爆発
リューノは自身が背負っていた魔法器具の詰まった鞄を放り投げ、爆発音がした方角に1人で走っていった。
あんな鞄を背負っていたら当然邪魔だからだろう。
そんなリューノのあまりにも突然の行動をボーと見ていたが、後ろの怒号でフッと我にかえる。
「バカやろーー!護衛対象を置いていくなぁぁぁ!!」
僕とリューノと一緒に研究者の護衛に残っていたタカフムが1人で走り去ったリューノに叫ぶが、彼は止まること無く草木に消えて行った。
「くそっ!おい賀露島!スマンがリューノを止めに行ってくれ!!鎧を着ている護衛が対象者から居なくなる訳にはいかない!だから俺はこの場を放り出すことができない!!」
表向きの騎士団としての依頼は昆虫探しの護衛であって、決して反国軍の調査ではない。
騎士団としては護衛という後回しにしても良さそうな依頼ですら引き受けたからには必ず、実施しなければならない。
そんな条件の中、何も考えること無く任務を放りだしたリューノ。ベイロット達が心配なのだろう。
恐らくベイロット達に何かがあったとすれば敵だろう。あんな考えなしで突っ込んで行ったら敵の思うつぼだろう。
だからこういう時こそ冷静にならなければならない。
だがあの時、走り去って行ったリューノに冷静さはなかった。
「分かりました!彼を止めに行ってきます!!」
リューノが走り去って行った方角に僕も彼を止める為に走り出した。
ーーーーーーーーー
無我夢中で走り抜けるリューノ。先の爆発がリューノの中で嫌な悪寒を感じさせていた。
先の爆発でベイロット達に何かがあったに違いない。その考えが頭から離れないでいる。
鬱陶しい程に生える草や葉を掻き分け嫌いな虫をも気にせず、ただ前に進むリューノ。
リューノは何かを思い出すかのように顔を歪ませていた。
直ぐに行かなくては。
もう失ってはならない。
彼の頭の中で流れる言葉。それが彼に冷静な判断を出来なくさせていた。
「くっそ!取り敢えず爆発音がする方へ向かってるけど木の葉っぱが邪魔で何も見えない!」
リューノを止めるように言われた賀露島はその指示を守るため彼を止めに向かうが、2メートル先が緑の葉や草で分からない状態だ。
こんなに見えないのでリューノが本当に爆現地に正しく向かえてるかさえ分かっていない。
「これは僕も考え無しでは探せない気がするな~...」
暫く走り抜けて来たが僕も相当なスピードで駆け抜けて来たので、本当はもうリューノを追い越しているかもしれない。
だがこの状態では確認することすら出来ない。
「一体どうすれば...」
「ちょっとアンタ!」
突然耳元で聞こえてくる声。それはナルタリカのものだ。
「アイツなら北側にいるわよ!まだ追い付いてないわよ!!」
そうか。ナルタリカは妖精なのでかなりの魔力保持者。
魔力があるなら魔力を持つ者を探知することは、探知タイプの魔術師で無くても出来る事だ。
「あっ..ありがとうナルタリカ!!直ぐに向かうよ!!」
リューノを探しだしてくれたナルタリカに感謝を伝え走り出す。
「バカッ!北は反対よ!!」
そんな事を言われても北が分からないんだから仕方がない。況してやここは森の中なので方向感覚は狂わされるものだ。
しかし北がどっちなのかも分からないまま走り出したのは良くない。冷静さを僕も確実に失っている。
ガサガサと草を掻き分ける音が耳元で鳴り続けるがお構いなしで突き進むリューノ。
手には、もしもの時に使うナイフを持っていた。
暫く走っただろうが、もう爆発音がした場所にはかなり近づいた筈だ。
「ベイロットっさぁぁぁん!!聞こえますかぁぁぁ!!」
大声でベイロットを呼ぶリューノだったが、返事は返って来ない。
それでも負けずにずっと大声を出すリューノ。そんな彼の声は動物達が居なくなったこの空間には必要以上に響いた。
ドン!
リューノの後ろから何かがぶつかってきた。
賀露島だ。
「何やってるんだい!君には君の任務があるのだろう!?」
リューノを倒し上から取り押さえる賀露島。それに反撃する様に暴れだすリューノ。
僕はバーミンを完璧に取り押さえる事が出来る。なので恐らくバーミンより弱いであろうリューノが暴れた所で他愛ない。
「若い君がワザワザ身を危険に晒してまで動くことでは無い筈だよ。」
「それでも..ベイロットさん達は何かあったに違いありませんよ!」
力一杯暴れても賀露島の拘束を抜け出せないと分かったリューノは賀露島に言葉で説得にかかる。
良い判断だ。今は少し頭を冷やしたようだ。
「ベイロットさん達が危険なんです!早く向かって援護しないといけないんです!だから離してください!!」
少しは落ち着きを取り戻していたものの、やはりベイロット達の事が心配らしい。
気持ちは分かるが冷静さを欠いた判断では、ただ周りに迷惑をかけ危険に晒されるだけだ。
「まあ落ち着ついてよ..。ベイロットさんがあの程度で殺られると思ってるんですか?」
正直あれほどの爆発があったのならば、もしその爆発にベイロットが巻き込まれていたとして無事である保障は無い。
だがリューノはベイロットの事を信用している。ならその信用を利用すれば何とかリューノを止められるのでは?
「...。..殺られるとは..思っていませんが...」
やはりそうだ。信頼しているならば、ここで彼の実力に対して意を唱える事は無いだろう。
「心配なのは分かるけど今は冷静になって落ち着くんだ。」
大人しくなったリューノを離し大きく深呼吸して心を静めていた。
これで一先ずリューノのに関しては安心だ。
だがやはりベイロット達の事が心配なのも分からなくも無い。
「探しましょう。リューノ君1人だけじゃ無くて僕も一緒に。」
「は..はい...」
僕はリューノに右手を出し、握手を要求する。それにリューノも自分の右手で僕の出した手を掴んだ。
何秒かした後に握手を止めベイロットを探すため、敵に注意を配りながら探した。
暫く探したが特にベイロット達の姿は見受けられず、太陽が夕焼けで赤く染まり始める。
元々この島に着いた時間も夕方近かった為、辺りが段々薄暗くなってくる。
「不味いな..。暗くなってくると捜索が難しくなってくる..。」
夜になり、辺りが真っ暗になってしまうと捜索は困難に強いられる。
危険な動物や敵が潜んでいる可能性だって無いわけではない。
暗い中で闇雲に動くのはあまりにも危険すぎるのでなるべく避けたい。なのでベイロット達を見つけるチャンスは残り少ない。
そんな風に時間に追われてしまい折角落ち着いてきたのに、また焦りが生まれる。
「賀露島さん..暗くなる前に貴方だけでも先にタカフムさんの所へ戻って下さい。」
「それは出来ない。そのタカフムさんに君を止めてくるように言われてるからね。僕が帰るなら君も連れていくさ。」
そう帰れる筈がない。危険すぎると分かっていてリューノを一人で置いてはいけない。
「さあ早くベイロットさんを見つけて帰ろうリューノ君。」
「賀露島さん...。」
そんなホモホモしい2人のやり取りの最中だった。
ドドーンとこれまでの比ではない大爆発が賀露島達のすぐそこで起きた。
その爆発による爆風が賀露島達の体に砂塵を飛ばすように飛んできた。
耳がキーン鳴り続ける。一歩間違えたら鼓膜が破れていたかもしれない。
「うううう..痛い.痛い..」
呻き声を出すリューノ。
リューノは僕が思ったよりも耳にダメージを受けたようだ。両手で耳を抑えながら悶えている。
今リューノを動かすのは止めておこう。
取り敢えず何故爆発が起きているのかそれだけでも確認せねば。
僕は今もキーンと鳴り続ける耳を抑えながら草木を掻き分け爆発の原因を見つける為、歩く。
そして草木を全て通り抜けるとそこには黒い煙がモクモクと立ち込め、地面は隕石が落ちてきたのではと思わせる程のクレーターが出来ていた。
「何だコレ...?」
煙が消え始め周りの見通しが良くなる。するとクレーターの向こう側でフードを被った人が立っている。
顔はよく見えないが、あの人からは特別な何かを感じた。
向こうも僕に何かを感じ取ったのか顔は見えないがコチラをジッと見つめてくる。
ボーとお互いが見つめる。
特に何事も無く過ぎていく時間。恐らくこの爆発の元凶はあのフードを被った者に違いないのだが、何故か動けないでいた。
別に恐怖心があったわけではない。
何かをするわけでもなくボーとしてしまう時が誰だってある筈だ。今はそれに近い状態にある。
「見つけましたか..なら早くアイツを捕まえましょう..。」
後ろからリューノが耳を抑えながら歩いてきた。
「だっ..大丈夫!?」
かなり痛そうに顔を歪ませ、耳を抑えるリューノ。最早ここまで重症になるとは思っていなかった。
「すいません..私、実は耳がかなり敏感なのでデカイ音に弱いんですよ...。」
まだフラフラとするリューノを僕は肩を貸して支えてあげる。しかしフッとフードを被った人を思い出し、その人が立っていた場所を振り向く。
するとその人は、もうすでに居なかった。
しまった。逃がしてしまった。
しかしふらつくリューノを置いては行けず、彼を支えながらフードを被っていた人が居た所を目指し歩く。
クレーターに落ちないよう円を描きながら向かう賀露島とリューノ。
フラフラと揺れるリューノを必死で支える賀露島。ある程度ナルタリカも負担してくれているみたいだが、リューノはかなり限界みたいだ。
もう引き換えそう。もしあれが敵だとしたなら今の状態はかなり危険だ。
引き帰えろうとしたその時だった。
「アンタ待ちなさい!そこを踏んだら!!」
「え?」
ナルタリカの突然の叫び声に動揺した僕があげていた足を地面に着ける。
バーン!
僕の足下で地面が爆発した。
僕はただそれしか覚えていない。
そんな刹那に考えれる事なんてその程度だった。
爆発により地面に出来ていたクレーターにヒビが入り、地面に大きな空洞が出来ていて僕とリューノは下に落ちていった。
「かっ..賀露島さぁぁぁぁん!!」
リューノの叫び声が地面下にあった空洞の中で響いた。




