ゲリラの出会い
賀露島は外を見ている。
外は激しい雨が叩きつけて外に出てはいけないと言わんばかり降り続けていた。
昔よく聞いていたテレビの砂嵐を大音量で聞いているような騒音を出していた。
「うわぉ..ゲリラ豪雨じゃん...」
日本に居たときでさえこんな激しい雨は、そうそう見れるものではない。
「全く呑気なものね。あのイカれ女とトロールに殺されそうになってた癖に」
そう僕に話しかけるのは相変わらず憎たらしい可愛くない事を言う体の小さな妖精のナルタリカだ。
確かにナルタリカの言う通り、僕はリタカートに散々追いかけ回され殺されかけた挙げ句、トロールとかいう巨人にも殺されそうになった。
しかし何だかんだで熊の討伐も完了し、何とか宿泊費と食費は確保した。
さらにレア植物などの採取などで少しお金にゆとりも出来た。
「僕にも真面目に仕事をしていた時があったから分かるんだ。やっぱり休みの日は娯楽が必要なんだ!!」
「は?」
賀露島の発言を聞いたナルタリカ呆れて眠りについた。
と言うか、仕事をしてるしてないに関わらず僕には娯楽が必要だった。
何よりパソコンとケータイ、テレビゲーム、これらがやりたくてしょうがなくなってくる。
「く~。最近ボーとすることが増えてきて、やることが無さすぎて頭が可笑しくなりそうだ。」
頭を抱える賀露島は「ウーン」と小言でブツブツ言っている。
寝ていたと思われるナルタリカに「煩い!!」と言われ暇なら少しでも稼いでこいと命令される。
そう言われた僕はとりあえずホテルのフロントまで降り、出口の前で途方にくれる。
「本当に人使い荒いな。何処かの会社の上司だよアレは。」
愚痴を言うが、その声は激しい雨の音に遮られるように通らない。
聞かれても不味いだけだから愚痴は音が通らない方がちょうど良い。
「あれ?ギルド行こうにもこの雨でどう歩くの?傘とかないの!?」
困った。どうにかして濡れずに行きたいのだが。
濡れると機嫌が悪くなってしまうからあまり濡れたくない。
とりあえずホテルのスタッフに聞いてみることにした。
「あの~。すいません!」
「はい。いかがしましたか?」
フロントに立っていたメイド服の女性が賀露島に応答する。
見た感じとても凛々しく大人の女性というオーラを感じるが目が睨み付けているような表情だった。
こんな話しかけづらそうな人がフロントの仕事して良いのかというぐらい威圧感がパナイ。
「傘を貸して頂いても良いですか?」
「カサ?って何ですか??」
え?ちょっと待って?傘ってワードは通じないパターンなの?
確かに文字の名前がカワモラ文字とかになってるんだから文化によって呼び方が変わってもおかしくない。
そもそも傘という概念が無いのかもしれない。
「あの~。では外に出たいんですけど濡れないようにする為の奴って無いですか?」
具体的に自分が今欲しいものを言えば良いだろう。
「コートならありますよ?」
「..コート?ああレインコートの事か...」
「はい。十万メニーになります。」
その額に僕は我を忘れ叫ぶ。
「...はあ!?ババパンダより高いってボッタクリでしょ!?」
流石におかしいと思わざるをえなかった。
レインコート1枚借りるのにあんな巨大な熊に命賭けて倒した額より高いなんてあり得ない。
コッチはババパンダよりヤバイ奴ら、リタカートと巨人に命狙われたんだから割りに合わなすぎる。
「チッ。なら貸せるものはないです!」
うわぁお。
これは流石に脱帽せざるをえない。
お客さんである僕に対して舌打ちしよった。
お客様は神様の精神でやってもらいたいもんだけど、ここは日本男児たる僕が一歩引こうじゃないか。
「そうですか。なら結構です。」
やっぱりイラッとしたので少し皮肉も含めて最後の所は強調して、その場を去った。
「参ったな。伝説の剣【鈍器】なら傘換わりになったと思うけどナルタリカ寝てるから部屋に置いてきたしな...何か変わりになるやつ無いかな?」
適当に枠を探る賀露島は端から見るが特にそれと言った良いものが無かった。
しかし1つだけ何とかなりそうなのがあった。
賀露島は仕事を受注するためギルドへ向けて歩く。
激しく降る雨にすれ違う人たちはレインコートのようなフードコートを着ていた。
そのすれ違う人々は賀露島を見るなり不思議な顔をする人とクスクスと笑う人もいた。
「まあしょうがないよね。これしか無かったし。」
僕は大きめの段ボール箱で顔を隠しながら雨を避けながら歩いた。
それは見る人によっては異様に見え不思議に思われたり面白可笑しく見えると思う。
だがこの段ボール。中々の性能で自分ですら驚いている。
もっと水が染み込むと思ったが濡れるのは表面だけという珍しい作りで出来ていた。
確かガンフローオンラインで敵から身を隠すときに使用する他のゲームとコラボしたときの報酬で貰った物だ。
「まさかこんな使い方が出来るとはね。案外捨てたものじゃ無いね。」
とは言え段ボールを被り続けるのは目立つし恥ずかしい。
大分ギルドにも近づいて来たし裏道から近道するか。
そして早く帰りたい。
賀露島は段ボールを被ったまま狭めの裏道を使った。
すると。
ドーン。
「うおおおい!?。イタイ!!」
何かが僕にぶつかる。
ぶつかった物は相当の速度で走っていたのか物凄い力が伝わってきた。
しかしゲームステータスのお陰なのか、子供と言うこともあり倒れる事は無く踏ん張れた。
僕は深く被っていた段ボールを少し上に上げ、ぶつかった物の正体を確認する。
そこには激しい雨に打たれ、びしょ濡れで倒れている男の子がいた。
一瞬、僕とその男の子は目が合った。
しかしすぐに男の子は我に返るように飛び上がり僕の来た道に逃げていった。
「ん?何だったんだ?」
しかも今の子供にキツネの耳みたいなのが付いていたような気がした。
確かに人間の可愛い子供みたいな顔をしていたが尻尾が明らかに狐のそれだった。
待てよ?今のは俗にいうケモナーでは!?
そんなくだらない事を顎に手を置き考える僕に後ろから足音が聞こえた。
「くそがァァァ!どけやゴラァァァ!!」
後ろから走って来たドスの効いた男の声がして、男は僕に思いっきり後ろからドロップキックを炸裂させる。
流石に先程のケモナー男の子のように耐えきれず水溜まりにダイブする。
そのあと何事もなく男は他に4人ほどの男達を連れてケモナー男の子を追いかけていった。
虚しく水溜まりに全身をつけて倒れる賀露島。
一人激しい雨に打たれながら水溜まりから立ち上がる。
服は当然のように泥まみれになり、服が水を沢山含んでいるせいなのか体が重い。
そしてそんな賀露島に1つの感情が浮かび上がる。
「なんで僕はベタベタになってるの?あっ!なるほどさっきのオッサンか...」
当然の怒り。憤り。これぞぶちギレ!
とりあえずアイツら。粛清。
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フェアリーワールドで使用できる一人用の超完全回復の課金回復アイテム。
死亡していなければ、どんな瀕死の状態や呪いにかかっても全て浄化し、体を元に戻す。
ノーリスクで持っているだけ使える為、超絶難易度のボス戦はこれが幾つか必要になるぐらいである。
運営曰くこれだけで儲かってるんだとか。