NPC
ヒワイ島の件から2日経った。何とかベイロットさんの再教育実習が終わり、僕とリューノは解放された。
僕はリューノを追いかけただけなのに何故僕もこれに参加させられたのかは分からない。
しかしリューノが顔を合わす度に謝ってくるので許さない訳にはいかない。
島での事があったので僕もリューノには頭が上がらない。
だが今。僕は無性に興奮している。
何故なら。
「やったぁぁぁぁぁ!1週間の騎士団の仕事謹慎だぁぁぁぁぁ!!」
今回の件を騎士団本部が少し重くみたらしく、今回は罰として謹慎が告げられた。
何故謹慎でこれ程喜んでいるのか。
本来重めの処分なのだが、賀露島にとっては嬉しい限りである。
何故なら謹慎と言っても外に出ては行けないとかそう言うのはない。
ただ騎士団としての仕事や武装の禁止などだ。
「ハハハ!待ちに待った外出!今まで騎士団としてしか回れなかった町を今日初めてプライベートで回るんだ!!
」
これほど浮かれてしまうのを許して欲しい。騎士団はかなり外との干渉を避けており、プライベートで外に出ることが出来なかった。
家に家族がいる者のみ1週間に1度だけ帰宅が許される。日にちは皆バラバラだが、殆どの者が外に出る。
僕には勿論そのような人は居ない。なので派遣騎士として騎士団に入隊した時から、この大都会イチヤナの町を探索した事がない。
そんな暇が無かったのとさせてくれなかったの両方で、いつも辛い毎日を送っていた。
しかし今日から1週間は外に出られる。しかし謹慎期間はルールがあり、謹慎中は決して騎士団駐屯地には入ってはいけないらしい。
なので今から荷物をまとめて何処か宿を見つけなければいけない。
僕は同じ謹慎受けたリューノと一緒に何処か部屋を借りて、部屋代を折半して1週間を乗り切るつもりだ。
「さ~て早く身仕度をしなくちゃな~。」
ウキウキした様子で自分の部屋の扉にガチャッと開く。
そして開かれた扉の先に僕の部屋を見た。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
賀露島は悲痛な叫びを上げる。
「あ~お疲れ様~。ちょっと散らかってるけどヨロシク~。」
ちょっとだと?ちょっと所ではない。
僕は自分の部屋の光景を見るなり、目にしたのはグチャグチャに服やら物が沢山が散らかされていた。
それはもう足の踏み場が無いほどに。
「なっ..何をするだぁぁぁぁぁ!!!!」
「何って..行くところが無いから、ここのオジサン達にお兄さんの部屋が空いてるから、そこ使えって言われたよ~?」
何て事だ。騎士団がこんなにユルユルで良いのか?なぜ拾ってきたマチが騎士団駐屯地内にある僕の部屋に居るのか。
確かに身寄りの無いこの子を騎士団が保護する事は無いだろうが、それでも僕の部屋に押し付ける事は無いだろうが!
「おっ!お前さん戻って来たか!!」
「あっナギーさん!お疲れ様です!!」
僕の叫び声を聞き付けてきたのか、隣の部屋からナギーさんが出てきた。
「ハハハ!皆してお前さん達の話題で持ちきりだぞ!無茶したんだってな?」
その話題に少し不満に思う賀露島。
さっきも思っていた事だか僕は無茶はしておらず、リューノを止めに行っただけである。
まあだが過ぎた事であるのでリューノの為にもあまり掘り返さないようにした。
「うわぁお前さん..これは酷い事になっとるな~」
「僕が居ない間に..どーなってるんですか...」
僕の部屋の中の惨劇を見て僕の方を哀れみの目で見てくる。
やめて!そんな目で同情しないで!!
「まあ何だ..謹慎になったらしいじゃないか。これは見舞金と同情金だ...。」
同情金って何ですか?
まあそれでも貰える物は有りがたく貰う。
「ありがとう」と感謝を伝えて結構な額を受け取った。
ーーーーーーーーーー
「ほら!グダグダするんじゃない!散らかしたものを片付ける!!」
「え~それぐらいやってくれてもいいじゃ~ん?」
何故自分が散らかした物じゃない物を片付けなきゃならないのか納得いかない。
今思えば自分もマチのようなそんな感じの生活をしてた気がする。
散々散らかしておいて後片付けは全て母親に任せてた学生時代を思い出す。
今更になって自分が母親に大変な思いをさせていた事に胸が痛くなる。
まあとりあえず今回は一緒に部屋を片付けるとしよう。
昔の記憶を思い出しながら、せっせと部屋を片付けるのであった。
何とか散らかっていた物を片付け終わり、荷物を持って駐屯地を後にする。
とりあえず1週間は何処かの宿を取らなければいけない。
その宿代をリューノと2人で折半する事になっているので、リューノを待っているのだが少し時間が掛かるようだ。
「とりあえず..その辺ブラブラする?」
「アタシは別にいいけど~?」
それなら決まりだ。少しでも長くイチヤナの町を探索したいので、リューノは後にして少し歩き回る事にした。
やはり騎士団の仕事中に眺めていた町とは見える景色が違う。
心の底からグワーと何かが込み上げてくる気がしてきた。
2人でイチヤナの町中をブラブラと歩いていく。路上で行われる屋台がヨークルトシティとは比べ物にならないぐらいの盛況っぷりだ。
屋台を回り色々と食べ物を買って食べ歩きをしていた。
マチにも色々とねだられ沢山食べ物を食べているが、その全てが僕のお金なので少しは自重して欲しい。
そんな穀潰しマチが片手に屋台で買ってあげたパンを握りながら唐突に質問をしてきた。
「そ~言えばさぁ~。前に見せてくれたやつ見せてよ~。」
「前に見せたやつ?..あ~バック機能のやつか..。マチも出来ると思うんだけど...」
しかしどうやらストレージの枠について全く知らないようだ。
確かに僕も最初は使い方なんて分からなかったし、存在すら知らなかった。
それに言うほど完璧には使いこなせていない。
だが同じ転移者であるなら出来て当然だ。
「えーと目の前に枠みたいなのを想像してみて?ゲームでよく見るやつ。」
「枠?ゲーム?それに全く何も出ないじゃ~ん!」
おかしいな?やり方が違うのだろうか?
僕は念のためマチのステータス情報を見ることにした。
すると、マチが僕と同じ異世界転移者で無いことが分かった。
「え..NPC..だって?」
賀露島は困惑していた。
賀露島は相手の情報を枠の機能を使って見ることが出来るが、ある発見でその人が異世界から転移したのかが分かるのを発見した。
まずこの世界の生き物や住民には、必ず名前の上にNPCと出てくる。
例えそれが見知らぬ者であったとしても名前欄は???と記載されているが、その名前の上には小さくNPCと書かれている。
逆に異世界転移者である自分の名前にはプレイヤーと書かれている。
これは僕と同じようにストレージの枠が見えると言っていたリタカートや理楊にも同様にステータス欄の名前にプレイヤーと書かれていた。
だからNPCであるマチには、このバック機能は使えないし、そもそも僕の知る転移者では無いことが分かった。
「え?なになに~?何の事~?」
突然驚く賀露島を疑問に思ったマチが質問してくる。
ここは彼女がこの機能を使えないことを正直に伝えるしか無いのだろう。
「ごめん..マチには難しいみたいだ...。期待させてごめん..。」
「え~?まあいいけどね~。アタシは基本的に誰にも期待はしないから~。」
少し残念そうな顔をするマチは手に持っているパンをムシャムシャと一口頬張る。
しかしそれなら何故この世界に存在しないマッチという物が存在しているのか。
そしてマチという少女は本当は何者なのだろうか?
疑問がまた増えていく。
しかし何故マチはNPCであるなら自身を転移者だと言っている意味が分からない。
転移者じゃないからNPCなのではないのか?
だが町とは色々話してみたが、この世界の人では通じない言葉も普通にマチなら言葉が通じたりして、寧ろこの世界の住人であると言われる方が不自然だった。
「マチは..一体何者なの...?」
どうしても分からない。こうなってしまっては本人に直接聞くしかない。
そう思いこの質問を投げると、マチはその質問に少し悲しい表情を見せる。
「..アタシはただの子供だよ..?..誰にも見送られる事もなく..ただ独りで笑って死んでいった子供だ...」
そんな事を言われても正直意味が分からない。その答えでは、どんな世界でどんな人生を送ってきたのか分からない。
だがその言葉にはあまり聞かない方がいいような重みがあった。
「まあ別にいいよ。少しずつ探していけばいいさ。」
「う~ん。まあアタシも人を待ってるだけだからその人が迎えに来る前に探さないとね~。」
相変わらず何処までも自由な奴だ。だからあの島に1人で置いていかれたんだろう。
しばらく歩き回っていたので、そろそろリューノも待ち合わせ場所に居るかもしれない。
僕はマチにリューノとの集合場所へ戻る事を伝えると案外素直に応じてくれた。
リューノとマチは少し近道をするために大盛況の大通りとは全く雰囲気が違う裏の細い道を通ることにした。
遠くからは大通りの賑やかな音が微かに聞こえるが、ここら辺は本当に静かだ。
そんな少し寂しい道を歩いていると、マチよりも小さな女の子がカゴを持って何かを売っている。
物売りの小さな少女は裸足で少しボロボロの服を来て、僕らの方を見て、小さな声で「買ってください」と呟く。
売られている商品を見ると、とても良いものとは思えなかった。
回復薬を売っているようだが、普通の市販価格の2倍はしていて、容器は明らかに安っぽい物を使っていた。
客観的に見ればボッタクリにしか見えないし、何より信用して良いものなのかも分からない。
だか明らかにこの少女はこのボッタクリ商売で生きるか死ぬかの販売をしているのだろう。
「それ1つ貰っていいかい?」
僕は少し彼女に同情してしまった。
なので回復薬を1つ頼む。
すると少女はパアッと可愛らしい笑顔を見せてくれた。
とても嬉しかったようだ。良いことをすると気持ちが良いものだ。
気分よく歩こうとする僕の腕をマチはギュッと握って止めた。
え?なになに?どうしたの!?
突然僕を止めるマチは物売りの少女をずっと睨み付けていた。
何か因縁でもつけるつもりなのだろうか?とにかくそう言う理由なら僕がマチを止めなければならない。
「お兄さん..あの子の瓶。全部買って...」
「..え!?」
「欲しくなったから買うの..だからあれ全部買って...」
物売りの少女は予想外の発言をするマチに驚きを隠せない。
それは僕とて同じである。自分の財布じゃないからって自由過ぎると思うのだが。
しかし物売りの少女に1文無しのマチが全部買うと言った手前、今更買えません何てのは物売りの少女にもマチにも面子がたたない。
「..じゃあそこにある回復瓶をあるだけ貰えるかな?」
物売りの少女は更に笑顔になりながら、僕にカゴごと回復の瓶を渡してきた。
お金もしっかりと渡し、物売りの少女は立ち去ろうとした。
だかマチは今度はその少女を止める。
「実はアタシこのパン不味くて処理に困ってたんだけど、要らない?」
マチは僕が屋台で買ってあげた食べかけのパンを少女に渡した。
少女はこの優しさに、とうとう笑顔ではなく涙を流しだした。
それほどまでに嬉しいのだ。この世界では、ごく当たり前のようになければならない優しさが無いので、その優しさに触れたの者は殆どがこうなる。
マチは泣き止まない少女の頭を優しく何度も撫でて、少女が泣き止むまで慰めてあげた。
泣き止んだ少女は最後に深々と頭を下げると、今度こそ去っていった。
流石にもうマチは彼女を止めることはなかった。
去り行く物売りの少女の背中を見ながらマチは小声で何かを囁いていた。
僕にはよく聞こえなかったが、聞き直すなんて事はしなかった。
「アタシみたいにはなるなよ...」




