これだからコミュ症は
出店の並ぶ市場の通りから、少し歩くと少し雰囲気が変わり建物のお店が増えて来た。数々の看板を見るに、薬局やレストラン、酒場など、先程よりは高級路線の店が多い。中には市場にも店を出していた武器屋などもあったが、それはおそらく本店だろう。
しかし、言葉は通用したが言語は全く読めないカエデ達にとって、看板の絵と言うのはとても貴重な物で、分かりやすいマークの書いてある店しか、何の店なのか分からなかった。
「チャラ神、やっぱりチャラ神でも、文字は読めないんだよな?」
「うーん、僕はせいぜいカエデちゃんをこの世界の言葉を話せるようにする事くらいしか出来ないから、文字までは無理かなぁ」
「そっか…じゃあ無難に人に聞くとか?」
「それが一番だね、でもそろそろ暗くなり始めて、気楽に声をかけれそうな人がいなさそうなのが難点だね。でも、とにかく誰かに聞いてみよう」
日は既に落ち掛け、夕焼けが黄金色に輝き、統一された黒い服の数人の男達が、街灯のロウソクに火をつけて回っていた。この世界で言う公務員だろうか、お揃いの剣を腰にかけ、他の金属と金属が動く事に、カチャカチャと音をたてる。しかしカエデには、公務員と言うよりかは軍人に見えてしまい、その人物らには声をかけられずにいた。
そんなカエデを見て、チャラ神は文句を言う。
「もー!だからカエデちゃんはコミュ力低いって友達にもバカにされるんだよ!!知り合いじゃないと躊躇う癖、なんとかならないの!?」
「だって何言われるか分からないし、子供がこんな時間に何やってるんだって怒られるかもしれないし、それにもしかしたら見掛けない顔だって不審者扱いされちゃうかもしれないし…」
次々と溢れるネガティブ発言が気にくわないチャラ神は、強引に叫びその男の一人を読んだ。
「おーいそこのお兄さーん!ちょっと聞きたい事があるんだけどー!!」
「あっ、バカ!!」
バッグから出てるとは思い難いボリュームの声は、さほど多くない通行人全てを振り向かせる程の大きさだった。その声に気付かない訳もなく、カエデの恐る軍人っぽい人が、一歩一歩近づいて来る。
普段経験しない身長差から、カエデは固まってしまいそうになった。
「どうかしましたか?」
思いの外優しい言葉、やはり彼らは公務員のような職業なのだろうか。
固まるカエデを放置し、バッグと化したチャラ神が次々と言葉を交わす。彼らも、バッグが喋る事に違和感は感じていない様子であった。
「実は僕ら、この国に観光で来てるんだけど、文字とか全然読めなくてさ〜、今宿探してるんだけど、お兄さん達しらないかなぁ〜?」
「ふむ、確かに珍しい顔だ。失礼だけど、観光って言うんだからお金は持ってるんだよね?どれくらい?」
「ほら、カエデちゃん!固まってないでそろそろ自分で話す!!」
その言葉でようやく動き出したカエデは、小声ながらようやく言葉を交わす。
「えっと、4万ゲル…くらい?」
「4万ゲルも?まあ、君くらいの子が観光でそれほど持っていても、不思議ではないか。マジックアイテムも持ってるくらいだし。宿ならそこのレストランがあるだろう?そこが宿も経営してるから、声をかけてみるといい。ちなみに宿の相場は1人当たり500ゲル行かないくらいだから、余所者と甘く見られてぼったくられないように」
わざわざそこまで教えてくれる人に悪い人はいない、そう勝手に解釈したカエデは、先程のカチコチムードから一変、普段知らない人と話す程度までには回復した。
「ありがとう、親切にどうも」
「観光に浮かれて、夜中も歩き回らないようにね。特に君みたいな子は」
先程から特別扱いされているようだが、鈍臭いと思われているのだろうか。そう思ってしまったが、事実今のカエデは鈍臭いと言われても仕方ないくらい優柔不断なので、仕方ない事なのだろう。最後に会釈してから、その人物から離れた。
宿さえ見つかれば、そこである程度の予定が立てられる。体内時計でこの世界に来てから約2時間、元の世界で授業に長距離走や臨時の委員会が開かれていた事もあり、カエデの疲労はピークに達していた。その大半の理由が、魔法の国に来てしまった精神的疲労である事は事実であるが。
「カエデちゃん、宿に着いたらまず何を決める?」
「その前にまずはチェックインしなきゃ、また人と話さなきゃ…!」
「はぁ…もういいよ、宿の事は僕が代わりに話すから。全く、これだからコミュ障は」
例のレストランに入り、カウンターに立っていた店員にチャラ神は元気よく話し始めた。店員は女性だった。やけに長い無駄話もある様に感じたが、おそらくカエデよりかは話を早く済ませられるはずなので、黙っておく。
すると店員の方から無駄話に嫌気があったのか、直ぐに部屋に案内をすると言いだした。チャラ神は少し残念そうだった。
「2階のお部屋ですね。こちらの奥の階段にあります、どうぞ」
「どうも…」
お代を払おうとバッグから小包を出しつつ、文句を言いそうな小物入れの被せ蓋を押さえ付けておいた。
チャラ神はフゴフゴとなにやら音だけを発していた。
「こちらになりま〜す」
店員は部屋のドアを開き、テーブルに置いてあったランタンを手に取った。なぜか店員は一旦とまり、カエデの顔を確認すると、少々お待ち下さいとだけいい、ランタンを持ったまま店の方へと降りて行ってしまった。もう日が落ちたせいか、電球などと言う便利な道具がない魔法の国の日没は、とても暗く、物寂しさがあった。
「どうしたんだろうね〜、店員さん」
「さあ?ロウソクが残り短かったとか、そんな感じじゃないか?」
すると店員はすぐに戻ってきて、代わりに持ってきたランタンの中には小さな石の様な物が入っていた。それに手をかざし、手のひらから粒子状の青白い光がうっすらと浮かび上がり、ランタンの中の小石が宙に浮き光を発しだした。ロウソクより明るかった。
「お客さん、お肌弱そうなのでこちらに替えておきますね。エーテルを少し流してあげれば、消えますので」
「おぉ〜、ロウソクより明るいのはありがたいね、カエデちゃん」
「わざわざすいません。それで、宿代ですが…」
気の利く店員は、それを聞くなり手を軽く左右に振り、笑いながら言った。
「いいですよお代なんて〜。初めてお顔も拝ませて貰ったんですし、むしろこっちが感謝したいくらいです。本日は、ご利用いただきまことにありがとうございました。シャワールームは各部屋に備わっておりますので。では、ごゆっくり〜」
「へっ?」
訳も分からずまま、店員は扉を閉めてしまった。
不思議ではあるが、今はラッキー程度に思っていよう、そう心に決め、ベッドへと寝っ転がった。疲れた反面、布団がとても心地よかった。
「さあ、カエデちゃん!これから作戦会議だ!!」
しかし当のチャラ神ことバッグは、休息と言う暇を与えてくれなかった。
「なんだよ、少しくらい休んでからでもいいだろ?疲れたんだよ」
「だーめ、カエデちゃん、どうせすぐ寝落ちしちゃうだろう?おそらく宿って言っても、明日の朝には出発しなきゃいけないんだろうから、作戦会議は今!!」
「分かったよ…じゃあその前に、疲れたからシャワー浴びてからな」
「その体で?」
この体にも慣れてきたせいか、すっかり忘れていたカエデは、急に恥ずかしくなり顔を赤く染めた。急いでベッドに戻り、顔を枕に埋め、悶えた。
「そんなにショック?ほらほらりんごでも食べて落ち着いて〜」
はじめに口にしたりんごは、歩きながらも食べてしまう程美味しかったが、大きさがあったので丸々1つ食べるのはしんどかったのを覚えている。首を横に振り、埋めていた顔を上げた。
「まだ俺自身受け入れられてない事なんてたくさんあるんだよ…」
「でもほら、元の世界に戻る方法は知ってるんだから!また共に過ごして信頼を深めなきゃ!じゃなきゃいつまでたっても戻れないよ!?」
「分かってるよ…でも今の俺には、余りにも失われた物が多すぎる。バイトだって、家族だって、趣味や自分の体の事だって…あれほど嫌だった学校まで恋しくなってくるレベルなんだよ。気持ちの整理くらいさせてくれよ…」
安心出来る場所に着いた途端、本音がボロボロと溢れる。チャラ神は、それを聞くなり何も言い返せなくなった。それは自分の勘違いが原因の物だから、何を言ってあげればいいのかわからなかった。
「いや…ごめん。別に責めたかった訳じゃないんだ。だた不安になっただけで」
先にカエデが気を改めようとした。それに便乗しようと、チャラ神は何か冗談を交えようと、アドリブで物事を言い出した。
「元は男の子と言えど今や普通の女の子。そんな子と同じ屋根の下…ウヘヘ」
「あ?」
「ごめん冗談が過ぎた」
「まあ、ともかく今は作戦会議だ。これから俺たちが、何をすればいいのか」
ベッドに1人と1つ向き合い、作戦会議は長々と続く事になった。
「じゃあカエデちゃん、まずは僕の意見から。僕が思うに、今のカエデちゃんには協力者が必要だと思う。観光客って事で話は通せるみたいだから、ガイドか何かを雇った方がいいと思う」
「そうだな、それは俺も思ってた。今の俺たちには情報が少なすぎる。まずは情報収集が先決だろう。チャラ神、なにかこの世界で、知っている事は?」
「僕が知ってる事は、この世界はパルドランドと言う世界、正確に言えば国の名前なんだけど。それと魔法が存在して、おそらくモンスターなんかもいるんだと思う。元の世界よりかは人類の歴史が浅く、言わば中世のような世界だと思うよ」
「まあ、無難な見解だよな。びっくりする事に建物の作りがヨーロッパやその周辺国と似たような作りになってる。さっき宿の場所を聞いた人の剣を見ても、あれはおそらくサーベルの様なもの。さっきも見たこのランタンの小石のような、魔法の概念を除けばヨーロッパ圏の中世そのものだな」
「世界観は何となく分かってきたね、じゃあ次はカエデちゃんの事。カエデちゃん自身、なにか気になった事は?」
「…視線が痛いのと、アルビノって言う事実の事。パルドランドの人はエルフやドワーフのような人とは違う種族のような人も見かけたけど、どれも白人やアジア系ばかりだった。パルドランドでも、アルビノ個体は珍しいんだと思う。それにさっき店員の言ってた事…ここからは俺の推測だけど、もしかしてアルビノって宗教的な意味合いが凄い強いんじゃないか?公務員っぽい人も、観光に大金を持って来ている事に、さほど不自然に感じて無かったみたいだし」
「かもしれないね、元の世界でも、似たような話は聞いた事あるし」
「でもリアルじゃ黒魔術の素材とかなんだかえげつない話だった気がするんだけどなぁ…」
「大丈夫カエデちゃん!もしそうなら、あんな鈍臭いカエデちゃんすぐに捕まってどっかに売り飛ばされてるから!!」
「怖い事言うなよ!あれでもスタート地点が市場じゃなかったら相当危なかったかもしれないんだぞ!?」
「ははは〜、そうかもねぇ〜」
「このチャラ神…!」
「で、それはいいとして、他はどう?」
「…目に見えて体力が落ちてる」
「そうだね、あと力とかも」
「それにりんご1つで腹一杯になるってなんだよ!?俺食べるの大好きなのに!食べたいのに少ししか食べれない、生殺しか!!?」
「むしろ今までが食べ過ぎだったんじゃないかな〜?」
「そうかもしれないけど…!!」
「ま、とりあえず明日は情報収集。その過程で、今のカエデちゃんに必要な物も少しづつ買って行こうか。そのドレスっぽい服、寒いでしょ?」
「ああ、なんで世の女子は肩を出したがるのか…おまけにこれ!なんだよこれ腕巻きか!?なんで胴体の方とくっ付いてないんだよ!ゲームでよく見た事あるけど実際超不自然だぞこれ!?」
「おまけにスカート、スースーするでしょ?」
「ああ、そっちはドロワ?みたいの履いてるらしくて、実はそこまで寒くねえんだ。スカートの丈は短いとは思うけど」
「基本的露出度高いもんね、ロリのくせに」
「うるせぇ!ロリって程ではないだろ!?せめて学園モノの一番小っちゃいキャラだ!!」
「作品によっては一番小っちゃいのがロリってのも多いよ〜?むしろロリしかいなかったり」
「あーもうロリの下りはいい!次だ次!!」
「次、カエデちゃんのスペックについて!ずばりスリーサイズはいかほど…」
「ステータスにわざわざ3サイズまで書いちゃう3流RPGか!大体知らねえよんなもん!!」
「すとーん!!」
「黙れ!!」
カエデはベッドに上からバッグを放り投げ、壁に激突したバッグは床にベチッと落ちた。そのまま布団の中へと潜り込み、チャラ神を無視してそのまま寝た。
「ちょ、カエデちゃ〜ん?ごめんごめん、悪かったからさ〜。機嫌なおしてよ、ねぇ〜?冗談言ったの謝るからさ〜」
カエデの寝顔を拝んでやる気をチャージしようと思っていたチャラ神だったが、今目の前に広がっているのは天井。自分では動けないこの状況に、一人孤独を感じていた。
「マジ、か…」
その後チャラ神は眠りにつき意識がなくなるまで天井を見続けていたが、朝一番に寝ぼけたカエデに踏まれ、目を覚ました。
どうも、読者さん。投稿主のブックです。
作中、ランタンの中にローソク替わりの光る石がありましたが、現実世界でもお土産屋さんとかでよく売ってますよね。ブックさん、鉱石とか好きなので鍾乳洞観光のお土産とかに買っちゃったりします。
さてさて、今後あとがきでは作中の出来事の追記のような事をやっていきたいと思いますが、何せ2年前に書いた作品ですので、表現の下手さが目立っていますね。補足を付けなくても理解してもらえるようになりたいものです。
ですが、執筆活動は最近復帰したばかりなので、話の運び方は昔の方が上手いのも事実。それが理由で、過去作をわざわざ引っ張ってきた、と言う事なんですけどね。今書いてるものなんて、人様に見せられる物ではありません。