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プロローグ

 空は青かった。


 刑務所の中庭から見える空は、驚くほど青かった。


 鉄格子に囲まれた場所から見上げる空など、もっと狭く、もっと暗いものだと思っていた。だが実際には違う。


 雲は自由に流れ、鳥は自由に飛び、風は高い塀の向こうから平等に吹いてくる。


 自由なのは空の方で、閉じ込められているのは自分だけだ。


 それでも、不思議と惨めな気持ちはなかった。


 むしろ清々しかった。


 刑期十五年。


 模範囚として過ごせば、あと数年で仮釈放の可能性もあるらしい。


 そんな話を看守から聞いたこともある。


 だが、どうでもよかった。


 私はベンチに腰掛け、目を閉じる。


 そして思い出す。


 十年前のことを。


 私が復讐を決意した日のことを。


 高城家。


 地方では知らぬ者のいない旧家。


 百年以上続く一族。


 政治家を出し、実業家を出し、莫大な資産を持つ名家。


 その本家の長男だった父と母は、ある雨の夜に死んだ。


 警察は事故だと言った。


 新聞も事故だと書いた。


 誰もが事故だと思った。


 だが私は違った。


 あれは事故ではない。


 殺人だった。


 そして犯人は――叔父夫婦だ。


 父が死ねば利益を得る人間。


 父がいなくなれば跡継ぎになれる人間。


 そんな人間は一人しかいなかった。


 私は長い年月をかけて憎しみを育てた。


 忘れようとしたこともある。


 だが、父の笑顔を思い出すたびに。


 母の声を思い出すたびに。


 胸の奥で燻る火は消えなかった。


 そして祖父が死んだ。


 一族の当主。


 高城家の絶対的な支配者。


 その死によって、一族は久しぶりに本家へ集まることになった。


 私は思った。


 ――今だ。


 復讐を果たす機会は二度と来ない。


 葬儀の日。


 親族が集まり。


 誰もが悲しみに暮れるその日こそ。


 叔父夫婦を地獄へ送る絶好の機会だった。


 もちろん、愚かな方法は取らない。


 刃物も毒も使わない。


 私は事故にするつもりだった。


 誰が見ても不運な事故。


 誰にも疑われない死。


 それを用意していた。


 完璧な計画だった。


 そう。


 あの時の私は、本気でそう信じていた。


 まさか、その計画が私自身を追い詰めることになるとは。


 私は目を開く。


 青い空は変わらず広がっている。


 あの日から十年。


 ここへ来るまでの出来事を思い返すたびに、今でも笑ってしまう。


 人は真実を知っているつもりで生きている。


 だが実際には、何一つ知らない。


 少なくとも私はそうだった。


 だから、これから話すのは。


 私が人を殺した話ではない。


 復讐の話でもない。


 名家の跡目争いの話でもない。


 これは。


 私が信じていた真実が、一つずつ崩れていく物語だ。


 そして――


 私が真実に殺されるまでの物語である。

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