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それから、キラナは宣言通り自室に引きこもった。
朝から夜までずっとPCに向かい、作業を続けている。
自室から出てくるのはトイレとシャワーを浴びる時くらいで寝ているかどうかも怪しいものだった。
食事すら忘れて作業に没頭するキラナの様子を心配したベレンは何度か彼女の自室にサンドイッチを差し入れたりした。
そしてちょうど一週間後の朝。
「――ベレンさん」
眠そうに欠伸をしながらPCを抱えて自室から出てきたキラナは、朝食の準備をしようとしていたベレンに声をかけた。
「……できたのか」
「はい」
振り返ったベレンは、キラナの様子を一目見ただけで彼女の「設計」が終了したことがわかった。
元々表情に乏しいキラナだが、それでも彼女の様子は僅かばかりの倦怠感と疲労感、そしてその中でも満足感が感じられる。
「それで、またお願いがあるのですが」
「ああ、何だい」
「これを、キエフのアントノフ設計局に発注して欲しいんです」
「発注……このデータのものを作って欲しいと?」
「そうです。詳細は全てデータの中にあります」
「だが……費用は? 何を発注するのかわからないが、おそらく個人で出せるような費用ではないだろう」
困惑するベレンだったが、
「費用は必要ありません」
キラナは言った。
「中を見せれば、彼らは作るはずです」
「話がよくわからないが……」
「とにかく、アントノフ設計局に中のデータを渡してくれれば大丈夫です。あとは全て、勝手に話が進むはず。でもベレンさんが心配だと言うのなら――万一の時は私が対応します。何か支障が生じたら相談してください」
「…………わかった」
考えた末、ベレンは言った。
「とにかく、私の方からデータを渡しておけばいいんだな」
「はい、お願いします」
「わかった。まあとりあえず、先に食事にしようか。データの方は後で処理しておくよ」
ベレンはそう言って、その話題を終了させた。




