丈夫かしら? まだ身体のどこかが痛むのかなあ。あの年齢の子にしては大人しすぎじゃない?」

「お婆ちゃん、ジャックってあんな大人しい子だった?」


 お姉さん二人、デイジーお姉さんとマリアお姉さんの声がキッチンの方から聞こえてくる。

 デイジーお姉さんは22歳。歳明るいブラウンの髪に茶色の瞳。

 マリアお姉さんは20歳。黒髪で薄いグレーの瞳をしてて、デイジーお姉さんは可愛い系、マリアお姉さんは綺麗系(前世でいうところのモデル系)の二人だ。

 狭い台所で三人が食事の支度をしている。


「好奇心は旺盛ではあったけども、ウィルほどやんちゃじゃなかったねえ」

「あ~……ウィル兄さんはねえ」

「想像ができる」


 僕はそーっと、キッチンを横切って、牧場の放牧地に出た。

 僕の前世は大人だったけど、日が経つにつれて、前世の記憶が薄らいで、思考や言動が幼くなってるけど、これはそういうものなのかと、最近納得してる。

 放牧地の一角にダンジョンができたので、ダンジョンの入口に向かって歩く。

 後ろから大きな犬がついてくる。

 この犬はすごく賢くて、放牧した牛を追いたてて、牛舎に戻してくれたり、柵越えする牛を知らせてくれたりと、お爺さんのお手伝いをしていた。

 名前はボス。

 牛が言うことを聞くからお爺さんがそう名前をつけたらしい。

 見た目は前世でいうところのバーニーズ・マウンテンみたいな犬種だ。

 もふもふしてる。性質も似てるかもしれない。

 僕はボスにしーって口に指を立てると、すりすりと僕にすり寄って伏せる。

 乗れって言ってるみたいなので、いいのかなと思いながら、僕がボスの背にのるとボスは立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。

 途中、牛舎を横切るけど、そこには二人の兄さんがいた。ウィル兄さん――多分、この老夫婦に一番はじめに引き取られて、冒険者になった言わば長男みたいな人で、年は25歳。冒険者をやっている。メルクーア大迷宮っていう大きなダンジョンにも潜っているらしい。

 そしてそんなウィル兄さんとお話してるのがアーサー兄さん、同じく冒険者になった次男っぽい人で年齢は24歳。


「なあ、ウィル……ジャックのやつ、大丈夫かなー? 頭打っただろ?」

「気が付いての最初の一言が『ここはどこ、ぼくはだれ』だもんな……マリアも、一時的記憶の混乱までは治せないらしいぞ」


 え、マリアおねえさんが治すってどういうこと? お医者さんなの?


「だよねえ」

「ユジンはどうした?」

「あいつはとりあえず、朝一でサンクレルに戻った」

「こっからサンクレルって歩いて一時間半はかかるからなー」

「隣のマシューさんが毎日サンクレルに行くから便乗させてもらったらしい」

「いつのまに?」

「爺さんの葬儀の時に交渉したらしいぞ」

「ジャックが来るまであいつが一番年下だったけど、あいつ、そういうところがちゃっかりしてるというか……」


 ちなみに……ユジン兄さんはサンクレルの方で工務店にお勤めの19歳だ。

 冒険者ではなくて、この人は職人の道に進んだらしい。

 朝早くこの家を出て行ったのを僕は知ってる。

 ウィル兄さんとアーサー兄さんがいる牛舎を横切って、放牧地の端にできた、小さなダンジョンの前までいく。


 放牧地の端のところにダンジョン……。

 規模の小さい牧場だけど、放牧したとき、牛が入り込むのはちょっとなあ。

 ここに牛が入り込まないように柵をつくらないとダメだな。

 ボスも入っちゃダメだよ?

 ダンジョンの入口は穴ぼこみたいになっていて、土の形が、階段みたいに下へ誘う形状。

 このダンジョンが出来た時は、垂直な落とし穴っぽい感じだったのに、わずか数日でここまで自然に形状が変わるのか。

 地上からの高低差はだいたい三メートルか四メートルぐらいだったと思う。

 お爺ちゃんは引き上げられた時はまだ息があったけど、しきりに僕の名前を呼んでいた。

 ちょっと泣きそう。

 大人にそんなに大事にされたこと、前世のこのぐらいの年ではなかったから。


「ジャック――飯ができたってよー、ここにいたのか」


 ウィル兄さんが僕に声をかけてくれた。

 僕は顔を上げる。

 ウィル兄さんの赤い髪が風に吹かれていて、ゆるく揺れる。


「なんだ、ボスに乗っかってるのか、お前ぐらいだとボスに乗れるかあ……ちょっといいな」


 犬の背に乗るのって、小さい子にとっては夢だよ。

 馬じゃないところがポイント。


「……うん。ここ、ボスとか牛が入らないように、さくを作る……」

「あーそうだなー」

「ぼくつくる」

「うん、俺も手伝おう」


 手伝おうとか言うんだ。自主性を重んじてくれてるのかな……。


「ウィルにいさんは、ダンジョンにもぐらないの?」

「潜るよ。今調整中だから」

「ちょうせい……」

「ダンジョン攻略っていっても、準備必要なんだよ」


 まあそうか。


「どうして……ここにダンジョンができたんだろ……」

「ダンジョンの仕組は謎だからなあ……ここは、メルクーア大迷宮と近いし、こういった小さいダンジョンの出現はあちこちあるらしい」

「そうなの?」

「うちはまだましさ」

「まし……」

「爺さんの命とお前の記憶が犠牲にはなったけどな……5年前に第四河川にダンジョン出現があった時なんかは、橋梁工事の仮桟橋が一部ダメになったことがあって、死者も多かった……まあその出現したダンジョンが中州を作って、新橋の強度は増したとか言われてるけどな。かなり深いダンジョンになったみたいで、第四河川ダンジョンは俺レベルの連中ならいい稼ぎ場になってる」

「そうなんだ……」

「うちにできたダンジョンも冒険者ギルドに近々申告しないとな。一番最初に潜ったところ、五層までだった。小さいほうだが……これからどうなるかわからないから」


 そういってウィル兄さんはダンジョンの方に振り返る。


「大したダンジョンにはならないとは思うけどな……」


「ウィルにいさん、だんじょんのおはなし、もっとして」

「おー、ジャック、やっぱ大きくなったら、冒険者になるかあ?」


 ウィルにいさんはそう言って、快活に笑って、僕を抱き上げて肩車をしてくれた。

 将来冒険者になりたーいってわけではない。

 僕は知りたいんだ。


 生まれ変わって、この目に入る新しいこの世界のことを――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ