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閑話 かりかりおこげ



短いですが、とある梅雨の日の話





梅雨である。

連日、しとしとと降り続く雨は、パクたちの毛皮もしっとりさせていた。

巣にも倉庫にも、湿気は否応なく入り込んでくる。折角乾燥させた薬草がへにゃりとなっているのを見付け、はやてとソラは残念そうに声を上げた。まだ薬効はあるが、このまま作っても長持ちしない。台所に移してみよう、とソラはへたってしまった薬草をカゴに集め、一足先に巣へ。入れ替わりにしらゆきがやってきた。


 「なぁう、」


 「にぃ」


空気入れ替えの小窓を閉めて、しらゆきは小さな小さな火球を出す。はやてがその周りに風を巡らせ、倉庫に温風を行き渡らせる。湿気は飛び、からりとした空気になった。ふたりは喉を鳴らし、ささっと出る。

梅雨の時期は、こうして毎日確認している。放っておくとカビてしまう時もあるからだ。

湿気対策には炭がいいと聞き、分けてもらった物も置いてある。しかし、こう毎日降られてしまうと、炭の力に頼り切るのもいけないのだ。


 「にゃあ」


ふたりが巣に戻ると、パクがタオルを手に待っていた。少しの距離だが、今日は本降り。もう毛皮はしっとり、外は少し肌寒いくらいだ。有難くふたりは包まった。

暖炉はすっかり掃除され、今はお休み中。なので火があるのは台所だけだが、巣は充分暖かい。


 「にー?」


 「にゃあにゃ、にゃう」


じゅう、パチパチと音がする。台所から香ばしい匂い。ファスが何か作っているのだ。

この匂い好きにゃ、とパクは喉を鳴らす。おいしい匂い、みんなが好きな匂いだ。今日のごはんは何だろう。

今の時期は食べ物も足が早い。ファスは余らないよう気を使っている。


 「……できた、もう少し冷まして…」


 「ぶにゃぶにゃ」


 「にゃむ!」


 「そうだね……、ソラ、その薬草使ってもいい?」


 「んにゃ!」


 「ありがとう。あと少しでできるから、みんなと待ってて」


ピクピクと耳を動かし、パクは頷くと布巾を取りに行く。ダイチたちもお皿の準備を始めた。器用に体を拭いたしらゆきとはやても参加。じゅう、パチパチと再び音がした。今日はかりかりにゃ!とオネムはうきうきしている。


 「お待たせ、今日もありがとう」


キレイに並べられたテーブルを見て、ファスはにっこり笑う。手にはこんがりきつね色の、丸いモノが乗ったお皿。初めてのモノだ。

パクが首を傾げていると、朝のお米、とダイチが教えてくれた。

円盤の形になったお米は、両面しっかりと焼かれ、油で軽く揚げられている。かりかりだ。

ファスはそれをみんなのお皿に配ると、次はスープを持ってきた。


 「少し割って、スープをかける」


かりかりを、とろりとしたスープが包む。ふわと優しい湯気が上がった。


 「刻んだ薬草もかけて……、はいどうぞ」


 「にゃあ!」


ふうふうと冷まし、ぱくりと一口。かりかりとふやふやが丁度いい食感、スープの優しい味と香ばしさがぴったり。

パクたちは尻尾をぴんと立てたまま、夢中で食べ続けた。気に入ってくれたとよく分かる姿。

ファスは嬉しそうに、にこにこと見守っている。


 「にゃう?にゃー」


 「おこげっていうんだよ。お米、このままじゃ余ると思って……こうして焼いて保存してたの、思い出したんだ」


お米が重ならないように平たく焼いて、風通しのよい所で乾かしておくと長持ちするという。

おこげ。パクたちはゴロゴロと頷き合う。また好きなものが増えた。


 「ぶに!」


 「おかわりだね、待ってて」


 「なう、にゃおぅ?」


 「そのままでも食べられるよ。でも、まだ熱いから気を付けてね」


梅雨はジメジメ、なんとなく気分もどんよりする。外にも出られない。

でもこうして、ファスがおいしいものを作ってくれると元気になる。

巣の中で、みんなで本を読んだり、撫でてもらいながらのんびりするのもいい。

雨の日は、楽しい。

パクは幸せそうな仲間を見渡して、自分もおかわりをねだった。





お米のおこげ部分、おいしいと思う





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