2-8
結局、ベレンとキラナは同じベッドで寝ることになった。
ベレンにとっては久々のベッドでの睡眠で、逆に違和感があるくらいだ。
「……眠れませんか?」
そんなベレンの様子を察してか、キラナが声をかけてくる。
「眠れないわけではない。……ただ正直、不安はあるな」
ベレンは答える。
「こんな呑気に二人で寝て大丈夫だろうか、とな。確かに追っ手は撒いたが、我々を追っているのが彼らだけとも限らない……」
平時ならともかく、今の状況でこのような睡眠をするのは、とても無防備なように思えてしまう。しかし、
「大丈夫です」
「どうしてそう言える?」
ベレンの問いに、
「――分岐点を、超えたからです」
キラナはそう答えた。
「……分岐点?」
脈絡のない言葉に困惑するベレンに、キラナは説明する。
「未来の確率は事象に対して一定ではないんです。そして必ず、その確率が変動するポイントが存在します。それが分岐点です」
「ふむ……」
ベレンはキラナの言葉を咀嚼する。
キラナは時折、ベレンにとって不可解なことを言う。
しかし彼女は賢い。ベレンが理解できないと思ったのなら、それは単純にベレンの理解力が追いついていないだけなのだ――そう思うことにしている。
ベレンは一通りキラナの言葉を頭の中で、整理し、要約する。
「我々は逃げ切れるルートに入ったと、そう解釈していいのか?」
「はい。少なくとも、<チラヴェーク>を受け取るまでは」
キラナはベッドの中で頷いた。
「私たちはこのまま寝て、明日のモーニングコールが鳴る前に普通に起きて、普通に朝食を食べて、普通に出発すればいいんです。旅行客みたいに」
「そうか……」
キラナの言葉は、根拠が無いはずなのになぜか不思議な説得力と安心感があった。
しばらく沈黙が続く。
その後、キラナはぽつりと呟いた。
「家族なら……」
「――うん?」
「家族ならこうして同じベッドで寝たりするものでしょうか」
「どうかな……そうかもしれない」
ベレンは答える。
「子供を持ったことはないから、わからないが」
「子供……」
キラナは繰り返す。
「じゃあ奥さんは? 恋人は?」
「結婚はしたことがない。恋人は……昔に何人か」
「今は?」
「今は、見ての通りさ」
「見ての通り……」
キラナはベレンの言葉を繰り返し、
「じゃあ、今は幸せかもしれませんね」
「幸せか。どうして?」
「だって――私がいる」
キラナの意外な言葉にベレンは少し笑い、
「そうか……はは、確かに」
(聡い子だ。わざわざリラックスさせてくれようとしてるんだな)
ベレンはそう言って笑ったが、キラナは答えず、寝返りをうった。
「どうした?」
「別に。まだ早かったかなって、そう思っただけです」
(早かった……?)
「おやすみなさい、ベレンさん」
「ああ……おやすみ」




