海老とシラスのアヒージョ 2
「食欲をそそる香りですね」
「はい、本当に」
「や~ん!おいしぃ!ビールが進むわー」
興味深そうにスキレットを覗き込む糸織と幸。
その横で早速バゲットに海老とシラスをたっぷりオイルごと乗っけて、一口齧った雪音がぐびっとビールを流し込んだ。
実にいい飲みっぷりだ。
雪音を真似て二人もバゲットに手を伸ばす。
海老がそこそこ大ぶりなため、マッシュルームと一度に乗せるとコロッと転がってしまったりしてなかなか苦戦しているようだ。
新しいおしぼりをそっと用意した。
「これは確かにお酒に合います」
「飲み過ぎは厳禁ですよ?」
お口に合ったらしい糸織にすかさず釘を刺すことも忘れない。
ある意味彼女はこの店で一番の酒癖の悪さを誇るお方だ。
「大蒜がたっぷりですね」
「アヒージョってのは“刻んだニンニク”って意味だからね。たっぷりのニンニクを焦がさず弱火でじっくり火を通すことがポイント」
様々な具材で作れるアヒージョだが定番はやはり海老や蛸だろう。
オイルの風味ともよく合うし、歯ごたえもいい。
今日は気分でそこにシラスも加えてみた。シラスは塩気があるので味が濃くなってまた美味しい。
近頃は手軽に作れるシーズニングとかもありますが、味付け以外のポイントは弱火でじっくりと、具材の水分をよく拭き取っておくことです。
「そういえば、この前言っていた殿方とはどうなったんですの?」
今日は比較的男性客が少なく、女性客が多い。
そうなると話は自然に恋バナに向かいがちだ。
機嫌良さそうにジョッキを傾けていた雪音の顔がスンと表情を消した。
心なしか冷気も薄っすら漂っている気がする。
「それが最悪。見掛けはまぁまぁだけど中身がクズだった」
絶対零度の声音に詳細を問える勇者はいなかった。
彼女が愚痴りたいなら存分に聞き、なんなら一緒に相手を非難する準備はあるが、話題に出すのも腹立たしいという雰囲気だ。
綾は新しい酒を用意し、幸たちが料理の小皿をそっと雪音へ寄せる。
幸い吹雪になることなく、雪音は料理と酒を楽しみはじめた。
「あ~あ、どっかにいい男いないかしら?」
「九十九さんとかは?」
「……なんでアイツなのよ?」
ジト目で見られた。
「気が合わないから無理!!」
きっぱりと断言する雪音だが、周囲の客一同としては喧嘩するほどなんとやらと思ってしまうのも仕方ない。
顔を合わせばはじまる言い合い。
「お前ら、絶対仲いいだろ?」とは誰もが一度は思ったことだ。
美男美女同士お似合いだと思うんだけどなぁ……。
これ以上突っ込めば怒られそうなので綾は心の中でそう零した。
そんな綾を上目遣いで覗きこんだ雪音が、カウンターに身を乗り出してちょいちょいと綾を招いた。
「それこそ綾はどうなのよ?旦那となんか進展ないの?」
「旦那?」
誰?と素で首を傾げる綾に雪音の視線が胡乱なものへと変わる。
苦笑いを浮かべてやりとりを眺める幸たちは理解しているようだ。
「甲斐甲斐しく毎日迎えに来てくれるでしょ」
その言葉にああ、と綾は頷いた。
迎えに来てくれるというのなら、それは羅刹のことだろう。
「そういうのじゃないですよ」
“旦那と子供”と例える幸音の言葉に綾は笑って手を振った。
「ええ~」とつまらなそうに唇を尖らす雪音には悪いが、期待に応えらえるような色っぽい関係などなにもない。
「ぶっきらぼうだけど羅刹さんはすっごい優しいですよ。私の面倒も見てくれて、蒼くんだって懐いてるし。私からすると羅刹さんが恐れられてることの方が不思議なくらい」
ちなみに蒼は羅刹のお兄さんの子だ。
事情があって彼が預かっているらしい。
「まぁ、ね。実際イメージはだいぶ違ったわ。でもねぇ……」
髪を耳にかけつつ雪音が言葉を濁した。




