38 間子が戦った理由
「うわぁぁぁぁぁぁー!」
俺は行き場のない感情を廃工場でぶつけてた。
そう言えば聞こえはいいが、これはもう破壊活動である。
廃工場だった場所は、あらゆる物が切断され、穴を開けられ、今も炎が燃え盛っている。
そりゃそうだ。
スピリットスキルを感情任せに放っている。
あんなもの、コントロールしなきゃ天災に等しいだろう。
それでも被害がそこまで広がらないのは、まだ、少しは理性があるってことかもしれないが…。
もう…誰にみられてもいい。
知ったこっちゃない。
そうか…。
セロはこんな俺を見て楽しむために「二日後」にしたってことか。
さぞ面白いだろうな。
俺が…一人の人間が壊れていく様は!
「セロ!出てきやがれ!」
今までならこう言えば、簡単に出てきたセロが今回は出てこない。
余計に腹が立つ。
俺は怒り任せに辺りの草を焼き払う。
「こんなことができたって…こんなことができたって…」
視界が霞む。
気がつけば俺は泣いていた。
大声で泣いていた。
止めたくても止まらない。
それでも溢れる感情が、周囲のものを破壊する。
廃工場は…もう、建物があったことすらわからないほどに破壊してしまった。
「どうして…間子なんだよ…」
シエロの見た未来のように香織じゃなかったのが嬉しくて…舞い上がって…告白して…。
でもこれじゃ…香織じゃないだけで…苦しみは全く変わらないじゃないか…。
「うわぁぁぁぁぁ!」
また、間子の頭に砂の槍が刺さったところを思い出した感情が暴走する。
間子だってどうして気がつかなかったんだ!
空手を香織から教えてもらってるって聞いてたじゃないか!
香織と戦い方のクセが似ててもおかしくないじゃないか!
香織じゃないって喜びで他の可能性をどうして考えなかったんだ!
俺の感情の暴走はさらに加速する。
こんな時に限って、風と炎を同時に使えてしまう自分に余計に腹が立つ。
風で舞う炎は、まるで炎の竜が辺りを暴れまくるようにどんどん炎を広げていく。
それなのにまだ警察も消防も来ない。
そうだよな。
こんな非現実的な光景、どうやって通報すればいいんだろうな。
「いい加減にしなさいよ。子供じゃあるまいし」
誰かの声がした。
大人の女性の…声?
俺は辺りを見回す。
しかし、人影はない。
「どこ見てるのよ、暴走青年!」
声は足元からしていた。
「す…スズメ?」
そこには手のひらになるくらいの普通のサイズでなんの特徴もないスズメがいた。
「あのね、いい加減にしてくれない?私が空間遮断してなきゃ今頃大騒ぎで、あなたは捕まってるんだからね」
あぁ、通りで警察や消防が来ない…いや、コイツやっぱり…間子のサポーターだ!
確か戦う時にスズメ、いたよな。
「少しは気が晴れた?」
「んわけ…あるかよ…」
こんなもんで気が晴れるなら何十個だって工場を跡形もなく消すさ。
「じゃあこの後どうするの?まだここで暴れる?」
呆れたようなスズメに俺は苛立った。
「好きで暴れてるんじゃない!でも…どうしたらいいか分からないんだよ!」
「分からないくせに暴れてるんだ。困ったボウヤだね」
コイツ…俺を怒らせに来たのか!?
何よりコイツも知ってて間子を戦わせたんだよな!
「お前の…お前のせいでもあるんだからな!」
怒り任せにランデルーズをスズメに撃ち込んだ!
しかし、間子との戦いのときのようにランデルーズはスズメに届くことはなかった。
やはりサポーターだけあって空間コントロールを使うようだ。
「あのさ、八つ当たりとかカッコ悪いよ?だからモテないんでしょ?」
「うるさい!モテなくても彼女できたよ!香織が付き合ってくれるって言ったんだよ!」
「へ!?」
間の抜けたような声を出すスズメ。
おい!俺に彼女できるってスズメすら驚くことなのかよ!
「それは…おめでとう…」
まさかのおめでとうという言葉に思わず「あ、ありがとう」と答えてしまった。
しばらくの間、俺とスズメに沈黙が流れた。
そんな沈黙を破ったのはスズメからだった。
「それならこんなところで破壊活動してる場合じゃないんじゃない?終わったことより未来のことを考えていかなきゃ」
「終わってねえよ!間子を…殺して消したんだぞ!それが終わったことって一言で片付くものか!」
やはりこのスズメは間子をそそのかし戦わせた…敵だ!
「空間コントロールしたって無駄だ!」
もう一度ランデルーズを撃ち込む。
そして空間コントロールを発動し、スズメの空間防御壁を無効化した。
「ぐうっ!」
小さな体に大きな風穴が開く。
お前が…お前が悪いんだ。
お前が…あんなこと言わなければ…。
「少しは…気が…晴れた?」
スズメは血を吐きながら必死に声を絞り出していた。
その言葉が…恨みでもない、文句でもない、俺に対しての気遣いだったのに驚いた。
「まさか…お前…わざと挑発したのか?」
どうしてだ!?お前は間子のサポーターだろ!?どうして俺のために!?
「この戦いに参加した時点で…生き残るのは…一人だけ。その一人は…最も罪を背負うことに…なるんだよ…ね」
俺は思わずスズメの元に近寄り、跪いた。
「だから何だよ!何が言いたいんだよ!」
スズメの気持ちが全く分からない。
どうしてこんなことを…どうして自ら撃たれる真似をしたんだよ!?
「間子は…その罪を背負う覚悟を…誰にも辛い思いをさせないために…戦っていたんだよ」
考えたことがなかった。
間子がどうして戦っていたのかを。
そんな覚悟を持って戦っていただなんて…想像もしなかった。
「だからってお前が俺に撃たれる理由はないだろ!」
そう、余計な犠牲を増やす必要はない。
これ以上…どんな命でも消したくない…。
「私の罪滅ぼし…かな」
「…罪滅ぼし?」
「そう…私の罪は…」
俺の見間違いでないのなら…スズメの目に…涙が浮かんでいた。
「間子の…想いを叶えてあげられなかった…。間子が求める世界へと導けなかったこと…」
意味が分からない。
それって死ななきゃならないことなのか!?
おかしいだろ、それ!
(お兄ちゃん…庇ってくれてありがとう…)
この声…間子…なのか?
いや、間子にしては声が暗い。
この声は一体…。
「それと…」
今は謎の声はどうでもいい。俺は力尽きそうなスズメの声を必死に聞いた。
「あなたと戦うことを…最後まで…黙っていたこと。こんな残酷なことして…私は…死んで…当然だよ」
この言葉で俺はやっと気がついた。
スズメも…苦しんでいたんだ。
(お兄ちゃんは…私を守ってくれる…ヒーローだね)
またあの声だ。
何だよ…どういうことなんだよ!誰なんだよ!
「ごめんね…私に力がないばかりに…」
「違う!お前が悪いんじゃない!お前が悪いわけじゃ…」
悪いのはセロなんだ!このスズメが悪いわけじゃない。それくらい考えれば分かることなのに…。
「自分を責めないで…ね…お…」
スズメはぐったりとして…まるでそこにいなかったかのように消えてしまった。
俺は…何をやっているんだよ…。
何のためにスズメの命奪ったんだよ…。
これじゃあ…遊びでグラディオスやってるセロと何も変わらないじゃないか…。
命を…なんだと思ってるんだよ…俺は…。
泣き叫びながら何度も地面を叩く。
手から血が出てきているが痛みより後悔が上だった。
俺は強くなったんだと思う。
その結果、俺は…その圧倒的な力で無駄な戦いをして…命を消した。
強さに何の意味があるのだろうか?
俺は…これから…なにをすればいいのだろうか?
グラディオスも終わり、セロに願いを言えば終わる。
それで…それで本当にいいのか?
もっとできることはないのか?
こんな気持ちで…セロが願いを叶える日まで過ごさなくてはならないのだろうか?
やり直したい。
だが、時間は戻らない。
戻せない。
自分が扱えない時間コントロールに腹が立つ。
いや、それが普通なんだ。
時間を遡れる方がおかしいんだ。
ははは…。
いつの間にか俺も…普通の人間からズレてきているのかもな。
もしかして…俺もセロみたいになるのかな…。
その可能性もある…か。
何らかのきっかけでもし、時間がコントロールできたら、セロと同じになるんだよな?
そうなれば…何でも思い通りにできるわけだ。
思い通りに…できる…か。
思い通りに?
そうか…思い通りにできるのか。
そうか、そうだよな。
俺の思い通りにすればいいんだ…。
そのためにはどうすればいいか。
答えは…簡単だ。
それしかない。
「間子…俺、お前の思い…引き継げるかな…」
まだ煙の上がる廃工場だった場所を後にする。
あと二日…。
俺は一体何をすべきなのだろうか?




