序章
初投稿になります。
【終盤程に死ネタあり! それでも読んでやるよ、 っていう心の広い方お待ちしてます】
江戸の界隈、男の楽園。そこに集う者共は、一夜限りの夢を見る。
ここは吉原、 女の集う花の園。艶なる音色、 三味の音。しゃらり、 しゃらりと簪揺れて。今日も今日とて夢路に浸る。
吉原は遊郭にて。
「主さん今宵はなにささんす?」
男──桐生誠一郎は甘い声で誘う花魁、雪花を窘めた。
頭に数々の鼈甲を挿し、赤い着物を着た姿はさながら曼珠沙華の化身のように思う。
「何を、 とは? 俺はただ酒を飲むだけでいいんですがね……」
そもそも先の倒幕派を説得するために吉原に来た。それも、私情で。
江戸では将軍暗殺を決行する、という幕府側にとって良くない噂がある。
もし倒幕派の者が主謀者なら、 捕らえることも視野に入れている。
誠一郎は隣りにいる同僚──伊庭八郎に視線を向ける。
「ええ。お役目でないとはいえ、いつ来るかもしれない者たちに隙を作る訳にはいきません。それより──貴方には酌を頼みたいのですが、お願いできますか?」
すっと伊庭が手元にあった盃をやんわりと掲げる。
「あい。しかと受け賜わりんした」
そう言って、 雪花は人好きのする笑みを浮かべた。
赤い雪洞、ゆうらりゆらりと。
からりん、 ころりと鳴り響く。それは唄か幻か。
吉原遊郭、夜は更けゆきて。今宵も極楽の夢を見る。




