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37.





 「保護って、そのコ達、まさか酷い目に…?!」


 「あ、ううん!違うよ!調べたけど、体調に不備はないって。怪我もしてないし…。その魔猫はね、研究の為に捕まえたらしいの。ちゃんと魔猫にとって、最高の環境を用意したってその人は言ってた。でも、日に日に元気が無くなって、本も読まなくなって…。ゴハンは、元々食べなかったらしいけど…」


うららはファスを見た。

パクたちは食べているのに、同族が食べないというのはあるのだろうか。ファスは頷く。


 「…パクたちも、魔素を取り込めばいいので、本来は食事はいらないんです。果物とか、木の実とか、自生するものを口にしてましたが、それも魔素を取り入れる為です」


 「そうなの?じゃあ、パクちゃんたちが食べるのって、」


 「何も知らなかったものですから、俺が勝手に…。作ったものにも、魔素はあるらしいので食べてくれるんです。その内に味覚が目覚めたのか、今の通りです」


最初は、本当に味覚というものがなかったそうだ。苦い薬草も平気な顔で、もしゃもしゃしていた。つられて口に入れた子供時代は、大変な目にあっていたという。

カイは呆れた様子でうららを見た。


 「魔物が人を喰らうのは、内包する魔素を吸収する為だって知ってる筈だろ」


 「ゔ…、だってパクちゃんたち可愛いんだもん。魔物ってこと忘れちゃう……!」


 「話は戻すが、魔猫に知識だけ与えていた訳ではないんだな?世話はしていた、と」


 「でも多分だけど、話を聞く限りじゃ、やっぱり『魔物』って括りに入れてたんじゃないかって思った。悪い人ではないと思う。自分から要請だして、助けを求めたくらいだから」


魔猫は、酷い環境で生活を強いられていたのではない。捕まえた当初は警戒され、逃亡されそうにもなったが、知識……図書室を見せると喜んだという。

それからは大人しくしていたので、安心したらしいのだが…。


 「今日会ってきたの。…全然元気なかった。本を見せても、外に出してみても反応無くて。…なんだか無気力になってるみたいに見えた。師匠達も、色々調べたりしてたんだけど……それで、ね?ファスさんなら、何か分かるかもって思って…」


 「おい、うらら…」


 「言ってないよ!だから、アドバイスだけでも……」


 「……そのコたちを見ない事には、分かりませんが……内面、なのかも」


首を傾げるうららに、パクたちについて説明する。

仲良くしているが、それぞれ性格が違う。ざっくりと言えば、パクとしらゆきは穏やかで、はやてとダイチは活動的。オネムとソラはマイペースだ。

手伝いや薬作りの時は一丸となっているが、普段はやりたいように、好きな事をして過ごしている。


 「パクたちには縛るモノがないんです。今は生活の流れができてますけど…。そのコたちも、外に居たのなら同じだったと思うんです。……もしかして、時間を決めたりしてましたか?」


 「う、うん、言ってた。規則正しく生活できるか、理解力のテストの為に…。あと一度、魔法を使って火事になりかけたから、禁止にしてたって。本にあったのを試そうとしたらしいの。使う時間を決めて、その時間以外は駄目って。もしかしてそのせい?」


 「……、吸収した知識は、すぐ試したくなるんだと思います。パクたちもそうですから。知識だけあっても、実践も何もできなければ、身に付きません。失敗しても、すぐに学習してコントロールできた筈です」


ファスは少し考えるように、下を向いた。


 「つまらなく、なったんじゃないかな…」


 「え、」


 「せっかく、楽しく魔法の勉強ができたのに、もっと知りたいのに、時間が来て終わってしまう。すぐに試したいのに、やってみたいのに、それができない。外に居た時はできていたのにって、不満が溜まって…何もする気が起きなくなってるのかも」


 「……あるかもな。やっと手応え掴んで、これからって時に止められて。それが何回も続いたら、もういいやって思うよな、人間でも」


 「魔猫は希少だと認識があるせいで、少々過剰に守り過ぎたかもしれないな」


 「じゃ、じゃあ、もう好きなことしても大丈夫って伝えたら、元気になるかな?」


一筋の光明が見えた。やはり、持つべきものは仲間だ。

しかし、ファスの表情は冴えないまま。うららは座り直した。


 「自由になったと、分かっているんですよね?なのに元気がないのは、人間は何もさせてくれないと思い込んでいるのかも……」


 「伝えても、駄目かな…?」


 「…信じられないですよ、中々。思う以上にそのコたちが傷付いているなら、すぐは無理だと思います。恐がっているでしょうし」


確かにそうかもしれない。

ずっと、あれもダメこれもダメと言われ、無気力になるまで我慢させられたのだ。突然、場所も変わって怯えているのに、自由にどうぞと言われても信用できないだろう。

魔猫達の反応は、人間への不信と恐怖からだ。


 「何も、できないのかな…。あのまんまじゃ、せっかく自由になったのに、パクちゃんたちみたいに元気になって欲しいよ…」


半べそで落ち込むうららに、男二人は顔を見合わせ、ファスは考え込んでいる。

何度かためらい、口を開いた。


 「…俺も、力になりたいです。でも、」


勝手に動いて、パクたちに何かあったらと心配なのだろう。魔研預かりとなっている為、外に出すわけにもいかないし、出すとしても誰かが付いてくる。

因みに、逃がすという選択は無い。魔研側としても、手放し難い貴重な存在なのだ。

安全を考えるなら、ファス一人で行く事になるが、魔猫から見れば同じ人間。警戒されるだけかもしれない。


 「ファス、心配なのは分かるけど、無理すんな。とりあえず…、パクたちと相談したらどうだ?急がなくても、魔研に保護されてるなら、安全は保障されてるし」


 「そ、そうだよ!あのコたちは私が守るし、師匠も居るから大丈夫!ごめんね、色々…」


そう、ソラのようにあちこち逃げ回り、魔物に怯える事はないのだ。ファスは深呼吸し、自分を落ち着かせた。少し、焦っていたかもしれない。

トオヤはそれを見て取り、話を進める。


 「ソラの件を考えると、同族に任せた方が解決も早いんだろうが…。魔研の奴等はどうなんだ?うらら」


 「え…えっと、それこそいろんな人が居るよ。でも、情報を外に出すような命知らずは居ないと思う。最高責任者は師匠だから」


 「確か、大魔導士のシド・トーリミウスだったか」


 「うん…。裏切者には制裁をって、笑ってない笑顔で人を氷漬けにして存在を粉々にする人だよ…」


うららは遠い目をしていた。目撃した事があるのかもしれない。

成程、とトオヤは頷く。そこまで徹底されているなら、魔猫保護の件も、限られた者しか知らされていないだろう。ところで、今弟子が話しているのは大丈夫なのだろうか。

そう思ったのは全員で、視線に気付いたうららは、許可は取ったと頷く。

どうにか元気になってもらいたく、彼女は詳しい人に相談したいと直談判。師は連れて来いの一言であったが、なんとか、どうにか食い下がり、直接相談しても大丈夫か許可をもらう許可、を頂いたという。


 「……」


 「……」


男二人の目が冷たい。

うららとて分かっている。結局は魔研に連れて行く事になっていると。言い訳だが、師匠に口どころか、全般で勝てた試しはないのだ。

目を合わせられないうらら、明後日の方向を眺めていた。


 「パクたちと、話し合ってみます。返事はその後でもいいですか?」


 「もちろんだよ!いつまでも待つよ!!」


 「じゃあ…、そのコたちの様子、もっと教えて下さい。ちゃんと眠ってますか?魔法を使う事もないんですか?」


 「えっとね…、」


天の助けとばかりに、うららは熱心に聖母へ状況説明を始める。男達の視線は冷たいままだったが、その内に溜息に変わった。

勝った、と心の中で両腕を天に突き上げるうらら。

だが、反省はしている。




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