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カモネギッ!  作者: 袋小路梟
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エピローグ

『あ~あ、これで俺の計画もおじゃんだぜ』

「そうですね……全て計画通りでしたのに」

『本当だよな全く。鴨志田悟史があんな事言わなければ、きっと今頃俺は玉座でふんぞり返っていたのに』

「……ですね」

『何もかも計画通りだったんだぜ本当に……。妖虎が鴨志田悟史に一目惚れしたっていうのを狸塚から聞いてさ、ピーンと来たんだよ。妖虎に狂言誘拐をそそのかしてさ、鴨志田悟史を英雄に仕立て上げたのも全て俺の差し金だったんだよ。そして根岸信介に自力で導き出せる程度のヒントを与え、それが狂言であることに気が付かせたんだ』

「そういえば彼の父親は、あなたが所信表明で殺し合いをさせた時、死んでしまったんですよね?」

『烏山家に養子に入って名前が変わったからか、俺がその張本人だとは気付いてないようだがな。でもそのおかげで学園に恨みを持つ根岸信介をこの学園に入学させ、鴨志田悟史に接触させるように働きかけることができた。奴なら鴨志田悟史を利用して群雄割拠システムの頂上を狙ってくると確信していたからな』

「……カンニングの件もすぐに分かっていたのに、あえて気付かぬ振りをしたんですよね」

『所詮ガキの遊びよ。あんな手口に気付かない見抜けないのは大人失格だと思うけどね』

「……で、全てを上手く転がした結果。妖虎様自身に狂言誘拐である事を公表させることに成功しました」

『これであの事件が嘘であることが王国中に知れ渡った。北カントー王国の現体制を覆すほどの、とんでもないスキャンダルだ。しかもそのスキャンダルを起こした妖虎は、一般人である鴨志田悟史に負けるという体たらく。一気に支持率は急降下……のはずだった』

「しかしそこで、鴨志田悟史の所信表明があった。それで全ては狂ってしまったんですね」

『根岸信介の操り人形に成り下がっていた鴨志田悟史が、まさかあの舞台であんな発言するなんてな』

「でも何故、あの所信表明で支持率が下がらなかったんですかね?」

『鴨志田悟史があの所信表明で王国民の心をがっちり掴み、本当に英雄になっちまったからさ。それで、その英雄に惚れこんでしまった妖虎が起こした狂言誘拐が、なんとまぁ肯定されちまったんだ。国民を騙して事件を起こすなんてとんでもないけど、あの男に惚れた乙女心はわかるわぁ~……て具合にな』

「なんというか……馬鹿ばっかですね。北カントーの人達は」

『本当に馬鹿だよ。でもそのせいで、少なくとも鴨志田悟史が卒業するまでは、俺は次期国王ではなく、群雄割拠システム運営委員会長って立場のままさ』

「いいじゃないですかそれでも、まだ若いんですから」

『若いつってももう三〇代の中年真っ盛りだぞ』

「大丈夫ですよ。今はまだギリギリ二〇代後半でいけますから」

『ギリギリってお前、ちょっとだけ本音が混じってるだけに、やけにリアルだな』

「ふふっ……」

『んまぁ結果はどうあれ、お前は良くやってくれた。お前の力がなければ狂言誘拐の話を引き出すことは出来なかったよ。本当にありがとうな』

「勿体無いお言葉です。本来ならば、家が燃え部屋に閉じ込められたあの日に死んでいた命なのです。その命を救ってくださりここまで育ててくれた恩を少しでも返せるのなら、喜んで引き受けましょう」

『相変わらず固い奴だなぁ。狸塚みたいにもっと適当な感じでいけばいいのに』

「あの女は適当過ぎます。だから野木胡桃に共鳴がバレてしまうんです」

『そう言ってやるな。あの後少し遊び過ぎたって反省してたみたいだからな』

「そんなの演技に決まってます。そうすれば許されると思っているんですよ狸塚は――っと、すいません。変態鬼畜メガネが呼んでるんで電話切りますね」

『おう了解。とりあえずお前は、このままあの二人の監視をよろしく頼む』

「分かりました。では失礼しま――」

『――ちょっと待った。最後に一言だけいいか』

「……なんでしょう?」

『前髪……伸ばせるようになってよかったな』

「ふふっ、そうですね。では失礼します」


 ピッと電話を切ると、彼女、那須一与は呼ばれたほうに走り出した。


「何をやっていた那須一与……昼休みに入ったらチーム登録に行くと言っていたはずだが?」


 息を切らして教室の中に入ってきた那須一与に、信介は辛辣な言葉を投げかけた。

 信介はもちろんのこと、悟史、スー、野木胡桃も既に集まっていた。


「すいません。ちょっと用事があって……」

「カモネギCREWより大事な用なのか?」

「まぁまぁ信介いいじゃないか。これからいけば充分間に合うしさ」


 悟史が横から割って入ると、憮然とした表情ではあるものの信介は黙って立ち上がった。

 ヤタガラスとの一戦から、信介は多少那須一与に対する接し方が大分変わっていた。

 実際あの戦争で勝利できたのか彼女のおかげでもあるし、さらにそこから派生したとある恩恵にあずかっている身なので、信介にとっては足手まといではなく、大事な駒に昇格しているようだ。

 教室を出ると、あたりがザワザワとし始めていた。

 まだ未登録ながらも、カモネギCREWは今や学園全体の注目の的である。

 その五人がそろって歩いているのだから、目を引くのも当然だった。

 しかしその中で一番目を引いているのは、常にリーダーである鴨志田悟史でも、常に着ぐるみを纏った野木胡桃でもなく……切り過ぎた前髪しか特徴のない那須一与であった。


「あの……那須一与さんですよね!」

「えっ、あ、はい」


 女子生徒が急に那須一与に語りかけてきた。

 目がキラキラと輝いていて、まるでアイドルを見るようだった。


「あの私、カモネギCREWに入るんで……。その、どうかお願いします!」

「あ、いや、それはそのぅ」


 今にも土下座スタイルに移行しそうな低姿勢に那須一与は困っていた。

 悟史や信介の前で同じような事をしていたなと思い返し、少しだけ複雑な気分だった。


「カモネギCREWに入ってくれるのはありがたいが……その件に関してはサブリーダーである私に話を通してもらわなければな」

「ひっ……根岸信介」

「お前がカモネギCREWに入り、貢献してさえくれればいずれ望みはかなえてやる。精進する事だな」


 そう言い残して信介は再び歩き出し、皆もそれに続いていった。

 背後から「ありがとうございますっ」と元気な声が届いたが、その声に悟史は「ほどほどにね」と小さく呟いた。


『キューピッドアロー』


 バラ戦争後、那須一与はこの異名で呼ばれる事となった。

 いや正確には信介によってそう呼ばせることに成功したといった方が正しい。

 那須の放った矢が烏山妖虎の胸のバラに刺さった直前、鴨志田悟史は愛の告白を受けた。

 その映像は当然のことながらカメラに収められ、この学園はおろか、北カントー王国の全国民が周知のことだった。

 その事実を信介は上手く利用し、『那須一与の矢に刺さったものは目の前の人間に好意を持つ』という嘘情報を学園中に流したのだ。

 だがたったそれだけでそんな絵空事を信じる生徒はいない。

 なにより矢が刺さる前に告白を受けたのだから後付に過ぎないという意見で信介の流した噂はすぐに消えかかった。

 しかし信介が黙っているわけがない。

 なんと信介は噂の消えかかりそうな時期を見計らい、実際に一組のカップルをくっつけてみせたのだ。


「実際に好き合っている同士を調べ上げ、軽く脅して強引に告白させただけだ。あとはその最中に那須に弓を引かせればいい。好き合っているのだから当然交際は始まるのだが、周りからしてみれば那須の一射で二人は結ばれたように勘違いするだろう」


 そう語った信介の思惑通りに、学園は動き始めたのだ。

 短いスパンで数人同じような手口で、カップル作りを続けていくと、気が付いた時には那須一与の周りには恋に焦がれる高校生達が群がり始めていた。

 そしてその流れを消さないよう信介は、那須一与の『切り過ぎた前髪』という異名を『キューピッドアロー』に変更させたのだった。

 那須本人には「切り過ぎた前髪なんてふざけた異名ではカモネギCREWには入れられない」だとか「これでその無駄にテカったでこを隠せるようになってよかったな」など言うが、信介は思わぬ収穫に喜びを隠せない様子だった。


「転んでもただでは起きない男だな」


 野木胡桃が歩きながらぼそっと呟いた言葉に信介は満足気に微笑んだ。


「野木胡桃に褒められるとは光栄だな」

「褒めてはいない……人の感情すら自身の駒にするとはどこまでもクズな野郎だと、私は言いたいだけだ」

「やっぱり褒めてるじゃあないか」


 信介はメガネをクイっと押し上げた。


「正直な所、カモネギCREWを結成する上で、一つ問題だと思っていた事柄があったのだ。それは一般の生徒からみると、我がチームには魅力が無いという点だ。悟史がいる限り、珍獣と呼ばれる人種に関しては問題なくチームに引き入れることは出来るが、普通の学生は進んで入っては来ないことだ」


 最初は珍獣さえいればなんとかなると考えていた信介だが、この学園の生徒の大半はごく普通の高校生。

 絶対過半数制度に則ってこの先やっていくとなると、その大多数という巨大な力も侮れないものだと此度の戦いで学んだのだ。


「しかし紆余曲折を経て、我々はキューピッドアローという、人の恋愛感情を自在に操る能力を得た。これは烏山妖虎の持つ権力や、繭美ちゃんの持つ愛らしさに匹敵する強大なものだ。なぜなら恋愛とは精力を持て余した高校生にとって最も重要でかつ関心のあるものだからな……現にそれは好きすぎて狂言誘拐まで起こしてしまう妖虎様の奇行からも見て取れる」


 悟史の顔が赤く染まり熱を帯び始めた。

 結局、あの後から妖虎とは会っておらず、返事もしていない。


「で……どうするんだ悟史。王女様の好意を受けるつもりか?」

「えーと、いやぁそれは……」


 容姿端麗で成績優秀、しかも北カントー王国の第一王女で金も権力もずば抜けている。

 条件としてこれ以上のものはまずない。

 だが人によってはそれがマイナスになることもある。

 悟史のような気弱な小市民などがそうだ。


「気持ちは嬉しいんだけど……やっぱり俺じゃ荷が重いんだよね。一国の王女様と付き合うとか無理だよ」

「勿体無いな。私なら即答で了承だがな」

「貴様の場合は王女の背景にある北カントー王国というものが目的だろうが……」


 野木胡桃が横から口を挟む。

 そんな彼女を見て信介はニタリと厭らしい笑みを浮かべる。


「良かったな野木胡桃。悟史にその気はないそうだ。お前にもまだチャンスがありそうだ」

「チャンス……? って何のこと野木さん?」


 二人が何のことをさしているのかを本当に気が付いていない鈍感な悟史は、野木胡桃の方をみた。

 野木胡桃は信介を睨みつけた。


「……貴様はいつか、私がこの手で殺してやる」

「その前に私が、お前の着ぐるみの下の素顔を晒してやるよ」

「――委員会長室ぞよ! ここでいいぞよね!」


 スーが指した先には、委員会長室と書かれた看板が掲げられたドアがあった。


「開けていいぞよか!」

「絶対ダメ。お前がドアを開けるというだけで、ドア壊しフラグがビンビン立つからダメ」


 キャラが濃ゆい割にはいまいち影の薄いスーを悟史が抑える。

 後ろについてくるケルとベロもワンワンと騒いでいたがそんなの関係ねぇ。


「鴨志田が開けるべきだな。リーダーなのだから」

「野木さん……分かったよ」


 ドアの正面に立ち、悟史は深呼吸した。

 ここを開ければ俺達――カモネギCREWが動き出す。

 トントンと、ドアを二回ノックすると「あい、どうぞ」と適当な返事が聞こえた。


「……失礼します」


 ドアを開けると応接用のソファの上に寝転がっているオッサンの姿が目に入った。


「あの……チームの登録に来たものなのですが――」


 顔を上げながら悟史は説明をしようとしたが、目の前にいる男を見た途端、驚きのあまり声が出なくなった。

 狂言誘拐の際、自分の頭を殴打し気絶させたあのオッサンだった。


「あ……あの時のオッサン!」

「オッサンとは失礼な……ってあれ、君はもしかして鴨志田の悟史くんではないですか?」

「そうですけど、それよりも何でアンタがここにいるんですか!」

「何でって、俺が群雄割拠システムの運営委員会会長がここにいるのは当然だろ」

「えぇ! 運営委員会会長なの! 嘘でしょ!」

「ホントだよ。一応名刺もってるからやるよ」


 なぜかズボンのファスナーから名刺を取り出すと、悟史に差し出した。

 名刺にはキスマークと共に『おさわりパブのエミ』と書かれている。


「あっ、間違えた。これは未成年には刺激の強すぎる名刺だった」


 てへへと気持ち悪い声をあげて照れ笑いするが、悟史はこれが突っ込み待ちであるとすぐに分かった。

 なんてベタなボケをかますんだ、突っ込んでやろうかと思ったが、ここは堪える。

 突っ込んだら負けである。


「……む、スルーするパターンかい。仕方ないな」


 今度はズボンのポケットからクシャクシャになった名刺を取り出す。

 そこには『群雄割拠システム運営委員会会長、烏山炎羊』と書かれていた。

 未だに嘘臭さは半端ないが、この部屋でここまで寛げるのだから、それこそが本物である何よりの証拠だと悟史は自分を納得させた。


「ま、茶番はここまでにして本題に入りますか」


 ソファから立ち上がり、部屋の窓側にある大きなデスクに深く腰掛けた。


「君達を待っていたよ。すぐにチーム登録に来ると思ってたんだけどなんかちょこまかとやってたみたいだね」

「一名ほどふざけた異名の奴がいましてね。それを変えてから登録しにきました」


 悟史の代わりに信介が答えた。

 そして手馴れたように書類を烏山炎羊に渡した。


「君は何度もここに来ているからよく覚えているよ。それに……」


 昔の俺によく似ている。

 言葉にはしないものの心の底で炎羊は呟いた。根岸信介がいればチームは強くなるという確信が炎羊にはあった。

 ただの非情な男というわけではない。

 様々な局面にぶつかっても柔軟に対応できるし、目的のための取捨選択を迷い無く出来る人間はそう多くはない。

 そしてその天賦の才ともいうべき感覚に気付き、ともに歩む道を選択した鴨志田悟史もまた恐ろしい。

 根岸信介の力は認めてくれる人間がいて初めて成立するものだ。

 そこに珍獣に好かれるという才能をあわせもった鴨志田がいれば、自然に使える駒は増えていく。

 そうすれば奴の戦略は、無限に広がっていき、いずれはこの学園どころか、北カントー王国全てを飲み込むほどの広がりを見せる可能性もある。

 その第一歩に俺は立ち会っているのか……これはたまらないな。

 炎羊は誰にも分からない程度で口元を緩ませ、受け取った書類をペラペラとめくって目を通した。

 不備はないようなので、引き出しから印鑑を取り出す。


「さて、最後に一人一人名前を読み上げるから間違っていないか確認してくれよ」


 悟史を始め、五人が一斉に首を縦に動かした。


『地獄の番犬』こと……鴨志田スー。

『キューピッドアロー』こと……那須一与。

『千の着ぐるみを持つ少女』他、三つの異名を持つ……野木胡桃。

『情報屋』の異名を持ち、此度、副リーダーになった……根岸信介。

『珍獣使い』の異名を持ち、リーダーとしてチームを引っ張る……鴨志田悟史。


 五人の顔を覗きこむが、誰もが迷いのない表情をしていた。

 成長したこいつらを手懐けられる自信は正直いってない。

 でもまぁ、自分の思い通りにいかないのもまた面白い。

 炎羊は大きく音を立てて、書類に判を押しつけた。


「群雄割拠システム運営委員会会長の名の下に、以上五名を擁する『カモがネギをしょってCREW』をチームとして承認するっ!」


 この決断が北カントー王国の歴史を大きく動かす事になるのは、また別の話である。


以上で完結です。

続きの構想も昔はあったけど、もう思い出せません。

お付き合いありがとうございました。

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