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15.なんと俺達は隊を組めないかもしれません


──ルークとミスティーが聖騎士団の入団試験に合格した翌日、2人は見習い聖騎士達の顔合わせに参加するべく騎士団の訓練兵舎を訪れていた。


「ふーん。なんか、思ったよりも人数少ねぇな……こんなんで冬のなんたらと戦えんのか?」


 兵舎前の広場は普段、様々な訓練などにも使われる為に広大な広場になっている。そして現在その広場には、100人程の聖騎士見習いがひしめいていた。


 三分の一程はミスティーやアルエと同じ白い髪に白い肌の人族(ヒューマン)で、残りは肌や髪の色が白ではない人族(ヒューマン)、オーガや獣人などの亜人族(デミヒューマン)であった。


「わんこ君には少なく感じるかもしれないけど、これでも例年よりはずっと多いよぉ? まぁ、今年は聖騎士団に入る最後の機会かもだからねぇ〜」


「……そういやぁ、その()()ってのはどういう──」


 ルークが頭によぎった素朴な疑問をミスティーに投げかける直前……不意に横槍が入った。


「──例年よりも人数が多いのは、陛下のお達しで今年に限ってはあなた達みたいな人でも神イリスの恩寵(おんちょう)(たま)われるという触れ込みがあったせいでしょう」


 ルークの話を遮ったのは、小綺麗な服に身を包んだ小柄な青年だった。


「なんだぁこのチンチクリン、勝手に話に割り込んで来てんじゃねぇよ」


「あはは、何だか面白そうな予感〜」


 ミスティーが(いさか)いの予感に手を合わせて口角を釣り上げた。そんなミスティーとは裏腹に、ルークは酷く不機嫌だった。というのも、相対した青年がかなりの美青年だったからである。


「おうおう、何とか言ったらどうなんだこんにゃろーイケメンだからって負けねぇからなぁ!」ルークは死んだ目をめいっぱいかっぴらいて青年を威嚇した。


「見習いとはいえあなたも聖騎士団に席を置く身なのですから、もう少し身なりや言葉遣いに気を使ったほうがいいんじゃないですか?」


「……んなッ!?」


 青年はほんの一瞬でルークのメンタルに大ダメージを与えて、その場から颯爽と立ち去ってしまった。そして、入れ替わるように1人の女がルークの前に現れた。白い髪に白い肌、年の頃はルークとそう変わらず無機質な瞳が眼孔に埋め込まれていた。


「マスターに近づかないで下さい。この野蛮人」


 無機質な瞳の女は、吐き捨てるようにそう言って先程の美青年の後を追った。


「な……ちょ、はぁ!? なんだアイツら、くそムカつくんですけど!?」


「ふふ、わんこ君が没落貴族に噛み逃げされてる〜」


「没落貴族だぁ? ミスティーあいつらのこと知ってんのかよ」


「うん。元伯爵家の末っ子だねぇ。背の低い方がアイビー・べリス。後ろにくっついてたのはお目付け役かなぁ」

 

「けっ、没落してるくせに偉そうな奴らだなぁ」


「個性的で楽しいじゃない〜他にも面白そうな人達がチラホラ居るねぇ」


 ミスティーはかき上げた髪を耳にかけながら広場の中央を見据えた。


 視線の先では、何やら見習い聖騎士が小さな騒ぎを起こしていた。


「──俺の親父はそいつらに殺されたんだ! なんで罪人がこんな所にいやがる、さっさと処刑しろ!」


 大柄な男が野太い声で怒鳴った。


「……おいミスティー、どうやら同僚に殺人鬼がいるみたいだぜぇ。まさか楽しそうってアレのことか?」


 ルークは眠たげな眼をさらに細めて様子を伺った。怒鳴っている男の正面には、白い髪に一筋の赤い髪が混じった女が立っていた。


「おやおや、このような公衆の面前で堂々と……わたくし照れてしまいます」


「このアマァ、何を言ってやがるんだ!?」


「皆まで言わずとも分かりますとも。わたくしの気を引こうとなさってるんでしょう? どこに居ても殿方を魅了してしまうのって罪ですよね」


「こ、このアマ……何を言ってやがるんだ?!」


 大袈裟に肩を竦めた女に、大男は困惑の表現を浮かべた。会話が全く噛み合っていなかった。


「──おい。余計な騒ぎを起こすな」


「あらやだ、わたくしそんなつもりはこれっぽっちもありませんとも〜」


 白髪で線の細い男が、女を窘めて広場の中央から移動した。ちょうどルークとミスティーの方に向かってである。


 2人はルークとミスティーの脇を通り過ぎると、人の少ない広場の端の方に落ち着いた。


「よく見ると女の子の方可愛いかったな。名前は何ていうんだろ〜」


「わんこ君の頭の中って単純そう……」


「複雑でないことは確かだな」


 ルークとミスティーが軽口を叩きあっていると、兵舎の門が重苦しい音を立てながらゆっくりと開いた。現れたのは腰に剣をたずさえ、純白のマントをたなびかせた数人の聖騎士だった。


「お、あのちびっ子は確か騎士団で2番目に強えっていう……」


「サー・リコリスだね。ようやく始まるのかな?」


 喧騒の中、まとまりのなかった聖騎士見習い達はサー・リコリスを筆頭とする聖騎士の登場に静まりかえった。


 サー・リコリスは広場を一瞥(いちべつ)すると、指を打ち鳴らした。その途端、サー・リコリスの傍に控えていた漆黒の騎士が、携えていた巨大な鉄製の棺桶を地面に打ち付けた。


 腹の底まで響く轟音と衝撃、広場の聖騎士見習い達は固唾を飲んでサー・リコリスに注意を向けた。


(つぼみ)の騎士 リコリス・コフィンである。アルエ陛下の勅命により、貴様ら見習い騎士共の教官の役を賜った。よってこれより、わしが責任をもって貴様らを使い物になる剣に育ててやる。期間は一月じゃ。一月で使い物にならん者は死ね」


 サー・リコリスの言葉に、見習騎手達は声を潜めながらざわついた。無論、ルークも例外ではない。


「なぁ、もしかして聖騎士って嫌な奴しかいねぇのか?」


「さぁ、強い人しかいないのは確かだけど……強い人が皆嫌な人なんじゃない〜?」


「世知辛い世の中だぜ」


 ルークは大きなため息をついて肩を落とした。アルエとの結婚のために勢いでここまでやって来たが、冷静になると途端に現状が面倒に感じ始めたのである。


 しかし、そんなルークはお構い無しにサー・リコリスは淡々と話を続けた。


「通常、聖騎士は少なければ2人、多ければ10人程の隊を組んで行動する。貴様ら見習いは2人3組の隊を組み、一月の間に領内で任務に当たってもらう。完遂出来れば(ほまれ)ある聖騎士の称号は貴様らのものじゃ。期間内に任務を終えられなかったり、死んだりすればそれまで……その時はわしの聖剣の糧にでもしてやろう。安心して励め」


「リコリスさんよぉ、その任務ってのはどんなのがあるんだ? 出来れば1番簡単なやつがいいんだけど……それか1番楽なやつ」


 ルークの不躾な質問に、広場の空気が一瞬にして凍りついた。そばに居るミスティーは吹き出しそうになるのを必死に堪えているが、周りの見習い騎士達はもれなくドン引きしていた。


「……ルークよ。任務はホワイトシェルの各領内に数多(あまた)ある。低級魔獣や盗賊団の討伐、前線基地の防衛補助、あとはそうじゃな……」


 サー・リコリスは懐から取り出した羊皮紙の束をパラパラと捲り、ふと手を止めた。


「これなんぞ貴様にピッタリじゃ。鉱山にて聖剣の材料となる鉱石の探索……ただの廃坑で石を探すだけじゃからのう」


「石探すだけ!? 最高じゃねぇか!!」


「であろう。さて、任務の詳細をまとめた受諾用紙は後ろのボードに貼り付けてある。貴様らは10分以内に隊を組んで受諾用紙をわしに渡せ。遅れれば……わかるな?」


 見習い騎士達はサー・リコリスとルークのやり取りに様々な感情が渦巻いていたが、それはあっという間に吹き飛んだ。各々が近くにいる見習い騎士に声を掛け、大慌てで隊を組もうと動き始めたのだ。


「どうするわんこ君〜10分以内に隊を組まないと聖剣の肥やしにされちゃうよぉ」

 

「どうするもこうするも、適当に2組声掛けりゃあいいだけだろ。まぁ俺に任せとけ」


 ルークは1番近くにいた見習い騎士に声をかけた。白い髪に白い肌の男女である。


「よぉ、俺たちと隊を組もうぜ」


「……げ、いや、他を当たってくれ」


 ルークに声をかけられた男は、相方の女を連れて逃げるように立ち去ってしまった。

 ルークはほんの少し呆気にとられたが、すぐに気を取り直して他の見習い騎士に声を掛けた。声を掛けまくった。


 しかし、誰も彼もがルークをけんもほろろにした。


「……さすがに執行官とあのやばそうな男とは組みたくねぇよな」


「……男の方、目付きがいやらしい……絶対組みたくないわ」


 ヒソヒソと話す声が耳に入って、ようやくルークは確信した。自分達が避けられていることを。


「……どうしようミスティー。なんと俺たちは隊を組めないかもしれません」


「えぇ〜俺に任せとけっていってたのに〜わんこ君使えなぁい」


 青ざめたルークの額を、ミスティーは指で弾いてクスクス笑った。ルークは涙目である。既に残り時間は5分を切っていた。


「もう皆ほとんど隊を組んだみたいだねぇ。()()が任務の受託用紙に殺到してる」


「なんてこった、俺の石探しの任務が取られちまう!」ルークが露骨に取り乱しながらそう言った。


「──あの、よければわたくし達と隊を組みませんか?」


 背後からの声に、ルークは勢いよく振り返った。目の前に居たのは、先程大男と揉め事を起こしていた女とその相方の男だった。


「うわ可愛い、お名前は何て仰るんですか? あ、俺はルーク! 好きな物はモーマウの串焼きで嫌いなものはクモです! えへへ」


 ルークはほんの1秒前まで取り乱して居た男とは思えないほどに鼻の下を伸ばして目の前の女に手を差し出した。


「これはどうもご丁寧に、わたくしはミラノ・シナリスです。好きな物はわたくしで、嫌いなものは軽薄な殿方です」


 ミラノはニッコリと笑って、差し出されたルークの手を華麗にスルーした。


「ケインだ。ケイン・ラモル」


 男の方は、それだけ言って黙りこくった。


「わぁい、楽しそうな人達と隊を組めてよかったねぇわんこ君〜」


「……うん。そうだな」


 ミラノに握手を拒否されたルークは、ガックリ肩を落として投げやりに返した。


「──どうやら我々で最後のようですね、不本意ながら私達の隊に入れてあげましょう。では、さっさと受諾書を取りに行きますよ」


「おいおいおいおい待て待てぇい!」


「……なんですか?」


「なんですか? じゃねぇよこのチビ美少年! なんで勝手に俺の隊に入って来てんだよ!」


 サラッと参加していたのは、広場に来て早々ルークに文句を付けていた没落貴族の2人だった。当然ルークは不満を爆発させた。


「あなたの隊に入ったんじゃなくて、私の隊に入れてあげたんです。どの道私たちが最後の3組なんですから、組む他に道はないですよ」


「マスターのおっしゃる通り。サー・リコリスに殺されてしまえ野蛮人」


「俺が死んだら隊を組めないでしょうが!!」


「まぁまぁ、私たちみんなあぶれ物なんだから仲良くしようよぉ〜」


 普段混沌とした状況こそを好むミスティーが、その場を纏めようとした発言をしたことにルークは内心で感動した。


「嫌われ者の執行官の私に、頭空っぽのわんこ君、没落貴族のべリスちゃん達と殺し屋一家シナリスの生き残り……こんなろくでもない隊、きっと楽しい事になるよねぇ〜」


 ルークの感動は、潮が引くように消えていった。ミスティーの発言で明らかに剣呑な空気が流れたからだ。


「……あー、とにかく俺は聖騎士団で一番になって、アルエと結婚しなきゃなんねぇから、お前ら邪魔だけはすんなよ」


 ミスティーの言った通り異色のメンバーが集った隊だったが、この瞬間に満場一致で一番の異常者が誰なのかがハッキリと全員の意識に刷り込まれた──








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