幼馴染に似た魔術師を守りたい
「――はっ!!」
千善は突如意識が覚醒し思わず胸を押さえる。
「……くそッ。一瞬だった分、一回目より気持ちが悪い……」
肩で息をしていたが、ゆっくり深呼吸をし呼吸を整えていく……。
そして気付く。
踏み締めている地面の感触。
肌に当たる柔らかな風。
風に乗って到来する自然の香り。
そして自然の光……。
『生』の実感……。
「……本当に生まれ変わったのか、俺は。
……アイツは死んだってのに、俺だけが……」
辺りを見渡すが自然しか無い。
鬱蒼とした森では無いが、自然は豊かな環境だった。
「……で、俺は具体的に何をすりゃ良いんだ?」
彼はゲームやアニメの類には疎く、定石であるギルドを探す等の知識は皆無だった。
「……服装は変わってるんだな」
ずっと制服姿だったが、軽装の鎧を纏っていた。初期装備らしい鉄製の物だった。
「……どうせなら女神が着てたような物が欲しかったが。取り敢えず……武器が必要……か?」
「――ギヂヂヂギヂヂヂヂヂヂヂ!!」
突如、カマキリのようなモンスターが木の上から覗き込む。千善と同じくらいの大きさだった。
「……武器も無いっつーのに、如何しろと?」
「ギシャァァァアアアアッ!!」
「クソ過ぎるだろッ!!」
――ブォン!!
凄まじい風圧と共に鎌が振り下ろされる。
草木をものともせず綺麗な切り口で切断してしまった。通常のカマキリと違い捉える為の棘など生えておらず、本当に『斬る』為だけの鋭い刃になっていた。
「……こんなの喰らったら一発で終わりだな」
「ギヂヂヂ!!」
――ブォン!!ブォン!!ブォン!!
カマキリは容赦無く鎌を何度も伸ばしてくる。折りたたまれた状態から一気に伸ばしてくる鎌は速さが何倍にも感じる。
しかし、千善は全てを見切り、そして難なく躱していた。
テティアによって与えられた『正義の力』の一端だった。
元居た世界では考えられない程の身体能力。
(……もしかして、素手でも勝てるんじゃ?)
千善はそう考えると、右手に力を込める。
「ギヂヂヂヂヂヂヂ!!」
――ブォン!!ブォン!!
「――ッ!!此処だッ!!」
カマキリが二度鎌を振り抜き、右脚の鎌を振り抜いた直後、右側面へ回り込み鎌の軌道を確実に外れる。
「喰らえッ!!」
拳を思い切り握り締め、カマキリの胴体目掛けて思い切り殴る――ッ!!
――ドッ!!!
「………………は?」
カマキリは僅かに後ろに下がったが、まるで効いてはいなかった。
「ギヂ!!」
カマキリが左脚を既に振り上げていた。胴体が死角になっていて気付くのが遅過ぎた。
――殺される。
三回目でも慣れはしないが、受け入れるのは早かった。
(……結局、俺は異世界でも死ぬ運命か)
せめて、痛くなければいいな。
諦念し目を瞑った。
「――諦めないで下さーーーいッ!!」
その声に目を見開く。
――ドンッッッ!!!
「ギヂッ!?」
ガッ!!
カマキリの左脚が爆炎に包まれ、吹き飛ばされた鎌が地面に突き刺さる。
「私が援護します!!逃げて下さい!!」
声の主を見て千善は再び目を見開く事になる。
その姿は、幼馴染に瓜二つだったのだ。夢かと思う程に、彼女そのものだった。声は明らかに違うのだが、千善には声を聴き比べられる程の冷静さは欠いていた。
「はぁッ!!」
少女が杖を構えると周囲に複数の魔法陣が浮かび上がる。
「爆ぜて……ッ!!」
素早い火球がカマキリ目掛けて飛んでいく。
「ギヂヂヂヂヂヂヂ!!」
カマキリは羽を広げると空へ飛び立つ。彼女が次の魔法陣を出すよりも早く、カマキリが急降下しようとした――が。
「甘ェぜ?カマキリちゃん♪」
――ガンッ!!
「ギヂッ!?」
カマキリの片羽に風穴が開き、バランスを崩し地面に激突した。
土煙の中、カマキリの眼が赤く光を灯すのを男は見逃さない。
――ガンッ!!ガン!!ガンガン!!
「ギヂッ――ヂ……ヂヂ……ッ」
――グチャッ。
カマキリの眼は光を失い、生命活動を永遠に停止した。緑色の体液が流れ落ちている。
「……ったく。逃げろってのが聞こえてねェのか?少年。もうやっちまったから逃げる必要もねェがな」
カマキリを撃ち落とした男の手には見た事もない大きさの銃のような物が握られていた。
銃口から立ち昇る白煙が煙草の煙のようだった。
「流石、兄さんです!!
貴方ももう安心ですよ、怪我はしていませんか?」
「……あ、あぁ。俺は平気……」
駆け寄って来た少女。近くで見ても幼馴染にしか見えない。
「……あの、もしかして――」
――ドゥルン!!
「え?」
気味の悪い音に少女は振り返る。カマキリの亡骸の尻の先から細長い何かが這い出ていた。『ソレ』は先端が鋭く、彼女の首筋を狙っていた。
「――ッ!!」
(マズいッ!!この角度じゃアイツらを巻き込むッ!!)
銃使いの男は手を出せないで居た。そもそも巻き込まないとしても間に合う距離じゃない。
少女は魔術師。遠距離主体の魔術師にとって接近戦は専門外、魔法陣を展開する時間等存在しない。
「――俺はッ!!二度と目の前で死なせないッ!!」
少女と男は千善の行動に驚いた。当の本人である千善自身でさえも。
頭で考えるより遥かに早く、身体が動いていた。只の人間の俺に何が出来るんだ。そんな考え等浮かぶ暇すら無い程の速度で、幼馴染と同じ顔の少女を守りたいと。
彼女の首筋に伸びる魔物目掛けて右の掌を向けた――
その刻。
――ギュィィィィィン!!!
黄色く輝く魔法陣が三つ浮かび上がる。少女の魔法陣と違ったのは、その三つが重なっていた事。
「はぁぁぁああああッ!!」
ワケも分からず力を込めると魔法陣から黄色い閃光が魔物目掛け一閃……!!
ギィィィン!!
頭部だったのだろうか。先が吹っ飛ぶと長い胴体がのたうち回った後、痙攣して動かなくなった。
千善はテティアに与えられた力を行使し、この世界を救う道を今歩み始める。
設定
魔術師の少女
顔と黒髪は幼馴染と同じ。声は似ても似つかない、少女の方が高く可愛らしい。紫色のフード付きローブを着ている。中はブレザーを抜いだ制服姿に酷似している。様々な魔法が使える。
炎系魔法
鎌を破壊したものは大きめの火球。次に使用したものは数は多く速度も速いが、その分威力は落ちる。
銃士の男
魔術師から『兄さん』と呼ばれている。巨大な銃を両手に持つ。ツバの広いバーガンディーのハットを被っている。羽織るマントもバーガンディー。黒髪で前髪とサイドは顎程度、後ろは短め。
銃撃
着弾と共に破裂させる。
マンディス・パテリ
ハラビロカマキリ型の魔物。マンディス型の中でも腹に別の魔物を含んでいる確率が高いがマンディス型の見極めは難しい。眼は赤く、体色は周りにより変化する保護色。両脚の鎌はカマキリと違い棘は無く、剣のように鋭い。
ドラート・ヴルム
ハリガネムシ型の魔物。現実世界と違い、大きくなったパテリの腹に自然発生する。パテリの中で成長しきった後もパテリの死を待ち続け、死後に尻から出て新たな宿主へと寄生する。鞭のようにしなるが身体全てが剣と同等の斬れ味を誇り、パテリの鎌をも斬り裂く。




