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それぞれの努力

周星院、今日はこの場で、寮に暮らす子供達の選別が行われていた。

寮とは、やや大きめの3階建ての一軒家の通称であり、エルバとカエデが老婆から譲り受けた物だった。

その為、寮に暮らす子供の基準は、かなり厳しい物だった。

その条件を、エルバはユイとチャラ神に話した。今日は他の協力者は仕事だなんだと理由があり、三人だけの会議となった。


「では、寮に暮らす子供の最低条件を言います。まず、落ち着きのあり社交性に優れている事。5歳以下である事。将来の事を考えれる事。そして最後に、仕事に対し意欲がある事。この4個を、寮生の最低基準とします。何か質問はございますか?」


エルバにしては辛辣な、と思いつつ、ユイもチャラ神も手を上げた。エルバならロードピープルなら見境なく受け入れるタイプだと、チャラ神は思っていたからだった。


「エイハブさん、お願いします」


エルバはチャラ神を指名した。座ったまま、チャラ神はエルバの顔を伺うように聞いた。


「落ち着きや社交性があるってのは分かるけど、5歳以下ってのはなんで?別に7歳でも9歳でもいいんじゃないかな」


「力の関係です。5歳以下の子供なら、自己の協調性がまだ乏しく、上下関係が生まれ難いと考えたからです。特に寮は聖堂の空き部屋に比べて狭いです。精神面もしっかり考慮しなければ、子供達に負担をかけてしまう、そう考えたのです」


「なるほどねぇ」


やけに合理的な意見だった。やはりエルバも、カエデの事で悩む事があったのだろうか。

理想追求主義者が、一歩成長したような、チャラ神にはそう感じた。


その言葉にはユイも頷いていた。裏路地のボスとして、ロードピープル達を束ねる時に苦労した事なのだろう。

しかし頷きつつも、ユイは手を上げ続けていた。


「ユイさん、どうぞ」


今度はユイを指名する。ユイは手でジェスチャーをしながら、エルバに聞き始めた。


「仕事に対して意欲を持っているかどうかとか、将来に向け物事を考えてるかって基準は、どこで見分けるの?はっきり言うけど、あの子達は明日どうなるかも分からない世界でずっと生きて来たのよ?そんな先の話、想像出来るとは私は思わないわ」


「そうでしょうね。ですので、分かりやすく言えば夢を持っているかどうか、と言う点で決めたいと思います。夢に仕事の意欲が感じられ、夢を叶える方法をこちらが提示した場合、反応の良かった子供を選びます。と言う形で、よろしいでしょうか?」


エルバはユイに同意を求めた。ユイも、反論は無かった。


条件が決定し、チャラ神は長椅子から立ち上がり背伸びをした。


「これで寮生の基準は決定だね!じゃあ早速聖堂に待機してる子供達に聞きに行く?夢がある奴はいるかーって感じで」


「そうですね。移動中にも空き部屋の件も話を進めておきましょう。では、聖堂に行きましょうか」


チャラ神が見るに、エルバはロードピープルの為に頑張り続けていた。暴動事件の時、ロードピープルを聖堂に避難させ、医師に協力を仰ぎ被害を受けたロードピープルの治療を行っていた。事件が収まった翌日も、自ら王宮に出向き、事態の報告と支援の要請をしている。その結果、支援物資と言う形で、王宮から金銭や保護をした子供達の二週間分の食料が既に送られてきている。

その他、街の協力者も探し、協力者達と共に様々な事を進めてきた。文字通り、彼に救われたロードピープルの子供は少なくないだろう、しかし救えなかった子供も勿論いるはずだ。

少なくとも、チャラ神が見たヴィヴィの兄や相談室に並べられていた子供達の遺体がその一例だ。

しかしそんな事があったにも関わらず、エルバは努力を続けている。チャラ神は、カエデとエルバを天秤にかけていた。そしてゆっくり、天秤はエルバの方へと、傾いた。





一方カエデは、自室で椅子に座り読書をしていた。浴場から帰る途中、本屋から買い漁ったエーテルとルーンの本だった。

小声で音読をし、サリッヂがその姿をじっと見ていた。エーテルの使い方その2、現象の与え方を読んでいると、そばでサリッヂが、自分のエーテルで他の本を浮かせたり触れぬまま開いたり閉じたりしていた。

関心しつつも自分もやって見るが、本はビクともせず、深くため息を吐いた。


「はぁー…やっぱり無意識にやらないとダメなのかな。ねえサリッヂ、それコツとかっているの?」


「無いよ?お願いしたら本が浮いただけだもん」


「子供パワー恐ろしや…何?私の心は汚れてるって言いたいの?本当はこの本が私のエーテルを拒んでるだけじゃ無いの?…って、そんな事ばっか考えてるからうまくいかないんだろうなぁ」


そんな中、ウーはベッドをトランポリン替わりにして遊んでいた。軽いので振動はまったく響かなかったが、カエデは注意した。


「ウー!埃が舞うからダメ!!」


ウーに向かって柔らかいクッションを投げ、飛び跳ねるウーを見事撃墜。ベッドの上にクッションごと落ちたウーは、楽しそうに笑ってクッションを握っていた。

これでもう止めるだろう、そう思っていた時期もカエデにはあった。しかしウーは今度はそのクッション諸共、ベッドの上で飛び跳ね始めた。


「はぁ…ウー、ちょっと来て」


「なーに?」


ウーは飛び跳ねるのを止め、ベッドから飛び降りクッションを持ったままカエデの側まで来た。そこでカエデは、ウーに優しくチョップをした。


「お姉さん、今勉強中。遊びたいなら、このリボンでも飛ばしてて」


冗談のつもりだった。まさかウーまでエーテルでリボンに浮遊と言う現象を与え、見事リボンを浮かせてみせるだなんて考えてもいなかった。

せいぜい投げて遊んでヒラヒラするリボンを見て笑う程度だろう、と思っていたカエデは、再び読書を始める。

しかしリボンは、カエデの顔と本の間に浮いて来た。


びっくりするカエデの様子をみてウーは大爆笑。怒る気も失せたカエデは、ただ自信を無くしていた。


「私、本当に才能無いんだなぁ…」


そう呟くが、サリッヂはカエデの手を掴み、大丈夫と言ってくれた。ある意味、心が痛かった。


「サリッヂ、人にはね?嫉妬って言う感情があるんだよ。あの子が羨ましい、でも自分はどれだけ頑張ってもその子に追いつかない。そんな人に、出来る人が言うと逆に嫌味みたいになって…ううん、いやごめん。今の忘れて」


カエデはサリッヂから手を離し、再び読書を再開する。そしてカエデは、本のある言葉に、目を止めた。


「…自分のやりたいことで練習するのでは無く、まずは人に願い事を叶えてあげるように練習しましょう。自分の為よりも、大切な人に向けた願いの方が、純粋な心が現れやすいです」


カエデはその本を持ったまま立ち上がり、部屋から出て一階のレストランへと降りた。ウーとサリッヂはそんなカエデについて行った。

ヴィヴィだけは、窓から外を見続けたまま、動かなかった。


「バーム!何かお願い事みたいの無い?エーテルで叶えられそうな範囲内のお願い」


一番初めに目にとまった、バームに声をかけた。

掃除中の彼は一旦手を止め、カエデの質問に付き合ってくれた。


「エーテルで叶えられそうなお願い事ですか?そうですね、テーブルやイスを浮かせて貰えれば、掃除もうんと楽になるんですけどね」


バームはカエデが白亜と言う理由だけで、エーテル術に関しては自信があるのかと勘違いしていた。

しかしカエデの読んでいる本を見て、改めて勉強中だと言う事をしり、気の毒な事をしてしまったと苦い顔をした。

しかしカエデは、バームの願い事を、必死で叶えようとしていた。


「宙に浮け宙に浮け宙に浮け宙受け…!」


真剣なカエデを見て、邪魔をするのは悪いと、バームは掃除を再開した。

本を持ちながら強く机に念じるカエデ、掃除が出来ないと言う理由を付け加え、更に念じた。

そんな時、カエデに妙な記憶が頭に過ぎった。なぜか河川の掃除をしている時、奇妙な統一された服装をした、どこかの従業員であろう年齢の男性達が、掃除をしているにも関わらず、透明な水筒のような形の何かを捨てた事を、カエデは思い出した。

その怒りが一気にこみ上げ、カエデはその水筒らしき物を男性従業員の一人の頭にぶつける事をイメージすると、店中のテーブルやイスが宙に浮いた。

突然のことに、バームは驚きを隠せなかった。


「う、うわぁ!な、なんだ…カエデさん、エーテル術が使えるなら、もっと早く言って下さいよ。いきなり浮き始めたらびっくりしちゃうじゃないですか」


「ご、ごめんバーム」


カエデ自身も、なぜ成功したのか訳が分からなかった。フラッシュバックした何かと照らし合わせ、念じたのがきっかけだろうか。

そんな事を考えている間に、あまりに膨大な質量の物に影響を与えたカエデを、ウーは目を光らせながら見上げていた。


「お姉ちゃん、すごーい!!」


「えへへ、そ、そう?」


純粋に褒められ、カエデは照れた。

そんな時、一斉にテーブルやイスが動き出した物音に反応し、店主や従業員達が裏から一斉に出て来た。心配そうに来た店主らであったが、その異様な光景を見て、しばし開けっ放しの扉の前で、唖然していた。


「見えないにゃ!見えないにゃ!!」


一同の後ろの方で、シーヤンの頭が稀に見えた。ジャンプをしているのだろうか。


カエデは誤解をさせてしまい、店主に怒られるのではないかと身構えたが、店主は一言だけカエデに言った。


「カエデ…明日から、買い出しも手伝いな」


「嫌です!!」


珍しくきっぱりと断った。

買い出し、それはバカみたいな量を提供するこの店にとって、一番の重労働だ。店主が言った食材を、全て規格外の量を買って来なければならない。この店の開店準備が早い、おおよその理由を占めているのが買い出しと言っても過言ではない。何度も何度も市場と店を往復する作業に、自ら立候補する者はいない。しかし店主は、もっともらしい事を言い出した。


「そう言えばあんた、随分と仕事が出来るから忘れてたけど、店からみたらまだまだ新人だったねぇ。買い出しは新人の仕事って決まってるんだい、カルナだけは文句も言わず行ってくれるけど、他の奴らは絶対に買い出しに行きたがらないからね。明日からバームとシーヤンの三人で行ってきな」


「そ、そんなぁ!?あっ。でも私、この子達の面倒もありますし、夜以外で仕事に出るのはちょっと〜」


良い言い訳を見つけ、なんとかごまかそうとする。しかしそんな屁理屈は、店主には通じなかった。


「その時くらいはあたしが面倒みてやるよ」


カエデは等々言葉が詰まってしまった。ボソッと返事だけを言い、その間に掃除を終わらせていたバームにもう下げてもいいと言われ、カエデはエーテルの意識をなくそうとしていた。

しかし、ここで突破口が見つかる。もしエーテル術がたまたま出来たことで、もし影響を与えたとしても、その影響を止めれなかったら。たとえ宙に浮かしたとしても、一同浮かしてしまうと元に戻せないと言いだせば。

いける、カエデは確信した。


「あれ?テーブル、下ろせない…」


店主の顔を伺う。しかし店主はため息を吐くだけで、カルナを呼んで何かをさせた。


「カルナ!!」


「はい」


縫うように一同の中から出て来たカルナが、テーブルに触れた。

その瞬間、ゆっくりとテーブルは降り、床に足を付けた。他のテーブルやイスも、カルナが触れると浮力を失い、ゆっくりと床に降りる。

それ程嫌なのか、カエデは涙を流した。


「か、カエデさん!?大丈夫ですか!?」


心配して声をかけるバーム、しかしカエデは、笑顔で誤魔化した。


「エーテル…使えるようになった…!!」


あまりに酷い誤魔化し方に、バームは何も言えなくなった。そこに同じ買い出しのシーヤンがようやく来て、カエデに肩を組んだ。


「新しい買い出し仲間の誕生なのにゃ!ほら、おにゃーのご主人の任命式なのにゃ、少しくらい反応するのにゃ」


そう言いつつ、シーヤンはカエデから預かったバッグを持ち上げた。当然返事は無く、シーヤンは困り果てた。


「おにゃー、そこまでだんまりだとうちのにゃー達を入れちゃうのにゃ。それでもいいのにゃ?」


やはり返事は無い。シーヤンは心配そうにカエデの顔を見たが、カエデはしゃがみながらウーやサリッヂに愚痴っていた。


「お姉さん、明日から重労働だよ…」


「ウー、よく分かんないけどお姉ちゃんならだいじょぶ!!」


しゃがむカエデの頭をポンポンと叩くウー、シーヤンはあまりの反応の無さに、違和感を感じていた。


そんな時、カエデが苦手とする従業員、アイドロが手を上げ、店主に言った。


「カエデっちが行くなら私も行こっかな。だいたいさー、ママ。あんなのがカルナの代わりなんて出来ると思う?絶対途中で転んだり食材落としたりするよ?」


「それもそうだねぇ…キサツ、カエデって3日に何回は転んでる?」


「5回くらいは転んでるんじゃないですか?私が見てるのは4回くらいですけど」


あまりに失礼な話が始まり、カエデは不快感を覚えようとした。しかし身に覚えがありすぎて、何も反論出来なかった。

そんなカエデに代わり、ウーが反論した。


「お姉ちゃんはそんなに転んでない!倒れてるだけだもん!!」


もっと酷い弁解に、皆は一斉に笑った。そんなナイスフォローをしたウーに、店主が聞いた。


「そうだったのかい。じゃあウー、カエデは1日、何回倒れるんだい?」


「3回!!」


そこまで転んではいない!そう叫びたかったが、説得力が全く感じられないので黙っておいた。


結果的に、明日から買い出しはカエデとシーヤンとバームとアイドロの四人で行く事になった。しかしこの時はまだ、バームとアイドロが水と油の関係だとは、誰一人思っていなかった。

どうも、読者さん。投稿主のブックです。

予約投稿が便利で、いっつも使用していますが、予約投稿文も作品文字数が追加されてしまうのがちょっと気に食わないです。

作品総文字数的にはそうですが、その時出ているのはその文字数に達していないって、ある意味詐欺ぽく無いですか?そこが少し、気がかりです。

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