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強者との遭遇

殺気がバーミンとフクニーグの体を突き刺す。

もう何度もこれを体験して慣れてきたと思ったが、まだ震えを抑える事は出来ない。



「おい!バーミン!とっ..とりあえず向かうぞ!!」



「おっ..おう!」



だが慣れのお陰か、今までは理楊の殺気を浴びると動けなくなっていたが、心を一旦落ち着かせれば何とか動けるようにはなった。


そして動き出したバーミンとフクニーグは理楊の場所へ向かう。



するとそこには広いめの部屋に男が4人正座していた。

その服装を見ると腕辺りに反国軍のロゴが付けられていた。

だが一番気になったのは正座している4人とも床に液体が染みだしていた。



うわぁとなるバーミンとフクニーグ。そして窓からの逆光で見にくくなっていた理楊が正座する男達の前で椅子に座っていた。



「あっバーミン!ちゃんとコイツらに会わせてあげたよね?」




確かにそうだが、まさかこんな事になっているとは。

正座している反国軍の奴等を少しだけ同情した。




「じゃあソイツらはバーミン達の好きにしててね?アタシはそこら辺散歩してるから。あと建物はなるべく壊さなかったでしょ?」



そう言って理楊は幸せそうな顔で口笛を吹きながら7階はあるだろう所の窓から飛び降りた。


暫くボーとするバーミンだったがフクニーグが正座する男達を縛っているのを見て、彼もフクニーグが縛り始めた男からは反対方向の男を縛り出した。




ーーーーーーーーーーー




「ふ~何とかなったな...4人っていうのは結構でかいな。」



「ああ。かなり上出来だ!今日はコイツらを連れて終わりだ。」



虚ろな目になっている反国軍の男達を連れていくバーミンとフクニーグ。

馬車の後ろにある鉄骨の篭に入れれば後はイチヤナにいる騎士団に引き渡すだけだ。


長い階段を降り、廃墟の町ナンヨーンの砂の道路を歩く一行。

目的の馬が見えると4人の男達を入れて鍵をかけた。



「後は理楊を待つだけなんだがな?」



「アイツなら1人でも帰れるんじゃないねぇーの?」



「そう言う事言ってるから理楊に殺気向けられるんだろうが...」 



バーミンはそれに対して苦笑いをしていた。




「そう言えばフクニーグ..さっきのリュミエールの事なんだが..アイツは強さ的にはどれぐらいなんだ?ナンバーズだから強いのは分かる。」



「..正直言うとだな..理楊ぐらい?」



「は!?何それ?終わりじゃん俺ら!!」




衝撃だった。ナンバーズ最強があの理楊と同じ強さを持っている。そんな事を聞かされて驚きを隠せる筈がない。

バーミンはリュミエールに対して怒りの感情を持っていたが、急に恐怖に変わった。




「悪い悪い。それは流石になかった。だがそれぐらいの影響力はある。」



バーミンは唾を飲み込む。

理楊程の強さでは無いにしろ理楊位の影響力はあるならば、そんな化け物を王都の上層部が敵に回したくないのも頷ける。



だから疑問がもうひとつ生まれる。




「ならリュミエールは何故反国軍なのにすぐに目的を達成させないんだ?奴等の目的は帝の暗殺だろ?」



「それがよく分からん。アイツが何を考えてるのか何て誰にも分からんさ。」



フクニーグは馬車の騎乗士が座る隣の席で腕を組みながらウ~ンと考えていた。

バーミンも全く予想がつかないのでもう考えるのは止めた。



「とりあえずはリュミエールもまだメイシコの指揮官としての仕事もやっているらしいから大丈夫だろう。」



「だからその理由が分かんねぇから考えてたんだろーが。止めたけど。」 



そんな会話をしていると、向こうから1人歩いてくる影が見えた。

初めは理楊だと思ったが、それにしては少し大きい。理楊は見た目だけなら小さいような大きい女の子だ。

だから見間違える訳がない。その者は男だ。



「おいバーミン...。戦闘の用意しとけ恐らく敵だ。」



「分かってるよ...99パーセント反国軍だな..。しかも強いな...」



まだよく顔は見えないが、この距離からでも歩いてくる男の強さが伝わってくる。

魔力が尋常ではない。例えるなら妖精のナルタリカ位はあるだろうか?


どちらにせよ化け物だ。



徐々に近づく歩いてくる男と馬車に乗るバーミンとフクニーグ。

2人はなるべく臨戦体制にすぐ入れるようにしている。バーミンは足下に槍を置いている。



かなり近づき顔も分かる位まで来た。

2人の間に少しだが緊張が走る。ナルタリカレベルの魔力保有するであろう男が向かいから歩いてきて、これから戦闘が始まるかもしれないのだから緊張もするだろう。


妖精族のナルタリカに今の段階でバーミンとフクニーグでは勝てないと分かっているからだ。だからなるべく戦闘は避けたい。



もうかなり近づく。

100メートルも無い位になっただろうか?男はその距離から足取りがゆっくりになった。

これにバーミンは少しビクッとなってしまった。



そして50メートル時点で遂に男は立ち止まった。




「ねぇ君たち少し聞きたい事があるんだが?」



「え!?あっ..俺達の事ですかね...?」



男は案の定話しかけてきた。

恐らく後ろに積んだ反国軍の兵士達に用があるのだろう。

なるべく知らないフリをして敵でないと思ってもらうしかない。



「ここから少し北に行った所に大きな建物があるんだけど、そこに4人組の男達と会う約束してたんだけど..知らないかな?」



この男が言っている4人組とは後ろにいる4人で間違いないないだろう。

だがここで馬鹿正直に居ますと答える訳にはいかない。




「がハハハ!そんなの知るわけが無いじゃないですか。俺達はただ一攫千金を狙っている一般人だ。...なあシュトレイン?」



シュトレイン?誰だ?一瞬バーミンは知らない名前を出してきたが、明らかに自分に対して話しかけてきているので、考えてみる。

そして何となく察した。



「そっ..そうだなバリー...。ここには宝があるって聞いて来たんだよ!だが何も見つからなくて今から帰る所だったんだ。」



バーミンとフクニーグの名前は広く知り渡っている可能性が高く、騎士団に雇われた冒険者である事が簡単にバレてしまう。

顔は知らなくても名前はそれなりに知っている者は多いと思う。


だからなるべく全く事情を知らない一般人を装う事にした。




「へぇ~こんな場所に騎士団でも冒険者でも無い人達が来るだろうか?」



「確かに冒険者でも騎士団でも無い俺達がこのナンヨーンに来るのは危険と知っているが、一攫千金を狙うなら多少の危険は覚悟の上だ。」



ここはもう宝探しをやりに来た命知らずの男達を装う作戦で行くつもりだ。


バーミン達と男の間で沈黙が続く。両者が睨み合う。

ここは出来るだけ戦闘を避けたいバーミン達。


だがその願いは叶わないようだ。



「では自己紹介でもしようかな?僕はワキューダスケって言います。」



突然自己紹介を始めた男。

ワキューダスケと名乗る男は軽くお辞儀をする。

しかしその顔は相手をムカつかせるような笑い顔だった。



「えっ..と...俺達も自己紹介した方が良いですか?」



突然の事に取り敢えずどうすれば良いのかワキューダスケに聞いてみる。

その言葉に更に笑みを浮かべるワキューダスケ。




そしてワキューダスケは探知を使用した。


ワキューダスケが探知をし、その探知結界に入ったバーミンとフクニーグは彼の力量を知る。



((..っ強い!!))




ワキューダスケの探知結界。つまり彼の魔力に触れて初めて知る事が出来た彼の力量。


それは絶望を思わせるには充分過ぎる位だった。

これは完全に後ろに反国軍の兵士達が4人居ることがバレた。

もうワキューダスケは戦闘を避けられない敵だ。



ならば先手必勝。

しかし体の動きが鈍い事にバーミンとフクニーグが気づく。


威圧だ。

ワキューダスケは探知結界を使用したついでに魔力での威圧を掛けていた。

威圧は使い手より魔力、実力的に弱者であれば、無条件で敵を怯ませる事が出来る。


だから2人の体は思ったように体が動かなくなっていた。

だが。




「理楊ちゃん程じゃねぇぇぇぇぞオラァァァ!!」



バーミンは足下に置いていた槍を片足で蹴りあげ、ワキューダスケに向かって放った。


これを読めていなかったのか少し焦った顔でバーミンの槍を受け止めるワキューダスケ。

その手からは血が出てきていた。




「痛く..ない?何でだろうな?まあソッチは良いとして僕の威圧を受けてこんなに早く動けるなんて凄いね?」



「そりゃどーも。お前は意外と脆いんだな?血が止まって無いぜ?」



バーミンがワキューダスケの手から漏れ出す血を指差す。




「問題はなさそうだね?この体だと魔力を常に使用してないと少し脆いからね。それに...ね?」



ワキューダスケは血が溢れる手に魔力を集中させる。すると溢れていた血が止まった。

魔力で無理矢理止血をしたのだ。



「血が出たって痛くも痒くも無いから問題ないさ。それよりも僕の威圧に対してすぐ事がに動けた事に驚いているんだよね?」



威圧は使用者よりも劣る者を怯ませられる。これは敵味方関係なく成立する。

本来威圧を食らい、それが成立した者は2、30秒位は怯みにより動けなくなる。



ワキューダスケより明らかにバーミンとフクニーグには戦力差があり、しかもバーミン達の方が下だ。

ワキューダスケの予想では威圧によって2人を20秒怯ませれると思っている。


だがバーミンはワキューダスケからの威圧を食らって、僅か5秒程度でひるみを解いた。

流石に早すぎる。ワキューダスケは、もしかするとバーミン達は威圧を受けていなかったのでは?と考えも(よぎ)ったが、魔力を調べてもバーミン達からは其ほどの脅威を感じなかった。



では何故圧倒的強者であろうワキューダスケの威圧を受けて、5秒程度で動けるようになった理由がどうしても分からなかった。


しかしバーミン達はその点は何となく理解していた。



威圧は恐怖による攻撃である。対象者は威圧の使用者より魔力、実力的な差があればあるほど恐怖に陥る。


だが恐怖には新鮮度がある。恐怖は体験した事が無い者にとっては絶大な効果を見せる。

恐怖を体験した事がある者にも恐怖は何隔てなく与えられるが、体験した者と体験しなかった者とでは天と地ほどの差がある。

つまり恐怖は耐性がつく。



バーミンとフクニーグには常に恐怖を体験する事がよくある。

日常で理楊からの受けている殺気により積み重ねられた恐怖の耐性がワキューダスケに対する威圧による恐怖を和らげていた。



食べ物でも濃いと思っていた食べ物がより濃い物を摂取する事で薄いと感じてしまう現象。

感覚的慣れ。人は知らぬ間に慣れる。楽しさも喜びも次第に慣れていく。

そして恐怖もだ。




「ガハハハ!慣れって言えば良いのか?恐怖に対しては、それなりに耐性があるんでな。」



「なるほどね..。君達の為に威圧を使ったんだけどな...?これじゃあ力で捩じ伏せるしか無いじゃないか?」



ワキューダスケは一歩足を踏み出すと、禍々しい程の魔力と殺気を放った。

その力は近くにあった建物の窓ガラスにビキビキと亀裂が入る。




「この手...痛くはないと言いつつも僕の貴重な血が出ている事には違いないわけだけど...殺すしか償いようがないよね?」



ワキューダスケはまた一歩足を踏み出す。

この時フクニーグが一気にワキューダスケの方へ走り出した。


フクニーグの行動に何一つ顔色を変えず、攻撃体勢に入るわけでもなく、ただ何くわぬ顔で歩くだけだ。




「隙だらけだぞ。」



フクニーグはワキューダスケが構える様子も見られない事に少し疑問を感じたが、もう拳に込めた濃密な魔力は止められない。あとは放つだけだ。




「ぬぉぉぉりゃああああ!!」



フクニーグが渾身の一撃をぶつける。この直撃をもろに受けたワキューダスケは体を反らせる。

だが足は一歩も動いていなかった。口を少し切った程度で、あまり外見では食らっているようには見えなかった。




「くっそ堅い!イッテー!!」



フクニーグがワキューダスケを殴った手をフーフーと冷ます。彼はワキューダスケを殴った時に異様な程の固さを感じた。

殴った時、まるで巨大な鉱石を殴っている感覚。生き物ではない無いかを殴っているようにしか思えなかった。



「フフ...中々に痛烈な拳じゃないか?一般人なんてのは嘘じゃないのかい?」



一般人なんてのは嘘に決まっている。それも大嘘だ。

大体本当に普通の一般人がこのナンヨーンに来れる筈がないし、危険すぎて行こうとも思わないだろう。

「悪い子はナンヨーンに捨てるよ」って言葉を子供の躾に使われるぐらいなのだから。




「さてどちらから殺してあげようかな?そっちの黒い方かな?それともうるさい方かな?」



フクニーグの渾身の一撃を避けずに受けた筈のワキューダスケは何も無かったように歩き出す。



「かなり強めにぶちこんだんだがな?効いてる様子がねぇや...。」



「なら次は俺の番だ!!」



バーミンは再び手に槍を握りしめ、ワキューダスケに向けて放り投げる。

槍は魔力を纏いながら空気を切る音を出し、ヒュルルルと槍がドリルのように回転しながら、その速度を上げる。



だがワキューダスケは、これを何食わぬ顔で片手で止めた。さっきまで恐ろしいほど回転していた槍は簡単にワキューダスケによって止められてしまった。



ワキューダスケはバーミンが投げた槍を止めた事にドヤ顔を見せる。そしてバーミン達の方向を見る。


だが再び元に戻した視界にはバーミンは映っていなかった。



見失ったバーミンを見つけるために周りをキョロキョロと見渡す。

そして後ろを向くために体を捻ると、攻撃を仕掛けてきているバーミンを目で確認した。

だが今気づいても遅い。


バーミンの蹴りがワキューダスケの背中に直撃する。

だがやはりワキューダスケにはあまり効いている様子がない。



「すばしっこいみたいだね?でも...僕にダメージを与えるには少し足らないね?」



始めに槍を放った時には簡単にワキューダスケの手を傷つけられたが、魔力で完全に防がれるようになってからは全く攻撃が通らない。



恐らくワキューダスケの魔法系統は〈肉体強化〉。鉄壁と言わんばかりに強固となる魔力が良い証拠だ。


しかしこれは異常である事は魔力を知っている者なら分かる。

ワキューダスケの〈肉体強化〉魔法はバーミンやフクニーグが放った攻撃をほぼ無傷のレベルで防いだ。



何か能力を使用して防いだ訳ではない。ただ純粋な〈肉体強化〉魔法のみで防いだのだ。

しかも〈肉体強化〉魔法を使用している上級冒険者2人のをだ。



例えるならば包丁が攻撃だとするならば、〈肉体強化〉魔法は筋肉だ。

包丁で刺されそうに為れば、誰でも本や板なんかで工夫して身を守ろうとするだろう。


だがこの例えならばワキューダスケは筋肉のみで包丁を弾いたレベルなのだ。

しかも筋肉質(肉体強化魔法)の男からの全力の包丁を筋肉のみでだ。



つまり何が言いたいのか。

次元が違う。それだけだ。




「バカやろバーミン!早く逃げろォォォォォ!!」



バーミンは蹴りを入れた姿勢でそのまま退避すべく逃げる体勢に変更する。


しかしバーミンの蹴りに全く動じていないワキューダスケは、振り向き逃げようとするワキューダスケの足を掴むまでの時間は充分にあった。




「よしっ!捕まえたぞ?」



ワキューダスケはバーミンの足をガッチリと掴んでいた。

もうワキューダスケ本人が離そうと思うまで彼はバーミンの足を離さないだろう。



「くそ!離せェェェェ!!」



「うん。いいよ別に。攻撃したら...だけどね?」



ワキューダスケは掴んだバーミンの足を振り上げる。

それにより体が宙を浮く感覚に陥るバーミン。それでもワキューダスケはまだ手を離していない。



そしてワキューダスケはバーミンをタオルか何かのようにブンブンと空中で回しだした。


高速で回されるバーミン。視界はもうグチャグチャだ。

その様子を見ている側であるフクニーグも振り回されるバーミンを見て、もう手の出しようがなかった。



「それじゃあいくね?衝撃に備えなよ?」



ワキューダスケが振り回していたバーミンを地面に叩きつけようと降り下ろす。

バーミンは叩きつけられるであろう箇所を最大魔力で防御に徹する。


降り回され続けて約30秒。

そしてバーミンの体は地面に叩きつけられた。



大きな音と共に地面が砕ける。この時、ワキューダスケはバーミンの足から手を離した。

何とか離れたバーミンは地面に叩きつけられると地面を2メートル程、跳ね上がり再度地面に倒れこんだ。

その目は白目をむいていていた。


これ程の衝撃を受けたのだ無傷で済むわけがない。

バーミンは動く様子がなかった。




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