いきなりお風呂はぐう鬼畜
数時間前まで薄暗かった宿の一室にも、朝の光が差し込み始めた早朝。1人と1つは、目覚め早々対立をしていた。
事の発端はカエデが寝ぼけチャラ神を踏み起こした事から。昨晩床に投げ捨てたれ、そのまま放置された挙句踏み潰され、チャラ神はひどくご立腹だった。
だが、バッグの姿では反撃を出来るはずもなく、直接口で文句を言う他はない。しかしカエデは昨晩の冗談が過ぎていたからだと一点張りをし、全く変わらない状況をチャラ神は一言でカエデを動揺させるまでに追い込んだ。踏まれる時、凄く臭ったと。
酷い難癖をつけるチャラ神の言葉は聞き流していたが、カエデ自身にも思い当たりのある一言で動揺してしまっている。ちなみに、バッグににおいを嗅ぎ分ける能力はない。
「昨日の冗談は謝るけど、ぶん投げた挙句踏み起こされるってどう言う事!?それが仮にいい匂いのするカエデちゃんだったらいいとしても、汗ばんでヌルッとした足だったら誰でも嫌だよ!せめてシャワーでも浴びてきてよ!!」
「うるせぇ!こちとらこの体に慣れてないんだ、シャワー浴びるのだって心の準備って物が必要なんだよ!!」
「せめて汗を流すって言葉もあるでしょう!それに、いつまでもシャワーを浴びないでいたら、それじゃ観光客と言うよりただの放浪者になっちゃうじゃん!シャワーくらい浴びてよ!!」
カエデはチャラ神の言う言葉は理解出来るが、自分が女の体になってしまったと言う事実を受け止めなければいけないと言う事では、話が違う。その境界線上に立たされ、悩んでいるのだ。
だがチャラ神はカエデの事情など知らず、シャワーを強要する。実際、このパルドランドでは、1日シャワーを欠かした程度では何の不思議もない、むしろ毎日浴びる方が珍しいような世界だ。それは冒険家と言うカテゴライズが存在するこの世界で、冒険と言う元の思想が強く根付いているからである。しかしその事実は、カエデもチャラ神も知りはしない。
「せめてあと1日くらい待ってくれたっていいだろ!今日のうちに覚悟決めるから!!」
「そんな事言って、どうせ情報収集で忙しかったとかいいんだすんでしょ?」
お互い根の性格が頑固な為、どちらも譲ろうとしない。カエデは思った。この部屋にシャワールームがついていなければ、どれほど楽だっただろうと。
しかし水道設備はなぜかしっかりしていたパルドランドでは、もはやシャワーは常識的な道具である。少なくとも、そこらにあるただの宿屋の1部屋1部屋に完備される程度には。
睨み合いの続く中、その終わりを告げるように、タイミングよくドアがノックされた。カエデはせめて床に落ちたままのバッグをテーブルの上に乗せ、ドアを開いた。
「あの〜、シャワーまだでした?もし良かったら、一緒に浴場にでもどうです?」
昨日の店員だ、若さが残るが背伸びをして大人びて見せているような風貌のその女性は、チャラ神とは違い曇りのない目で語りかけてきた。それには、さすがのカエデも戸惑った。
「えっ?い、いやまだですけど…なんで?」
「はい。失礼ながら、お背中をお流ししようかと!私達みたいに、無理にタオルでゴシゴシ洗ったら、肌痛めちゃいますもんね?」
目をそらすカエデ、しかしチャラ神ことバッグのほくそ笑むような形を見ると、一瞬にして答えが見えてくる。断ろう、そう心に決めた。
「ごめんなさい、俺、一人で入る方が好きなんでっ!!」
勢い良く扉を閉め、しまった扉に背をつけ寄りかかった。深いため息をつき、頭を抱えたままその場に崩れ落ち、最後には頭を抱えていた手までが床に落ちた。またチャラ神になにか言われる、浴場以外にも、至らない対応をしてしまった事を思い出すと、どっと何かが込み上げてきた。瞼から何かが零れ落ち、涙脆くなったものだと、傷付きながら。
「何やってるんだろ…」
チャラ神はもう何も言わず、カエデを見つめていた。こんな状況にしてしまった彼には、かける言葉が見つからなかったから。気まずい空気だけが、残ってしまった。
だがカエデの崩れ落ちる音を心配したのか、店員はもう一度だけ扉を開く。そして、声をかけた。
「大丈夫…ですか?」
なぜかその言葉は暖かく、崩れ落ちたカエデは振り向き、差し出された腕を手に取った。そのまま引かれ、立ち上がると、店員の口が笑い、思い掛け無い言葉が出てくる。
「つらい時はとりあえず、お風呂入ってリフレッシュするのが一番ですよ?」
カエデは一瞬固まり、チャラ神は吹き出しそうになったが、同時に何かが吹っ切れた。今の情けない自分に、拒む程の言葉は出せないと。
「…はい」
堪忍した声で、そうつぶやき、テーブルに乗っていたバッグを肩にかけ、部屋から出た。
「それじゃあ、こっちです!!」
店員は意気揚々とカエデの手を引き、階段を降り、朝の開店の準備を進める他の店員に手を振りつつ、店主らしき人物に行った。
「ママ、行ってきます!!」
「あんまお客さん困らせるんじゃないよ」
そう言いつつ手を振る店主に、カエデは小さく会釈。店主はそれを見るなり、薄っすらと笑ってくれた。
店の表から飛び出した2人と1つは、ようやく勢いが治り、並んで歩くように。そこでようやく、店員は自己紹介をしてくれた。
「キサツです、よろしくお願いしますね!」
笑顔が眩しいその人物に翻弄されつつ、カエデも自己紹介をしようとした。まともに口が回らなかったのは言うまでもない。
「カエデっていいます…よ、よろしく」
「キサツちゃん積極的〜!カエデちゃん、オドオドしちゃだめだよぉ〜?」
調子付くチャラ神にチョップをかましつつ、苦笑い。だがキサツがバッグに興味を持ち、問い質してきた。
「昨日も気になってたんですけど、それってカエデさんのマジックアイテムなんですか?見た事ないタイプだったので、誰が作ったんだろうってずっと気になってたんです」
「あ、ああこれ?これはねぇ…なんと言うか、普通のバッグに魂が宿った、みたいな?」
何を馬鹿な説明をしているのかと思ったが、キサツはすんなりとなるほどと頷き、一旦会話を終えようとしていた。しかしチャラ神は頼んでもいない自己紹介を始める。
「僕、エイハブって言うんだよねぇ〜。なのにカエデちゃんったら、いっつもいっつもチャラ神チャラ神って呼ぶんだよ〜、酷いよねぇ〜。ああ大丈夫!キサツちゃんなら、エイハブ"さん"って呼ばなくても、呼び捨てでいいから。僕はよーく分かってるから」
「こんな感じの…変人」
「え、ええ…変わった魂さんですね…」
カエデは元の名前か今考え付いた適当な名前かも分からない自己紹介を適当に流し、今度はキサツに色々聞いて見る事にした。色々な情報、この国の事、宗教の事、自分になぜ積極的に接してくるのか、聞きたい事は沢山あった。
「キサツさん、聞きたい事があるんだけど…俺…私って何か特別な事でもある?」
もしカエデが宗教関連の希少性の意味が無く、ただの勘違いだったとしても、少なくともなぜ接してくるのか聞くには、いいタイミングだとカエデは自賛した。だがキサツは予想通りの答えを返し、逆に戸惑う。
「それはそうですよ!白亜人なんて初めて見ました。いたとしても皇鳳様とも同等レベルの地位を生まれつき持っていると言われるような人種ですよ?」
チャンスだ、カエデは小さく拳を握りなおし、更に詳しく話を聞いてみる。
「実は遠くの田舎町から来たから、よく分からないんだけど、その皇鳳様ってどれくらいえらいの?宗教とか、よく分からなくて」
「遠くの田舎町から来たとしても知らない方がおかしいレベルのお方です!何せ世界のエーテル流を管理なされてるお方なんですから」
エーテル、昨夜聞いた単語と同じだ。おそらく魔法的な意味合いの強い、何かに影響を与える何かだろうと、個人解釈をした。
「エーテルって、魔法の原型みたいな物?」
「えっ?まあ、似たような感じではありますけど」
「なるほど…つまり魔法的干渉を行うエーテルの流れを整理しているって事は、偉大な魔法使い?いやでもエーテル自体が何かの影響を与える存在だと確定している訳でもないし…エーテルが魔法の原型ではないなら、魔法はエーテルの発展?いやしかし…」
厨二フィルター全開で、周囲を気にせず考え込むカエデの癖が浮き出て、突然黙り込んでしまった。そこにキサツが声をかける。
「カエデさんってもしかして…白亜人なのに、魔法知らないんですか…?」
「うん、知らない」
キサツは瞳孔が開いたかのような表情で、驚きの余り歩みを止めてしまった。その様子をただ顎にてを当て考えながら様子を伺うカエデには、なぜそれほど驚く事なのか、理解が出来なかった。
「キサツさん?」
「はっ!?す、すみません。余りに衝撃的すぎたので…」
「それ程やばい?」
「い、いえ…魔法も使えないのに、よく武器も持たずにパルドランドまで来れましたね…ある意味、才能ですよ…」
実際は遠くの田舎町からではなく、別の世界から来てしまったのだが、説明が面倒なのでそのままにしておく。それどころか、カエデは早く魔法の説明をしてくれないかと、今か今かと待ちわびていた。
「キサツさん、良かったらですけど、魔法の仕組みってのを教えて欲しいんですけど」
「私がですかっ!?えぇ〜、私みたいな未熟者だと、変な教え方になっちゃうかもしれませんが…」
「それでも大丈夫」
ただ魔法を教えて貰うだけなのに、なぜそれ程驚くのか、カエデには理解出来なかった。慌てふためくキサツはしばらくして胸を撫で下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
「カエデさん…質問されている途中に質問を返すようになってしまいますが、もしかしてカエデさんって、パルドランドの事、いや、この世界の事何もご存知でないんですか…?」
あまりにも知らなさすぎたのだろうか、それはカエデにとって直球な質問だった。本当の事を言うべきか、カエデは迷う。しかし事実を隠しつつも、真実に近い事は言える。カエデはその選択肢を選んだ。
「うっ…ま、まあ…気が付いたら、この街に…」
キサツは全てが合致したかのように、深く頷いてカエデに言った。
「カエデさん、よく今まで生きてましたね」
「そんなに!?」
「ええ…先程話した通り、白亜人って言うのはとても希少価値が高いんです。皇鳳と言う、魔法を使う為のエネルギー、エーテルを管理する職業に、最も近い存在と言われているんですから。ちなみに皇鳳になるには、私みたいな凡人が何年苦労した所で、到底なれる職業じゃないんです。せいぜい大魔法使いか、天才の祭祀がなれるかどうかのレベルなんですから。私はてっきり貴族のお家から、修行の旅に出されて途方に迷っていたのかと…」
「ちょっと待ってそんなに重要なの俺!?」
思わず素が出る。これにはチャラ神も黙ってはおれず、再び口を開いた。
「って事はキサツちゃん!カエデちゃんはそんな大層なものとして生まれて来ちゃったの!?」
「それより貴族のお家って何!俺貴族なんて何も知らないよ!?」
「ちょっと待ってください、今混乱してる途中なんで…」
キサツは頭に手を当て、なんて人に声をかけてしまったのだろうと、呟いていた。その途中カエデとチャラ神はお得意の作戦会議、直ぐさま会話が始まった。
「おいおいどうするチャラ神…俺まさかそんな大層なものだとは思ってなかったぞ…?」
「僕もだよ…でもこの世界で言う白亜人って本当にそんな凄いのかな?皇鳳って言う職業、聞いてる限りは凄いんだろうけど実際人数は結構いそうだよ?それにただ単に最も近い存在であって、同等のレベルって訳じゃないんだろうから」
「じゃあとりあえずやばいってことか」
「とりあえずやばいって事だね」
悩み終えた、と言うよりかは何かを吹っ切ったキサツ。急に頬をたたき、カエデの手を引いた。
「とりあえず、話は全部お風呂ですると言う事で!!」
「へっ?えええぇえええ!!?」
気付けば浴場まで既に来ていたらしく、その店の中へと引っ張られた。風呂の事など忘れ厨二設定を聞く気満々でいたカエデには、酷いお預けだった。
しかし、しっかりチャラ神はカウンターに預けられ、2人は更衣室らしき場所へと入っていく。その場で、チャラ神は茶化す事なくこう言った。
「カエデくん、大丈夫かなぁ…」
それはただ、本心からでた、心配だけの言葉だった。
浴場、カエデはキサツにまるで人形を扱うかのように誘導され、水道の前の木製の椅子らしき物に座らされた。日本のような作りのそれらは、カエデを安心させるワンポイントになりそうではあったが、到底そんな余裕はなく、緊張の余り自ら動く事のできないカエデは、キサツに人形を動かすかのように使われていた。カエデの頭の中には、女湯に入ってしまった罪悪感と、その場所にいてもおかしくないように変化してしまった自分の体の事と、理性を保つ事しかなかった。その間に、キサツは手際良くカエデの体を洗っていく。感想を言えば、老人ホームには直ぐに就職できる手際だと、カエデ自身がそう思った。
気付けばカエデとキサツは既に浴槽に入っており、ようやく他の事も考えられる様になって来ていた。不意にこれから慣れると言う言葉が頭に浮かんだが、その自分の不純性を呪いたくなった。
「では、まず何から話しましょう」
お湯に浸かりながら、キサツは言った。カエデも一気に朦朧としていた意識が戻り、キサツの顔を見る。そこで、1番初めに聞くべき事を、考えつつ、首を傾げる。それを察したキサツは、勝手に話を始めた。
「…このパルドランドと言う世界には、魔法と言う不思議な力があります。およそ750年ほど前に、メルズ・ファントリーと言う人物が発見し、魔法の事をマジック、魔法使いの事をマジシャンと呼ぶようになりました。ちなみに魔法の登場で、本来のマジシャンの意味である、手品師は、あっけなく廃業になってしまいました」
「まあ、魔法があるならトリックなんていらないもんね」
「それで、その魔法の簡単な法則をご説明します。まず魔法には、エーテルとルーンと言う物を使用します。魔法の内容によってはエーテルしか使用しない場合がありますが、それは魔法と言わない事が多いので今回は省きましょう。まずはエーテルの説明から、エーテルとは対象にないかの現象を与える作用の事で、エーテル流を流し込み何らかの作用をさせると言う様なのが大まかな使い方です。例えばこの水も、エーテル流を操作する事で、宙に浮かせたり、形を変えたりする事が出来るんです。これは水に軽い、と言う現象を与えたり、〇〇形の固形、と言う現象を与えた結果です。」
「じゃあ家具とかを軽くして動かすとかは?」
「ええ、可能ですよ。しかしエーテルは人によって許容範囲があり、その対象に現象を与えるほどのエーテル流を送れなければ、対象は何も変化はありません。そこで出てくるのが皇鳳様と白亜人です。エーテルは人によって量の差がありますが、皇鳳様はエーテルを放出し続けられるほど膨大なエーテル量を持つ白亜からエーテルを借り、そのエーテルを均等になる様人々に分け、差をお埋めになされてるのです。」
「じゃあ皇鳳と白亜は2人で1つのセットって事?だから同レベルって訳なんだ」
「セット、と言えばセットなのですが、もし仮に白亜だけが居なかった場合の話をしましょう。皇鳳様は借りるエーテルが無いので、何も出来ません。しかし白亜は皇鳳の才能があれば、自分一人でエーテルを分け与える事が出来ます。白亜は人で無い場合も多々ありますが、仮に人であった場合、白亜皇鳳となれば一人で解決出来てしまいます。だから、同レベル以上の存在、と言う訳ですね」
「絶対に必要な存在、か…」
「実際、どれ程のエーテルをどの白亜から借りたのかは、皇鳳すら分からない事ですからね。白亜は全て、敬うようになったと、そう言う事です」
「じゃあ次はルーンの説明を…」
「ルーンですか?では、ずばりルーンはこの世の全てを構成している物の事を指します。人で言えば水のルーン、肉のルーン、骨のルーン…詳しくないのでこれくらいしかあげられませんが、私なりに言えばそうなりますね」
「おそらく、ルーンを細かな分類で分けると元素と同じ…水素ルーンとか、銀のルーンとか、そんな感じ…?」
「カエデさん…なんでそんな単語知ってるんですか」
「へ?水素ルーンとか、本当にあるの…?」
「ありますよ!多分それも人の構成ルーンの一つだったと思います」
「へぇ、じゃあやっぱ元素と同じかぁ…」
「あのー…さっきから気になってるんですけど、元素って何ですか?」
「も、元いた土地の方言…みたいな?」
「へ〜、方言ですか」
「キサツさん?か、顔近い。ちょっと怖い…」
「あっ、すいません!別にそんなつもりじゃなかったんですけど」
「いや別に構わないけど…でもじゃあ、使う為のルーンはどうやって集めるの…?まさか自分の体の構成ルーンを使用して魔法を使うって訳じゃないよね…?」
「それには方法があります!ルーンと言っても、厳密には2通りあり、既に何かの構成に使用している構成ルーンと、体内に取り込んで魔法に使える、エナジールーンと言うのがあるんです。そのエナジールーンの取り込み方は、構成ルーンである食べ物を食べたり、 私は出来ませんがエーテルを使い直接物をエナジールーンに変化させ、体内に取り込む事も出来るそうです。それでエナジールーンの使い方ですが、エナジールーンを構成式に従い構成ルーンに変換し、魔法が完成って、そんな感じです」
「すっごいな魔法って…」
「でも、魔法はエーテルとルーンどちらもないと完成しません。例え構成式に従い構成ルーンを生成し、物体を出現させたとしても、エーテルが少なければそもそも構成式に従い構成ルーンを生成する呪文を唱えても、構成ルーンは生成出来ません。本来ルーンには微量のエーテルが含まれていますが、構成ルーンをエナジールーンに変換する時、そのエーテルは全て消えてしまうんです。そしてまたそのエナジールーンを使い構成ルーンに戻す時、その分のエーテルが無ければ、生成に失敗しルーンは無になり消えてしまうんです。エーテルで現象を何一つ与えていませんから、いくらルーンでも現象が無ければ存在出来ません」
「じゃあ、分解した物を再び呼び出すとしたら、その分解した物が持っていたエーテルと同じ量のエーテルを使わなきゃいけないんだ…」
「はい、ようはエーテルもエナジールーンも両方無ければ、魔法は使えないと言う事です」
「なる…ほ…ど……」
「カエデさん、どうかしました?カエデさん!?」
湯の中にゆっくりと沈んで行くカエデ、話が長かったのか他の事を考えていたのかは分からないが、間違い無くのぼせていた。キサツが急いで湯船から上げると、色白だった肌も赤く染め上がり、等々声にも反応しなくなった。
キサツは大急ぎで更衣室の長椅子にカエデを横に寝かせ、先程説明していたお得意の魔法で、冷たい風を送り何とか冷まそうとしていた。
「カエデさん、しっかり!!」
しかしのぼせた人がいると聞き駆け付けてきた老婆が、急にキサツを怒鳴る。
「バカッ!そんな事したら今度は湯冷めして風邪引いちまうよ!!」
「あっ、ご、ごめんなさい!!」
「いいから退きな」
老婆は一目見るに、カエデの頭に濡れタオルを乗せ、立ち上がる。
「これですぐ目が覚めるはずだよ、さっきみたいに余計な事はするんじゃないよ」
「は、はい…」
周りの客はその光景を見てクスクスと笑い、老婆は従業員スペースらしき場所に戻って言った。その騒動はカウンターにも聞こえていて、カウンターの従業員とチャラ神が心配そうに話していた。
「僕の持ち主、体力ないですから…」
「あらそうなの、一緒に来てたあそこのレストランのキサツちゃん、お話大好きだからねぇ」
キサツは渋々着替え、カエデが目を覚ますのを待つ事にした。ただののぼせだった為、キサツが着替え終える頃にはカエデも意識が戻っていたが、裸で横になり続けていた事実を知るなり、頭を抱えながら首を大きく左右に振り、あまりの勢いに長椅子から落ちた。
「イテッ!!」
「カエデさん!大丈夫ですか!?」
「イテテテ…えっと、キサツさん…この状況、どう言う事ですか…?」
「ごめんなさい…私の話が長くて、のぼせちゃったみたいです…」
カエデは少し納得したが、本当は自分の頭にかすかにある不純な理由が限界点を突破しオーバーヒートを起こしてしまっただけなのだが、説明する由もないので、便乗する事にした。しかしその後、レストランで働くキサツと言う人物が、白亜人がのぼせるまで話し続けた挙句魔法の冷気で一気に体温を下げようとしたと言う伝説が、町中に広まってしまう結果になるとは、この時はまだ知らなかった。
恥ずかしさの余り着方も分からないはずの奇妙な服も、急ピッチで身につけ、そそくさと浴場を後にした。やたら心配するチャラ神を叩く事もせず、2人はただただ、すぐにその場所から離れたかった。
どうも、読者さん。投稿主のブックです。
今回出て来た皇鳳と言う言葉ですが、読み方は‘こうほう‘と読みます。このサイトのルビってどうやるんでしたっけ? ご存知な方がいたら、教えてくれたらうれしいです。
さてさて、かつての自分と作品通してにらめっこをしていますが、何やら書いていたデータが丸々1話分消えてしまったみたいです。
一応、私自身一通り目を通して確認していますが、誤字脱字があったらごめんなさい。




