16.俺たちいいチームになれそうだな
──聖騎士団兵舎での顔合わせと聖騎士認定への任務、そしてそれに当たる隊を無事に組み終わったルークは、一人でスパイダーの金庫番を訪れていた。
「ってことで、ミラノって可愛い子と、ケインって陰気くせぇやつと、没落貴族のチビとその付き人と隊を組むことになったわけだ」
「ふむ、あいも変わらず君の話は聴いていて飽きないな。なにか波乱を呼び込むコツでもあるのかね?」
スパイダーは丁寧にパイを切り分けながらそう言った。切り分けられたパイは取り皿に盛られ、ルークの前へと差し出された。
「好きでメチャクチャになってるわけじゃねぇんだよ……これ、なんのパイ?」
「心配せずとも盗人の肉で作ったミートパイではない。ポローナという果実で作ったありふれたデザートだ」
ルークはスパイダーの説明を聞くなり、パイに齧り付いた。そしてすぐさま「うめー!」と天を仰いだ。そうすると見上げた視界に大量の巨大蜘蛛が蜘蛛の巣やら壁にやら張り付いているのが映ってしまい、「うげぇー」と項垂れるのであった。
「それにしてもバルガ鉱山とはな。一月後に生きて帰って来られたのなら、土産話を聞かせてくれたまえよ」
「あぁ? ただ廃坑で石探しするだけぜ、なんでそんな不穏なこと言うんだよ旦那ァ」
「なぜまだ鉱石が採れるのに廃坑になっていると思うのかね」
「……まさか、ガスとか?」
「それは鉱石掘りには例外なくついてまわるリスクだろう。バルガ鉱山にはね、いくつかのいわくがあるのだよ──」
* * *
【聖騎士認定任務 1日目】
──ルーク一行は、荷馬車で任地であるバルガ鉱山へと向かっていた。
荷台で揺られるルークは、居心地の悪さと手持ち無沙汰が相まって浮かない表情を浮かべていた。
「……よぉ、そういやぁお前、名前は?」
広いとは言えない荷台、対角線上に座っていた少女にルークは声を掛けたが、帰ってきたのは冷たい視線だけだった。
「彼女はプリエラ。代々私の家に仕えている家系の者で、私の身の回りの世話をしてくれています」
ルークを睨みつけるだけのプリエラの代わりに、美青年のアイビーが答えた。
「身の回りの世話っつーと……」
「わんこ君最低〜」
「まだ何も言ってねぇだろ!」
「目は口ほどに物を言うというやつですね。ルークさんの場合、目というか顔つきに全てが滲み出ていますけど」
「ミラノさん? 俺アンタになんかした?」
「されないように気をつけたいと思います」
「……おい、お前の相方ちょっと性格悪いんじゃねぇか?」
ルークは目を閉じて腰掛けていたケインにそう言った。
「黙って座ってろ」
しかし、ケインは目を開けることもなくそう返した。
「驚くことに、第一印象が最悪だったアイビーだけが俺とまともに会話をしてくれてんぜ」
「別に親交を深めたいわけではないので必要以上の会話は控えてくださいね」
「んだよお前ら! 軒並み揃って俺と仲良くしたら死ぬ呪いにでもかかってんのか!?」
「はいはい、わんこ君には私がかまってあげるから静かにしようねぇ〜ケインさん体調悪そうだから寝させてあげようよ〜」
ミスティーがルークの頭をやや乱雑に撫でながらそう言った。
「ったく、仕方ねぇなぁ。ケインも馬車に酔ったんなら最初っからそう言えよな、水臭いぜ」
ケインが全くの無反応を決め込んだので、ルークは諦めて隣のミスティーに向き直った。
「なぁミスティー、あの没落コンビはなんで没落しちまったんだ? それに殺し屋が聖騎士になる理由もよく分かんねぇし」
素っ気ない態度をとられた仕返しとばかりに、ルークが意地の悪い質問をした。質問の答えにはあまり興味はなく、この質問をすること自体が目的だった。
アイビー、プリエラ、ミラノはもちろん、目を閉じていたケインまでがジロリとルークを睨めつけた。
「べリス家は今私たちが向かってるサタナキア領を統治してた侯爵家だよぉ。まぁ10数年くらい前までは、だけどね〜」
「ほへー、じゃあその10数年前になんかやらかしたのか」
「そうそう、当時の領主であるウィリアム・べリス侯爵が冬王軍に寝返ったんだよ〜大騒ぎだったって聞いてるね〜」
ミスティーの言葉にアイビーは拳を握りしめた。プリエラも剣呑な気を放って、斜向かいのルークとミスティーを睨みつけていた。ミスティーは構わずに続けた。
「で、当然爵位は剥奪……婦人は気を病んで寝たきり、聖騎士だった嫡男のヘデラは欲をかいて分不相応な任務を受けて死亡。残された兄妹はさぞ大変だったろうねぇ〜」
ルークには荷馬車の車輪が地面を転がる乾いた音がやけに大きく感じた。それ以外の音がなく、荷台が静まり返ってしまったからだ。
ルークは自分で蒔いた種から、とんでもない毒花が芽生えてしまったと後悔した。しかし、時すでに遅し──
「殺し屋シナリスの一族はねぇ、簡単に言えば王国公認の殺し屋一家だったんだけど、密告で王家に反逆を企ててるのがバレて皆処刑されちゃったんだよ。それでねぇ、面白いのが密告したのはシナリス一家の末の妹ってこと〜」
ミスティーは目元を覆い隠す布ごしにミラノを見据えてそう言った。
ミラノは無表情に、しかし暗い瞳をミスティーに向けている。
「家族を売って自分だけ助かろうとした末っ子ちゃんだったけど、結局処刑される事になったんだよねぇ。で、生き汚い末っ子ちゃんは頭を捻って聖騎士団に志願……罪人であれ聖騎士にさえなればの罪を放免するっていう新王のお達しに縋ったってわけ〜ケインさんはよく知らな〜い」
ようやく口を閉じたミスティー。ルークは額に冷や汗を浮かべてなんとか凍りついた空気を暖めなければと考えた。そうしなければ、気まずさでどうにかなってしまいそうだった。
「……あー、なんつーか、俺たちいいチームになれそうだな!」
ルークがそう言った瞬間、プリエラがルークの顔面目掛けてナイフを投擲した。狭い荷馬車での不意打ちに、さすがのルークも反応出来なかった。
ナイフはルークの眉間に深々と突き刺さる直前、ミスティーに掴み止められた。
「……ひぇ」
ルークは空気が抜けるような声をあげて固まり、ミスティーは掴んだナイフをプリエラの前に投げ返した。
「プリエラちゃんナイフ落としたよぉ。危ないからちゃんと持っててねぇ。私の犬が怪我しちゃう」
──その後、サタナキア領に到着するまでの約2日間、一行には特に会話らしい会話はなかった。
* * *
【聖騎士認定任務3日目】
──サタナキア領に入り、バルガ鉱山の麓にある街に辿り着いたルーク一行は、拠点となる宿屋で荷物を解いていた。
「……はぁ、こんな狭い部屋のなのにアイツらと一緒じゃねぇってだけで広く感じるぜぇ」
ルークはベッドに身を投げ出してそう漏らした。するとミスティーがベッドの縁に腰かけて、ルークを横目に口を開いた。
「ふふ、まだ目的地に着いただけなのにゲッソリしてる〜」
「誰のせいでゲッソリしてると思ってんだよミスティーさんよぉ」
「あの四人でしょぉ? 私あの人たち嫌い〜私のわんこ君に意地悪するんだもん〜」
──ガンッ!!
隣の部屋と接する壁から、何かを叩きつけるような音が響いて天井からホコリがパラパラと降り注いだ。
「……このボロ宿、相当壁が薄いみてぇだな。お願いだから小さい声で話してくださいミスティーさん」
「はーい。ヒステリックなお隣さんに気を使った声量を心掛けるねぇ〜」
ミスティーがそう言うと、隣の部屋から壁越しに声が漏れ聞こえてきた。
『──離してくださいアイビー様!』
『落ち着けプリエラ、壁に穴を開ける気か!?』
『あの女の額に穴を開けてやるのです!』
ルークは目の下をヒクつかせながらベッドから身体を起こした。
「鉱山に行こう」
「鉱山に行くのは昼からでしょぉ? 早めに着いたから部屋でゆっくり出来るって言ってたじゃない〜」
「たった今、部屋でゆっくり出来ると言ったのは間違いだったと気づいちまったんだよ」
こうして、ルークとミスティーは一足先にバルガ鉱山へと向かうことになった──




