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夕方になって自宅での仕事を終えたベレンがニュース番組をつけると、新しいマスドライバーの建設が完成したことが報じられていた。
<モノケロス>と名付けられたそれは、インド洋上に浮かぶ人工島に設置されているという。
「なぜあんな非効率的なものを作るのですか?」
キラナはニュースを見てぽつりと呟いた。
「熱核ロケットが実用化できたのだから、それを使って打ち上げればいいのに。どちらにせよ、あのサイズでは低軌道に打ち上げることもできないと思いますが」
キラナの言葉を聞いて、ああ、彼女は本当に聡明だな、とベレンは思う。
「熱核ロケットが実用化されたからだよ」
ベレンは答えた。
「君のいうとおり、マスドライバーの初速だけで衛星軌道に乗ることなんてできない。だがそれでいいんだ。ある程度の高度まで到達すれば、ロケットの推力で打ち上げる」
「なら、最初からロケットの推力で打ち上げばいいのでは? 燃料節約のためですか? さほど効果があるとは思えませんが……」
「いいや、環境規制だよ」
ベレンは溜息をついた。
「熱核ロケットは海抜3000メートル以下での使用がアンカラ条約で禁止されている。だから高度3000メートルまではマスドライバーの初速と慣性で打ち上げて、そこからロケットを点火するんだ」
「なるほど……確かに打ち上げはそれでいけるでしょう。でも地表への着陸は?」
「宇宙からの物資輸送に関してはパラシュートでの着水が多いかな。人の往来に関しては、パラシュートより有翼シャトルが主流だ。これで<モノケロス>がなぜわざわざ海上に建設されたか理解できたかな?」
「……なるほど<モノケロス>は物資輸送がメインのマスドライバーなのですね。それで宇宙からの物資は海上に着水させて回収するということですか」
「そう。加えて言えば宇宙から送られる物資より宇宙へ送り出す物資の方が圧倒的に多い。だからこんな非効率なシステムでも、今のところは成り立つんだ」
「なるほど……」
キラナは興味深げな顔で頷いた。
「色んな事情があるんですね。条約のことも初めて知りました」
「ああ、水素やメタンロケット、固体燃料ブースターなら地上から飛ばしているからね。そこらへんの事情も様々だ」
「なるほど……禁止されているのはあくまで熱核ロケットだけだから、ですね」
キラナの理解は早かった。
ベレンも彼女の理解力が高いため、ついつい生徒に講義するような調子で話してしまう。
(もしかして、だから彼女は重宝されたのか?)
ふとベレンは思う。月面で違法な研究をしており、そして未だに行方をくらましたままの――<ルナティックレイカー>の研修者たち。
彼らもまた、キラナに対してベレンと同じような感想を感想を抱いたのかもしれない。
明らかに年齢に不釣り合いな頭脳と、子供とは思えないほど安定した性格。
(一体……彼女は何者なんだろう?)
ベレンは改めて彼女のことが気になった。




