定番タパス・スペイン風オムレツ
でも?と綾は言葉の続きを待つ。
「やっぱ、近寄り難さはあるわけよ。どーしてもね」
言いづらそうに告げた雪音の言葉に糸織も頬に手を当て表情を曇らせた。
「わたくしは……鬼の統領様だけでなく九尾様にも怯んでしまいますわ。やはりあれだけ力の差が顕著ですと……。お二方ともむやみに力を使う御方でないと理解はしてますけど」
ちなみに酔った貴女はお二人を “極上のご馳走” を狙う目で見てました。
酔いってすごいな、綾は思った。
「綾さんは妖力がないからわからないでしょうけど、あやかし同士だと力の差を肌で感じるものなんですよ」
苦笑いしながら幸が説明してくれる。
成程、妖力。
うん、全くわかりません。
「お二人ってそんなに強いんですか?」
炒めたベーコンや玉ねぎ、じゃがいもを卵を溶いたボウルに加えて混ぜ合わせながら綾は問う。
羅刹と九十九の二人が別格の扱いをされているのは綾もなんとなく気づいていた。
九十九さんは偶に扱いがアレだけど……。
「そりゃあ、ね。まず数が違うもの。私たちみたいなあやかしとは。鬼も狐も種類も数も沢山いるでしょ」
「それらを束ねることが出来る方達ですもの。お強いのは当然ですわ」
「あやかしのトップって実力制?」
フライパンに卵液を流し込みながらの問いには揃って大きく頷かれた。
それは強いな、と納得した。
「えー、羅刹さんも九十九さんも凄い。妖力とかピンとこないけど……。お二人とも怖いイメージ全然ないしなぁ」
納得したけど、ピンとこないものはピンとこない。
「でも雪音さんの言う通り、綾さんや蒼くんといる羅刹様を見て随分見方が変わりました。鬼の方は気性が荒い方も多いんですが、あの方は違いますしね」
「荒いどころか鬼の概念ぶち壊れました。羅刹さんは優しいし、蒼くん可愛い!あ、でも幸ちゃんは比較的普通に話しかけてない?」
「私はまぁ、年の功と言いますか」
……あなたが一番見掛け年齢若いんですけど。
もやっとした気分を抱えつつ、綾はフライパンをひっくり返した。
きれいな黄色のオムレツをケーキのように8等分にカットする。
「スペイン風オムレツで~す。お好みでケチャップつけてくださいね」
ゴロゴロしたじゃがいもと炒めた玉ねぎの甘みに、ベーコンと粉チーズがいい仕事をする。
そのまま食べて優しい味わいを楽しんでもいいし、物足りなければケチャップをつけてもいい。
冷めてもおいしいので作り置きできるのも便利な料理だ。
……もっとも、羅刹たちに出せば一瞬でなくなるが。
「気後れはするけど、性格的にはまともっぽいわよね」
雪音の発言に綾は全力で頷いた。
個性派ぞろいのあやかしたちの中で一番の常識人(人じゃないけど)だと思っている。
「あとやっぱり綾は特別だと思う。じゃなきゃ来ないでしょ、毎日」
「えー、それは私が弱いからじゃないですか?出会いもあやかしに襲われてたし」
「それこそ興味がなければほっとくでしょ?」
「わたくしも綾さんたちと話す時は特に雰囲気が柔らかいと思いますわ」
どうしても恋バナに持っていきたいらしい雪音たちと否定する綾のやりとりを、クスクスと口元に手を当てて笑いながら幸が見ている。
「若い方達はいいですね」
だから見掛けが一番若いのはあなた……。
外見年齢と一致しないあやかしの年齢は非常にわかりづらい。
そしていつものように「酔」に訪れた羅刹を見て、雪音がとてもにやにやしていた。




