魔女なのに
昔々、あるところに一人の魔女がいました。
魔女の中では、異端の黒髪に紅い瞳持っていた。
魔女は顔を隠すように赤と金の帯のついた紺碧の大きな帽子を被っていた。
その魔女は、誰もいない森のツリーハウスでひっそりと、暮らしていた。
その魔女は薪を取るために今、
「うぉらっ!」
木を蹴り折っていた。
アルカ・アルバス、その魔女はそう呼ばれていた。
「よし、こんなものか」
辺りには、一面蹴り倒した木々が無造作に転がっていた。
「これでしばらくは持つだろう。にしても────やり過ぎた」
毎月に10本、木をなぎ倒していたせいで森だった場所がほぼ平原になっていた。
「このままだと、木が育つ前に荒野になってしまう…………後で考えよ」
アルカは両手に木を持ちながら、ツリーハウスへと足を向ける。
辺りの草木に木が干渉し、大きな音が絶えず森に響く。
誰もいない静かな森、この森に住み始めてかれこれ五年。
刺激の無い生活にも少し飽きてきていた。
無心になりながら歩いていると、鹿が視界を過っていった。
だが、少し様子が違っていた。
頭部の角が光り輝いて、まるで宝石を身に付けているようだった。
「あ、昼ご飯」
アルカは鹿に向けて、持っていた木を投げ飛ばした。
グシャッという音が静かな森で響く。
目にも止まらない勢いで投げられたそれは、吸い寄せられるように鹿の頭部に直撃した。
「よし、お昼ご飯ゲット」
血にまみれた大木を再び持ち上げる。
頭部は原型を失い、皮で辛うじて元の形が想定できるものになっていた。
「あ、やらかした」
アルカはボロボロの頭部を見てハッと思い、言葉をこぼす。
「可食部が……減っちゃった」
少し落ち込みながら、大木の上に鹿の死骸を乗せて歩き出す。
しばらくして、ツリーハウスが見えてきた。
木の板が均等では無い事。
床が一部穴空いている。
柱もまともに立てられていない。
一目で建築初心者が作ったと分かるほどに不格好なものである。
だが、気にしなかった。
屋根がある、壁がある、それだけで良かったのだ。
後はどうにでもなる。
ツリーハウスの下には、見慣れない焚き火の後があった。
大きな音を立てて、大木と鹿の死骸を投げ捨てる。
焚き火の燃えカスに触れると、まだ熱い。
今先程、慌てて消したものに違いない。
「客人……ではなさそうかな」
見渡すも、獣が来たから逃げたというものでは無さそうだ。
「……またか」
アルカは首を右に逸らす。
すると、アルカの耳元が何かをかすって行った。




