超回復
叩きつけるような轟音と爆風が僕の体を痛みつける。
ナルタリカになるべく負担がかからないように動きは最小限にし、リタカートの放つ自称ハンドガンの弾を避ける。
恐らくこれ程の威力から見てロケットランチャー位の威力は出ているのだろうか。
実際ロケットランチャーで狙われた事が無いので、この例えが合っているのかは分からない。
「リタちゃん!それ止めて!本当に死んじゃう!!」
僕は間一髪の所で避けて逃げながら何とかリタカートを説得してみる。
「安心して下さいコウノキ少尉!今カラソノメスヲ殺シテ貴方ヲ元二戻シテアゲマスカラ!!」
勿論その説得が成功するはずもなく益々リタカートの瞳が黒くなっていき言葉が聞き取りづらくなっていく。
説得なんて無意味だ。今のリタカートは僕の言葉ですら、もう届かないのだから。
なので僕が出来ることは1つ。逃げること。
「コウノキ少尉!ナンデ避ケルンデスカ!?当タッテクダサイヨ!!」
リタカートが放つ弾は僕に目掛けて迷うことなく飛んでくる。
だがこれも何とか避ける。まだ直撃はしていない。
賀露島がリタカートから放たれる弾を避け続けていられるのは理由があった。
初めの時は賀露島自身も避けていられるのは奇跡であった。
しかし賀露島はリタカートが休むことなく打ち続ける銃にある法則性を見つけていた。
「..4...5!!」
5秒。
これがリタカートが弾を込め引き金を引くタイミングだ。
彼女はこれを時間が早くも遅くもならず5秒で行っている。
恐らくこの時間が変わらないのは彼女が日々の習慣から癖とも呼べる鍛練により身に付いたルーティーンである。
何故そんな事が起きたか。
それは単純に彼女が冷静な判断を失っているからである。
放った弾を賀露島に当てることしか頭に無いリタカートはそれのみに集中し、動きに変化を加えることなく単純な動きに片寄ってしまっていた。
そんな単純の動きになってしまっている彼女の動きを見切るのは今の狂化モードの賀露島には造作もなかった。
「クッソ!!当テロヨ!ポンコツ銃ガァ!!」
このまま行けば逃げ切れる。
益々苛立つリタカートとの距離が離れていくのを見て僕は安心する。
しかしそんな安心していた僕を許さないかのようにそれは起きた。
狂化モードの効果が切れた。
「え?」
ガクンと力が抜けるのを感じ、すぐに狂化モードの効果時間が終了したことを悟る。
「ヤバイぃぃぃぃ!!」
その掛け声と共に僕の足下近くでリタカートの放ったハンドガンの爆風が襲う。
飛ばされた僕は2メートルは吹っ飛ばされただろうか。
風圧で宙を浮く体験を初めて感じた。
「ちょっと!アンタ大丈夫!?」
ナルタリカが心配そうに必死に顔を揺さぶりながら問いかけてくる。
「早く動きなさいよ!奴が来るじゃない!!」
涙目になりながら叫ぶナルタリカ。
「相変わらず、こんな状況でも無茶をいうんだなナルタリカは...」
瞼が段々重くなっていく。
体も力が抜けていく。
この感覚を僕は知っていた。
この世界に来る前に感じた感覚。死。
正直1度終わった人生なんだから僕はどうなっても良い。だが、このままでは僕だけでなくナルタリカも殺されてしまう。
僕のせいでナルタリカが死んでしまい僕を一生恨まれるのは良い気持ちがしない。
後ろから死の足音が聞こえてくる。
なにか出来ることは無いのか?
消えていく意識の中、僕は必死に目に表示されるバックを探る。
しかし何もない。
なんでもいい。
何かあってくれ。
するとふと目に映る枠をスライドする意識をした。
何故そう思ったのかは分からない。
しかしすぐにスライドすると画面が変わる。
「...これは!?...」
そこに書かれていた物を選択する。
倒れた賀露島に近づくリタカート。
倒れる賀露島を黒くなっている目で見下ろす彼女には異常な程の冷たさを感じた。
「コウノキ少尉。貴方ノ心ハ、ソコニイルメス二毒サレテシマッタヨウデス。」
そう言うとリタカートは何処からか20センチ程のナイフが出てくる。
「貴方ノ心ハ私ノデハ無クナリマシタ。ナノデ体ノミ私ノ物ニシマスネ。」
「止めて!!」
涙目で叫ぶナルタリカの声はリタカートに届く筈もなく降り下ろされるナイフは賀露島の腹を目掛けてくる。
〈○○○を使用しますか?〉
イエス。
無防備に倒れる賀露島にナイフを降り下ろすリタカートのナイフが腹に当たる寸前であった。
賀露島の体が緑色の光に包まれる。
「これは!?」
突然の出来事にナルタリカは驚く、しかしリタカートは止まらない。
何が起ころうと彼女の目的は1つ。
賀露島を殺すこと。
しかしそんな彼女のナイフを持つ手は止められた。
「ゴメンねリタちゃん。とても卑怯だと思うけど僕ってどうやら課金してきた恩恵を受けてるみたい。」
目をリタカートに向けて話す賀露島。
「ちょっとアンタ!無事だったの!?」
まだ心配そうに聞いてくるナルタリカ。
実際さっきまでは本当に死にそうだった。
しかし今は先程までの痛みは嘘のように消えていた。
傷も疲れも全て消えていた。
「流石デス。コウノキ少尉。簡単ニハ、クタバリマセンネ。」
リタカートは僕に刺す予定であった止められたナイフを握る手に力を入れる。
「...あっ!ちょっと待って!!力強すぎ!!」
折角止めたナイフは無事賀露島の腹に突き刺さる。
「ちょっと!..ええええええ!?折角耐えたのに何刺されてんのよ!!」
痛い。
それだけだった。
だが今の僕には関係ない。
〈○○○を使用しますか?〉
イエス。
「!?」
リタカートは腹部に痛みを感じ後ろに後ずさる。
賀露島から蹴りをくらう。
腹を押さえるリタカートは立ち上がる賀露島を見て戦慄する。
当然だ。賀露島から刺した時に出た血は残っていたが、そこに刺した筈の傷が消えていた。
「うわぁ。傷も痛みも無くなったけど漏れ出ちゃった血は消えないのか。」
傷がすっかり消えている。
殺したと思っていた者が血を出していたのに何もないかのようにケロッとしている。
こんな初めての光景にリタカートも流石に硬直する。
「コウノキ少尉?貴方ハ人間デスカ?」
「リタちゃんに言われたくないな~。」
しかし確かに他人から見たら普通じゃない事が起こっていると思う。
しかし安心して良い。僕は人間だ。
ちなみに僕が刺されたのに死なない理由。
それは死に際にバック機能をスライドした時に出てきた枠。
アイテムボックス。
何処かで見たことのあると思ったが、そこにあったアイテムに目をやる。
(大容量ポーションだ!!)
体力、状態全てを回復するフェアリーワールドの課金アイテムだ。
「何でフェアリーワールドのアイテムが使えるかはわからないけど助かった。」
狂化モードを使うには少々時間がかかってしまう。
何とか時間を稼ぐしかない。
その時。
ズン。ズン。
足音が聞こえる。
巨大な何が近づく足音が。
それの足音がする方に目を向けると巨大な何かが木をかき分けてやってくる。
そして現れる。
「おい。オメーら俺の森を荒らしてンじゃねーぞ!!」
現れたのはババパンダよりも3倍はあろうかという巨大な人形モンスターがいた。
巨人というべきか。
「..うそ...トロール..なんでここに?」
ナルタリカの顔が真っ青に変わる。
「そりゃオメーら俺の森荒らすからに決まってンだろ。」
ナルタリカの顔は絶望に変わる。
そして僕に囁く。
「逃げるのよ」
「逃がすわけねーだろ!!」
逃げるようとする聞いたのを聞いていたかのようにトロールは持っていた大きな木の棒で僕のいたところを思いっきり振り回す。
「うわあ!」
間一髪で避ける。
あんなのくらったら即死してしまう。
即死だとポーションを使えないから助からない。
「殺される!!」
それを聞いたリタカートはピクッと反応し、逃げる僕を背に向けてトロールの方向を向き立ちはだかる。
そんなリタカートを見てトロールも止まる。
「オメー初めてだ。俺を前にして逃げねえ奴なンてよ。」
下を向くリタカートに語りかけるトロール。
「時間稼ぎのつもりかもしれンが無理だ。逃げた奴等も後で殺すから。」
その言葉を聞いたリタカートは再びピクッと反応する。
そして。
「アハハハハハハハハハハハ!!」
壊れたかのように笑うリタカート。
その笑いは狂気以外の何者でも無かった。
「恐怖で可笑しくなったか人間よ。もう楽にしてやる。」
「貴方ハ今コウノキ少尉ヲ殺ロスト言イマシタネ?」
リタカートはトロールに質問する。
「こうのきショウイ?誰か分からンが、さっきの逃げた奴の事なら殺すつもり。」
その答えにリタカートは再び笑い出す。
「何言ッテンノ?コウノキ少尉ヲ殺シテ良イノハ私ダケダヨ?」
トロールは顔を上げるリタカートの顔を見て一瞬恐怖する。
トロールにとっては手で握り潰せる程の大きさのメスの人間に恐怖する事はあり得る筈はない。
しかし目には見えない何かに対して危険を本能が叫んでいた。
そして理性が叫ぶ。
ここでコイツは殺さねばならぬ。
かなり遠くへ逃げた賀露島の耳に遠くから爆発音が聞こえてきた。




