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水と油と固形物

翌日、従業員達は、心配そうに見守りながら、四人が買い出しに行く時を待っていた。店主がバームに金銭の入っている小包らしき物を渡し、バームの肩をたたいた。


「じゃあ、頼んだよ」


「はい、任せてください店長」


その合図と共に、買い出し組は店の大扉を開き、外に出た。振り向きながら、個々に挨拶をしていた。アイドロは友人に、シーヤンは店主に、カエデはキサツやカルナに、そしてバームは、店主のそばにいるカルナに手を振った。しかしカルナは、どうやらバームではなくカエデを見ているようだ。


そんな事も慣れっこなバームは、市場へと向かい始めた。その姿が初めの曲がり道を通った事を確認すると、カルナは店主に聞いた。


「大丈夫でしょうか?いくら間にカエデさんがいると言っても、バームとアイドロの仲は相当なものです。最悪、何も買わないでバラバラに帰って来る、と言う事にはなりませんか?」


「心配ないさ。例えアイドロの奴が仕事を投げても、バームがいる。もしバームが仕事を投げても、アイドロがいる。シーヤンが来るまではずっとあの二人が買い出し係だったんだ、どっちかが欠けても、上手くやるだろうよ」


「だと、いいのですけど」


カルナは心配そうにそう言った。結果としては、カルナの心配は物の見事に的中する。店主が思っている程、バームもアイドロも、仕事熱心ではなかった。





一方、カエデとシーヤンは、嫌な雰囲気の中買い出しに向かう羽目になった。つい先程、店主に行ってきますと、四人全員で手を振っていた事が嘘かのように。バームとアイドロは、互いに嫌味を言い合っていた。


「あーあ、カエデっちがいるから思わず来ちゃったけど、あんたもいるなんて考えてもなかった。やっぱり手伝いはやめたってママに言いに行こっかなー」


「それは奇遇ですね、僕も今日外せない用事を思い出したので、今からでも店長に言いに行って休みたい気分です。元々今日は休みで、カエデさんの初めての買い出しと言う事で昼まで働く事になっていただけですし」


前方を歩く言い争いの絶えない二人を見て、カエデはシーヤンに聞いた。


「ねえシーヤン…あの二人、なんであんな仲わるいの?」


「知らないにゃ、にゃーも最近入ったばかりだから、人付き合いとかも疎いのにゃ」


仕事終わり、誰とも会話をせずまっすぐ家に帰るシーヤンが、到底誤魔化しているようには思えない。

カエデはしばらく、バームとアイドロの様子を見る事にした。

そんなカエデの事も気に留めず、アイドロはバームをさらに責めた。


「あっそう?じゃあ私がカエデっちに買い出しを教えるから、あんたはもう帰ったら?外せない用事があったなら仕方ないから、代わりに買い出し行ってあげる。今日だけ」


「いえ、ですが一度引き受けた仕事を放って帰る事は出来ません。何より今ここで僕が帰ってしまうと、カエデさんやシーヤンに申し訳無いですし。負担を増やして申し訳って」


確かにバームとアイドロの体格や力の差を考えると、バームの代わりにアイドロと言うのは割に合わない。その上買い出しに慣れていると言う事も考えると、カエデや、特にシーヤンへの負担は相当な物だろう。


実際、市場で大量に買い物をすると言う事は体力をかなり使う。人混みを掻き分け目的の店に辿り付き、提示された量と同じ分の食材を買い、また他の店へ。

普段はバームが店頭まで赴き、買い終えるとその商品をシーヤンに渡し、また他の店といった具合らしい。


カルナだけは大荷物を持ったまま人混みを掻き分け、一人でかなりの量の買い出しを一回で済ますらしいが、到底それはたった数年でマネの出来るものではない。


そんな力と根気のいる仕事を、女手三人だけでこなすのはもはや不可能だ。そんな事を分かっている上で、この二人は言い争いをしている。

これはアイドロが子供なのかそれとも容赦なく年下相手に嫌味を言うバームが悪いのか、カエデにはさっぱりだった。


そんな時、アイドロは一つ提案をした。


「じゃあ二手に分かれよ、そうすればお互い邪魔者がいなくなって清々するし」


「そうですね。では、僕とカエデさんのペアで。すみませんシーヤン、こんな奴とペアにさせてしまって。面倒見てあげてください」


「はぁ!?何言ってんの!別にシーヤンとじゃ嫌って訳じゃないけど、私はカエデっちの為に買い出しを手伝ってるんだけど!?」


どんどん激化して行く二人、そこでカエデは、ある提案をして二人を止めた。こんな時、人を分けるための手段。それをなぜか、カエデは思い出した。


「じゃ、じゃあこうしようよ!いっせーので合図を出して、グーとパーで分ける。グーが握りこぶしで、パーが手を開いた状態。これで平等!って、それじゃダメかな…?」


「それにゃ!よく分からないけどそのグーパーってのをやってみるにゃ!!」


シーヤンも誤魔化すためにノリノリだった。それにはバームもアイドロも渋々乗り、参加する。


「カエデっちがそう言うなら…私はいいけど」


「そうですね。平等ですし、それがいいでしょう。そのグーパーと言うのは、合図と同時に拳か手のひらを出せばいいんですね?分かりました」


「そっ、そう!私の住んでた村では、良くやったんだ!じゃあいくよ?いっせーのっ!!」


この時ほど、カエデはパーを出した事を後悔した時は無かった。

アイドロには多少の怒りがあった。その為のグー。それに同じく、バームも不満があり、自然と手に力が入る。

一方早く終わらせてくれと言わんばかりのシーヤンは、自然と手を開いていた。

その結果、カエデとシーヤン、アイドロとバームと言う、最も最悪なパターンが誕生してしまったのだった。


「…カエデ、しっかり分かれたから、私達はもう行こうにゃ」


同様のあまりシーヤンの猫語も薄れていた。逃げるようにカエデもシーヤンの言葉に賛成する。もうこれ以上、いざこざに巻き込まれるのはごめんだった。


「う、うん。そうだね、シーヤン」


カエデとシーヤンは、バームからお使いの代金も受け取らず、二人から離れた。後ろを確認すると、アイドロは店の方へと戻り、バームはこちらに向かって来る。

やはりダメだったか、カエデはそう思いつつ、向かって来たバームの言葉を聞いた。

しかし、それはバームの口から放たれたとは、到底思えない言葉だった。


「ごめんカエデさん。僕も用事があるので今日は先に上がります。これ、買い出し分のお金です、申し訳ないですが、今日はお二人で行ってきてください」


「えぇ!?私とシーヤンだけで!?」


「ええ、もし私が一緒に行ったとしても、どうせアイドロは抜け駆けだなんだとうるさいですから。本当にすみません、あとはよろしくお願いします」


「あっ、ちょ!!」


バームは逃げるように早足になり、遠くの人混みに紛れてしまった。そんな中、途方にくれるカエデとシーヤン。たった二人だけで、買い出しに行くのはもはや不可能。カエデは先ほどの提案を思い出し、深いため息を吐いた。


「あんな事言い出さなきゃよかった…」


しかしシーヤンは、責める事もせずカエデを慰めた。


「そんな事無いにゃ。おにゃーは良くやったにゃ。あの二人を、例え一度でも同じ事をさせたなんてもはや快挙なのにゃ。あとで一杯キサツが褒めてくれるのにゃ」


そんな慰めをしてくれるシーヤンに、カエデは現実的な事を聞いた。カエデの欲しい言葉は、どうやら慰めでは無かったようだ。


「…買い出し、どうする?」


「仲良くみんなでおばばにげんこつ食らうしか無いのにゃ…」


小柄なペアだけの買い出し、それはまだまだ放浪者の溢れるこの街においては、奪って下さいと言っているような物だ。背の低さ故に、抱えたとしても放浪者は簡単に手を伸ばして商品を取ってしまう。その上放浪者はロードピープルとは違い、冒険者と言う一応の肩書きを持つ者が多いため、一目で放浪者か本物の冒険者か見分けが付けにくいのだ。

その為、迂闊に何かを買い、放浪者に取られるよりは、素直に店に戻って一緒に買い出しに行ってくれる人を探すしかない。少なくとも、放浪者の扱いに慣れている人物か、それを寄せ付けない程の風格を持った人物か。


そんな暗い事を考える二人の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。


「全く、心配になり付いてきたと思ったら。やはりあの二人はダメでしたか」


「カルナさん!?」


カルナは頭を押さえながら、呆れたように息を吐いた。


「では行きますか。シーヤン、何を買えばいいのか、メモを見せて下さい」


「これにゃ」


カルナは紙に書かれたメモを恐ろしいスピードで目を通し、メモ用紙をシーヤンに返し、カエデから小包を受け取ると人混みを縫うように進んだ。その姿が見えなくなった十数秒後、カルナは大きく膨らんだ紙袋を片手で抱えながら、戻って来た。その中には、根野菜や乾き物が主に入っていた。


「次は生鮮野菜です」


カルナはそう言い、シーヤンに紙袋を渡した後、一定のスピードで進む人混みの中を一定のスピード以上の速さで進み、また他の店の方へと向かった。

今度はしっかり付いて行けたカエデは、カルナが商人と話す数秒間を目撃した。


「先日お願いしていた物、お願いします」


「はいよ」


たったそれだけだった。既に予約をしていたのなら、自分にでも出来る。カエデはそう思い、料金を手早く払い紙袋を受け取ったカルナに聞いた。


「カルナさん、前々から予約してるなら、私も受け取りに行く事くらいは出来ます!お店の名前さえ教えてくれれば、一人で行きますよ!!」


だがその言葉は、簡単に打ち砕かれる。


「いえ、私が勝手に注文しているだけなので、店の名前を出しても商人は商品を出してはくれませんよ」


「そ、そっか」


「その代わり、これをお願いします」


カエデは、カルナから生鮮野菜の入った紙袋を受け取った。ナペチリーニョに入っていた、緑の奇妙な葉っぱの野菜が、その中には沢山入っていた。

しかしたかが葉っぱと言えど量は量。あまりの重さに耐えかね、カエデはエーテル術で紙袋に浮遊の現象を与える。

すると紙袋は一気に軽くなり、かろうじて野菜の重さでカエデの腕に乗っている程度になり、カエデはその紙袋を抱えなおした。

やはり魔法は便利だと、再認識した瞬間だった。


その後もカルナの見事な買い物捌きは続いた。カエデもエーテル術に慣れ、次々と渡される紙袋を浮遊させ、カエデ自身に追尾させた。持たずとも勝手について来るその術をみて、カルナもどんどんカエデに荷物を任せる。

しかしそれでは不平等だといい、シーヤンにもそれなりの量の紙袋を持たせた。

そして無事全ての食材が揃い、メモ用紙の全てをチェックした。

そんな時、シーヤンが根を上げ始めた。


「重いにゃ!いい加減カルナも持つにゃ!!」


「カエデさんもあんなに持ってるんです。少しくらい頑張ってください」


カルナはカエデが浮かす、紙袋の数々を指差した。するとシーヤンは黙り、カエデは自慢げに笑った。

そんな事を話しながら、三人は市場から外れ、レストランへとかえる小道に曲がった。そこでカルナは、一枚の紙を拾い、その物の事を話した。


「新聞…ですか。何やら号外のようですが」


「それより今は先に帰るにゃ!もう重くて我慢の限界なのにゃ!」


立ち止まるカルナを置き、シーヤンは先に店に帰ってしまった。しかしカルナも、それなりの荷物は持っている為、1枚の新聞を拾うだけで、その場では読みはせず持ち帰ろうとしていた。

そこでカエデは、カルナに聞いた。


「何が書いてあったの?」


「詳しくは読んではいません。何やら王宮が、また何かをやり始めたと言う事だけは読めましたが。帰った後、じっくり読みましょう」


「うん、わかった」


その後、カエデとカルナが店に帰ると、バームとアイドロが店主にぶん殴られてる瞬間と出会した。


「この大バカ者共が!!」


誰から見ても大人であるバームも、カエデから見ると大人と言われると違和感を覚えてしまうアイドロも、店主に思いっきり殴られていた。

そんな光景を見て、カルナは呟いた。


「やはり、こうなりましたか」


「ねえ、カルナさん。気になってたんだけど、あの二人って、なんであんなに仲が悪いの?過去に何かあったとか」


「そうですね、一言で言えば、アイドロはバームに一目惚れをしていた時期があったそうです。ですがバームの目には他の女性が映っており、その時はアイドロも諦めれたそうです。しかしバームはあんな性格ですから、その女性に気持ちを伝えられずにいたのでしょう、そんな事から応援し続けていたアイドロと、全く気持ちを伝えられないバームに溝が空いてしまったようです。そして、一緒に買い出しに行った時に何か決定的な言い争いがあったのでしょう。その話は、詳しくはわかりませんが」


「そ、そうだったんだ」


カエデは、バームが普段カルナばかりを見ていることを思い出す。そして思った。カルナは感がいいのか悪いのか、よくわからない人だ、と。

どうも、読者さん。投稿主のブックです。

メインではあまり出てきていませんが、今回出て来たアイドロと言う従業員も、初期の案ではカルナやシーヤン程出番を付けようと思っていた人物でした。

ですが登場人物が多すぎると言う事で、登場回数が減ってしまいましたが、続きを書く時は、もっと出番を出してあげたいですね。

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