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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter1 <Days at home with ***>
6/45

1-5

 そうして、ベレン・バーゼンと少女の奇妙な同居生活が始まった。


 少女の名前はキラナといった。

 この小さな同居人は、八歳の少女とは思えないほど物静かで規則正しく、そして聡明だった。

 ベレンの生活のルーティンを学習すると、それに合わせるように決まった時間にきっちりと起床し、着替え、食事をとり、時折ベレンの雑務を手伝った。


 そもそもベレン自身、同僚に『機械のように規則正しい』と言われるようなルーティンで生活をしている。

 毎朝決まった時間に起き、水を飲み、ストレッチをし、食事を作って食べる。その後の雑用、そして仕事――

 独り身のベレンにとっては、いくら幼いとはいえ少女と同居することは落ち着かない……そう思っていたのは最初だけだった。


 確かにキラナは――歳不相応に知能が高いものの――感性自体は歳相応なのか、ベレンのことは全く男性として気にしておらず、無防備というか部頓着な部分があった。

 その一例が「この部屋は床暖房が効いて快適だから」などと言って平気で薄着のまま部屋をうろうろするところだ。

 本当の家族ならともかく、あくまでお互いの都合で同居しているにすぎない――その関係性でこの態度はどうなのか、いくら幼いとはいえ何か気にしたりしないのか、ベレンは最初こそそう思っていたが、すぐにキラナという少女を理解した。


 彼女は、無頓着な部分にはとことん無頓着なのである。

 それは世間一般の価値観など関係なく、全て自分の感覚と合理性で判断して行動するのだ。

 自分の服装を気にしないのもその表れでしかない。


 それがわかれば「もう少し恥じらいを持った方が……」などという不毛な言葉をかける必要も感じなくなった。

 それが『彼女の最適』ならばそれでいい、ということだ。


 実際、キラナは彼女と同年代の普通の少女よりも――それどころか他の大半の人間よりも――ベレンにとって一緒に過ごすのに都合の良い人間だったが、一方で「やはりこの少女は異常だ」と感じていた。


 そもそも、八歳の少女がベレンの生活ルーティンに違和感なく溶け込み、対等に会話をしているのが異常なのである。

 普通の八歳の少女なら一体何に興味を持って、何に喜ぶだろうか――そんな普通ですら、彼女と居ると失念してしまった。

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