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そうして、ベレン・バーゼンと少女の奇妙な同居生活が始まった。
少女の名前はキラナといった。
この小さな同居人は、八歳の少女とは思えないほど物静かで規則正しく、そして聡明だった。
ベレンの生活のルーティンを学習すると、それに合わせるように決まった時間にきっちりと起床し、着替え、食事をとり、時折ベレンの雑務を手伝った。
そもそもベレン自身、同僚に『機械のように規則正しい』と言われるようなルーティンで生活をしている。
毎朝決まった時間に起き、水を飲み、ストレッチをし、食事を作って食べる。その後の雑用、そして仕事――
独り身のベレンにとっては、いくら幼いとはいえ少女と同居することは落ち着かない……そう思っていたのは最初だけだった。
確かにキラナは――歳不相応に知能が高いものの――感性自体は歳相応なのか、ベレンのことは全く男性として気にしておらず、無防備というか部頓着な部分があった。
その一例が「この部屋は床暖房が効いて快適だから」などと言って平気で薄着のまま部屋をうろうろするところだ。
本当の家族ならともかく、あくまでお互いの都合で同居しているにすぎない――その関係性でこの態度はどうなのか、いくら幼いとはいえ何か気にしたりしないのか、ベレンは最初こそそう思っていたが、すぐにキラナという少女を理解した。
彼女は、無頓着な部分にはとことん無頓着なのである。
それは世間一般の価値観など関係なく、全て自分の感覚と合理性で判断して行動するのだ。
自分の服装を気にしないのもその表れでしかない。
それがわかれば「もう少し恥じらいを持った方が……」などという不毛な言葉をかける必要も感じなくなった。
それが『彼女の最適』ならばそれでいい、ということだ。
実際、キラナは彼女と同年代の普通の少女よりも――それどころか他の大半の人間よりも――ベレンにとって一緒に過ごすのに都合の良い人間だったが、一方で「やはりこの少女は異常だ」と感じていた。
そもそも、八歳の少女がベレンの生活ルーティンに違和感なく溶け込み、対等に会話をしているのが異常なのである。
普通の八歳の少女なら一体何に興味を持って、何に喜ぶだろうか――そんな普通ですら、彼女と居ると失念してしまった。




