転生、そして皮肉な運命
倫理的に大変不愉快な表現、残酷な表現が含まれているので、ご注意ください。
また、ボーイズラブ的要素が後々入ってくるので、併せてご注意ください。
赦さない、赦さない、赦さない。
苦しく深い闇の中、ぎゅっと横になったシーツを握り締める。
息が浅く何度も視界が霞む。信じられない程の下腹部の痛み。
でも、そんなことどうでも良かった。痛いのが憎いのではない、心が痛い。
寝台を囲んだ白い服の人間たちが慌ただしく動いている。
御方様、もう少しですよ、なんて年若い女が涙を浮かべて私の握り締めた拳に触れる。
うるさい、うるさい、うるさい。
ああ、恨めしや、恨めしや。
何度も痛みの波が来ては、気を失いそうになる。
ふと、何かが抜ける感覚がして、何もかもが夢だったかのように、一瞬で視界が真っ白に染まった。
周囲の音も段々と遠退いていく。何も感じない。ああ、眠い。
そこで私の意識は途絶えた。
眠りに落ちるように、穏やかなものだった。
享年十六歳。
私は、生を産み、そして失った。
不思議な感覚だ。本当に不思議な。
自分の目の前にいる仏頂面の少年を見ながら思う。
目線は少し下、私より一つ年上なくせして小さい子どもだ、なんて思う。
豪奢な服を着たキラキラしい子ども。そのくせこの世の全ては詰まらないとばかりの顔をしている。
なんてまあくそ生意気なガキに育ったものだ。
「若様、こちらは私の三男でミハエルと申します。本日から若君の侍従となりますので、如何様にもお使いください!」
おいおいお使いくださいってなんだよ腐ってもお前の息子だぞ!
げんなりして背中を押す父親(仮)を見上げる。にこにこと善人面しやがってこの狸。
若干十歳の息子を自分の出世の為に差し出すなんて本当にどうかしてる。いくら三男だからって酷いもんだ。
差し出される側の若君は興味なさそうな顔してるよ?気付いてる?ねえねえ気付いてる父上?
なんだか見てられなくて、子どもの背後に目をやれば、私と同じ立場であろう侍従ズが立ち並んでいた。
全員で三人。どっかで見たことあると思ったら、権力者の息子たちだった。いや、私の父親も一応伯爵だけど。
一番左で我関せずって顔してるのが公爵の三男坊で、真ん中で欠伸してるのが侯爵の三男坊、んで右側でニコニコしてるのが私の父親と同じ伯爵位の次男坊。
大体若君と同じ年齢くらいなんだろうか。だとしたら私が一番年下ということになるのかもしれない。
流石に十歳は早すぎないだろうか父上よ。
「では、ミハエル。若様によくお仕えするのだぞ。」
うむ、なんてしかつめらしい顔してよく言う。父はそれだけ言うとさっさと帰って行った。
今日から私の住居は、この王宮になるらしい。しかもお仕事付き。
顔合わせは終わったとばかりに若君は真ん中の侯爵の三男坊を引き連れ、さっさと自室に戻ってしまった。
その場に残ったのは、居心地悪い思いをしている私と、義務感か何かで残っている公爵の三男坊と親切心か私のことを任されているのか伯爵の次男坊だった。
始めに動いたのは、やはり伯爵の次男坊の方だった。徐に右手を差し出し、にこやかに笑う。
「ようこそ王宮へ。僕は、ヴィルヘルム・レーヴェンガルト。よろしくね。」
「あ、どうも。」
思わず庶民くさく頭を下げ、握手を返す。
公爵の三男坊も、ついでとばかりに私を見た。
「イヴァン・フォン・ライゼンシュタインだ。用があれば声をかけろ。」
「…ありがとうございます。」
軽く会釈してみるが、内心「これって用が無けりゃ声かけるなってことだよね」なんて思ってしまった。
とにかく自己紹介ムードなので、私も、と二人へ微笑んでみせる。
「えー、ミハエル・ローゼンフェルトです。宜しくお願いします。」
あー、侍従なんてくそくらえだ。
そんな内面はおくびにも出さない殊勝な態度に、イヴァンは一度頷くと去って行き、残ったヴィルヘルムは城の中を軽く案内してくれた。
主に大広間とか庭とか兵舎とか幅広く案内してくれたのだが、正直あまりの広さに何も覚えられた気がしない。
その後、侍従の生活区域まで案内してくれたのだが、使用人たちの区域とは別で、侍従用の宮があり、そこの一部屋が私の自室となるらしい。
今現在若君の侍従は私を含め四人しかいないので、他の部屋に住むのは他の王族の侍従たちらしい。
正直こんな大勢での共同生活は初めてなので、嫌な予感しかしないが、とにかく隣人トラブルだけは避けたい。
ちなみにヴィルヘルムの部屋は私の部屋の右隣で、左隣がイヴァン、向かい側があの侯爵の三男坊らしい。名前は以前どこからか聞いた気がするが忘れた。
他の侍従部屋は少し離れた場所にあるらしく、それぞれの仕える相手によって場所が違うらしい。
全員で何人ぐらいの侍従がいるのか聞いてみたら、「五十人くらい?」なんて答えが返って来て目が飛び出たくらいだ。
王宮はやっぱり規模が違うなぁ、なんて忌々しい思いでヴィルヘルムに御礼を言い、自室へ入った。
部屋の中には実家から持ってきた必要最低限の荷物が既に運び込まれて、何個か箱が置かれている。
荷解きする気にもなれず、実家のものより多少質素なベッドへ腰かけた。
「こんなに広いなんて、知らなかったな…」
窓の外には見事な中庭が見え、貴族たちが何やら優雅に歩いているのが見える。
初めて見る光景に、そういえば“前”はこんなとこ見えなかったな、なんて皮肉めいた気持ちが湧く。
ああ、本当に来てしまったのか。
もう二度と訪れることはないだろうと思っていた、この牢獄に。
キリキリ痛む胸を押さえ、虚空を睨む。
ああ、なんて皮肉な運命なんだろう。
あの子はとてもそっくりだった。
いっそ恐ろしい程に、そっくりだった。
あの男に似てくれれば、まだ救われたのに。
まるで鏡を見ているかのようだった。
「十一年か…。」
私が生まれて、十年。
あの子が生まれて、十一年。
“私”が死んで、十一年。
ああ、忘れがたき、あの恨み。
「…ははっ…ほんと…憎いなぁ…」
“私”を閉じ込め、全てを奪った、あの男。
そして“私”から出て来た、あの子ども。
全て夢なら良かったのに。
陽が傾き、部屋の中が茜色の染まる中、私は歪んだ笑みを浮かべていた。
お付き合い宜しくお願いします。




