36. 時々、魔道具開発研究所
新年ですね。皆様が良い年を送れますように、お祈り申し上げます。
そして今年ものんびり、更新がんばります。
空からちらちらと白い雪。積もるまではいかなくとも、翌日には地面を白く染めている。最近はそんな天気が続いていた。まだまだ、寒い。
依頼がない日は、遅くまで寝ている時が多い。寒くとも、鍛錬は欠かさずやっているのだ。大目に見て欲しい。そんな事を一人で考えながら、カイは未だベッドから出られずにいた。
寒い時はどうしてもこうなる。誰か部屋を暖めてくれないだろうか。
勿論、ファスがいい。彼等が居なくなってから、より寒く感じられる。
大雪で荒れに荒れた王都。いくらか落ち着き、様子を見ていたが、今後はちらつく程度だ。そう読んだパクたち、そうなると巣が気掛かりになる。何度か話し合いをし、そしてついに……、
一人と六匹は、元の巣に帰ってしまった。
まだ山には雪が残っているし、大荷物で帰るのも大変だろう、道は雪で覆われて分からなくなってるかも、春まで居たら……云々。
引き留めたが、彼等の意思は固かった。名残惜しくも、巣まで送り届け、がらんとしたアパートを目にし、終わったのだと実感。しばらくは使い物にならない程、落ち込んでいたカイだった。
しかし、よく考えずとも、別れた訳ではないのだ。二度と会えない所か、王都から一時間と少しで通える距離である。こっちが駄目なら、俺が泊まりに行けばいいかと、なんとか持ち直し、今に至る。
それでも幸せだった分、より部屋が寒々しく感じられるのだ。
「…ファス……」
「…はい、」
「は?」
まさかの返事に、がばと身を起こす。寝室の入り口に、ファスが目を丸くして立っていた。
「起きてたんですね、てっきり寝ているのかと…」
「…え?は?ファス?え?何で?夢?」
大量の疑問符を、矢継ぎ早にくらい、ファスは少々押され気味だが、カイは逃さんとばかりに両肩を掴む。…本物だ。
「あ、あの、声は掛けたんですけど…、勝手に入って、ごめんなさいっ」
「いや、それはいい。嬉しいし。ファスは何で……あ、合鍵か」
「はい…。荷物の中に紛れ込んでいたみたいで、すぐに返しに行かなきゃとは思ってたんですが、遅くなってしまって…」
ファスの手には合鍵。ずっと持ってて構わないと言って渡したのだが、やはりラスボス。同居している間だけと、認識していたようだ。
手強いなー、とカイは思わず乾いた笑い。
「あの、体調悪いんですか?」
「……疲れて寝てただけダヨ」
もう昼である。今の今まで、惰眠を貪っていたとは思われたくはない。カイは目を逸らしつつ、疲労のせいにした。幸い、納得してくれたようだ。冒険者という稼業は大変なのだと、理解しているファスは、心配の色を濃くさせ、カイを見上げている。
「ご飯、食べましたか?まだなら、作りましょうか?」
「え、いいのか?めっちゃ嬉しい……けど、何もないぞ?」
「…実は、市場が開いてたので、少し買ってきました。保存食のお裾分けも。台所借りますね、暖炉も準備しますから、休んでてください」
ファスはすっかり慣れた様子で、テキパキと動き、台所に立つ。その姿を眺め、じんわりと暖かくなっていく室内と共に、カイの思考も動き出す。そして、自分が寝間着姿のままだとやっと気付き、慌てて着替えるのだった。
まだまだ寒いが、春の兆しを見付けた。
融けた雪の間から、逞しくも小さな芽が顔を出している。しらゆきとソラは目を輝かせた。
アオブキだ。これが出ているという事は、春は近い。ふたりはそっと周りを掘ると、一つだけ根元から採取した。カゴに入れると、辺りを見回す。流石にあちこち出てはいない、これからだろう。このコは少しばかり、早起きだったのかもしれない。ソラはクルクルと喉を鳴らしながら、カゴを引っ張る。
まだ山は雪が残っていて、危険だ。余り遠くにはいけない。肉球も冷えてきたので、巣の周りをぐるりと確認し、ふたりは戻った。
「にゃんにゃあ」
「にゃーあ、にゃ」
カゴの中を見せると、みんなの目も輝く。
春が来る、次は沢山の薬草を見付けるんだと、目標を掲げ、ゴロゴロ鳴らし合う。
ファスはまだ帰ってきていないようだ。けれど、タオルや毛布の準備はしてくれている。しらゆきとソラは、早く温まるよう、タオルで拭き、毛布に潜り込む。やはり、巣は格別だ。
「にゃあ」
「にぃ…」
「んにゃー……」
寒いと余計に体力を奪われる。ふたりはすぐ寝入ってしまった。
パクたちは代わりに、アオブキを洗い水に浸けておく。
あの合鍵、多分くれたものだと思うのだ。パクたちは気付いていた。
だから、荷物と一緒に入れておいたのだが、やはりというか、ファスは返しに行ってしまった。もらっておけばと、言ってみたが首を振られた。本人から何も言われていないのだから、と。
あれを返せば、傍目には完全に別れた恋人に映る気が、しないでもない。
「にゃ、」
まぁいいか。とパクたちは頷き合い、冷えた肉球を温め続けた。
「持っててくれよ、それ」
「でも、大事なモノですし、無くしたりしたら大変です」
やはりというか、合鍵を渡された真意に全く気付いていないラスボスに、カイは内心落ち込んだ。鍵を預けるのは、ファスが初めてであるというのに。あの二人に知られた日には、いい笑い者である。
その上、本当に別れたようではないか。まだまともに告白していないのに、失恋した気分になってしまう。
どうやって受け取らせるか。カイはテーブルの脇に置かれた鍵を睨む。
難しい顔で食べているので、不味かっただろうかとハラハラさせている事には気付いていない。
「…あのさ、ファス」
「は、はい」
「ファス、たまにこっちに来るだろ?買い物とか薬売りに」
ラスボスは困惑しながらも、聞いている。
「そん時に、時間があるなら此処にも来て欲しいんだ。勿論、俺が居た方がいいけど、空けてる時もあると思う」
「……?」
「今日みたいに、来てくれると嬉しいし。要は……、友達だしな?!いつでも来てくれって事」
「そ、それは、嬉しいです、けど…」
友達に逃げたカイは、内心で己を殴り飛ばしているが、伝わるものは伝わった。ファスは言葉通り、嬉しそうだ。今はこれが正解なのだ。
「居なくても、くつろいでくれてていいから。まだ王都に慣れた訳じゃないだろ?休める場所があれば、気の持ちようも変わるんじゃないかって思ってさ」
「……ありがとう、カイ。その、じゃあ、何もしないのは悪いので、掃除とかさせてください。余裕があったら、保存食も持ってきてもいいですか?」
「それは全然。こっちこそ助かる。でも、無理はしなくていいからな?」
さり気なく手を取り、鍵を握らせる。これでこれは解決。
ファスは嬉しそうに眺め、大事にしまう。その姿には好意しか感じない。
友人とするには近過ぎる距離にいても、ファスは今まで嫌がる素振りは見せていない。好意か信頼かラスボス故か、カイは測りかねていた。一つ間違えて拒絶されようものなら、助走をつけて断崖絶壁から飛び込む自信がある。
「いや…それは駄目だな。他の野郎のモンになったら耐えられんし」
「?」
「なんもない。おかわりある?」
「はい」
微笑みながら、おかわりをよそってくれたファスに礼を言い、食事を再開させる。
思いがけない朝兼昼食を堪能していると、扉を忙しなく叩く音が。聞き慣れた声もする。
うららだ。ファス達が去ってから、来る事は無かったのだが。
対応するより食べる方を優先するカイと、玄関を交互に見ていたファス、動く事にしたようだ。扉を開け出迎えると、目を丸くされた。うららの後ろにはトオヤも居た。
「あれ、」
「ファス、来てたのか」
「はい、忘れ物を…、どうぞ。カイは今食事中でして」
鍵の件は口にせず、二人を家主の元へ。そのままお茶の準備をする為、台所に立つ。
自然と動くファスの後ろ姿と、食べ続けるカイを見て二人は呆れ顔。
「またおいしそーなの食べてる。じゃなくて、ちょっと相談があってさ」
「珍しいな」
トオヤをちらと見ると、彼もまたうららに呼び出されたらしい。普段とは違って軽装だ。
どう話そうか、と悩むうららの前にお茶が置かれる。
「ファスさんにも、聞いて欲しいんだ。二人に相談してから、ファスさんのトコ行こうって思ってたんだぁ」
「俺も、ですか?…分かりました」
邪魔にならないよう、帰ると告げようとしたファスを引き留め、カイの隣へ促すと、うららは口を開いた。
「私が魔研に出入りできるの、二人は知ってるよね?…魔道具開発研究所っていうんだけど、そこに私の師匠が居るの。魔道具だけじゃなくて、魔法関連の研究はそこでしてるんだけど…。ひと月前にね、保護要請が入ったの」
魔研を知らないファスに、簡単な説明も交えて、うららは今日会ってきたコ達を思い出す。
「師匠達はすぐに動いて、みんな無事に保護された」
どのコも元気が無く、自由になったと知っても、無反応だった。
その姿に、うららの心は痛んだ。大切にされて、元気いっぱいなコ達を知っているから、尚更。
「今、魔研にいるの。魔猫が、五匹…」




