スモークサーモンのローズマリネ
「わぁ!すごく綺麗……」
ほぅ、と感嘆のため息が漏れた。
糸織がうっとりとした瞳で見つめる皿の上には美しい花が咲いていた。
白いお皿に咲くのはもちろん本物の花ではない。
スモークサーモンで作ったピンクの薔薇だ。
「お酒は白ワインとか洋酒がおススメです」
「ではそれでお願いします」
特にこだわりなく糸織が日本酒、洋酒ともにいけるのを知っているので綾はそう提案した。
時々人間界に渡っているあやかしたちは、新しいもの好きであちらのものを好む傾向にある。
そしてそうでない者は行く気はないけど興味はある……という者や、あまり受け付けない者もいる。
お酒の提供元が酒ならなんでもイケる羅刹だけあって「酔」のレパートリーは実に豊富だ。
そして料理は和・洋、一応どちらも取りそろえるようには気をかけている。
特にこだわりのある者以外はおススメしたものに手を出してくれることが多いし、常連客が多いこともあって大抵のお客さまの好みも把握済みだ。
「これは……お魚ですか?」
「スモークサーモンをマリネにしたものです。サーモンは養殖された鮭の一種で生食が可能なんですよ。スモークサーモンは燻製にしてあるんで、生ではないですけどね」
崩すのが勿体なさそうに、フォークの先で慎重に花弁を一枚はがした糸織に綾は告げる。
お皿の上にはサーモンとおなじマリネ液につけこんだ白と紫の薄切りの玉ねぎが敷いてある。
その上にスモークサーモンをまずは一枚くるくると巻き、そしてその周りに花弁のように他のスモークサーモンを巻いていくと薔薇の花が出来上がる。
ローリエの葉やピンクペッパーも使って華やかに仕上げてみた。
「んっ、酸味がとてもいいですね。食べやすいし白ワインとも合います。それになにより本当に綺麗」
「気に入って頂けて良かったです」
綾としても女性受けを狙っていただけに喜んでもらって大満足だ。
そしてなにより、美人と花はすごく絵になる。
一見ものすごく手が込んでそうに見えるお洒落な料理だが、その実玉ねぎを切ってスモークサーモンとマリネ液につけるだけなのですごくお手軽なのだ。
薔薇を作るのは大変そうだが、意外とそうでもなかったりする。
重要なポイントは一つ。
スモークサーモンは切り落としではなくちょっといいものを使うこと。
ある程度の幅がないと綺麗に巻けず、花びらが美しく仕上がらないのだ。
それさえ気をつければ、お手軽なのに見栄えがしてお持て成しにも最適の一品です。
「もう一杯頂こうかしら」
「あら、今日はちょっとペースが速くない?」
「ふふっ、なんだか飲みたい気分なんです」
口元を手で隠し、小さく笑う姿はとってもお上品で淑やかだ。
だがしかし、綾と雪音はアイコンタクトをし警戒し合う。
雪音さん!
ええ、わかってる!!
視線でそんな会話を交わし、雪音が身を乗り出して話しかけるフリをしてそっとボトルを遠くへと押しやった。
「あなたはあんまり強くないんだから、ほどほどにしなくちゃ駄目よ?」
「わかってますわ」
おっとり頷いた糸織はゆっくりと二杯目を口に含んだ。
言葉の通り、ほんの一口含む程度で、スモークサーモンのマリネとのマリアージュを楽しむ姿に綾も雪音もほっと息を吐いた。
そしていつしか話に夢中になって盛り上がってしまった。
そう、警戒心が緩んでしまったのだ。




