病み×病み
ドドドドドドドド!!
理楊の発言に殺気をなりふり構わずぶちまけるリスフィス。その言葉をリスフィスの前で喋るのは良くない言葉だった。
いや。理楊はリスフィスを完全に煽っている
「どういう事だい。おチビちゃん?お兄ヤンってのは主様の事かい?」
どこまでも続く暗い闇を思わせる黒い瞳で理楊を見降ろす。
笑顔で話しかけているように見えますが心の中では絶対に笑っていない。
「は?聞き取れなかったのオバサン?お兄ヤンはアタシの旦那様だって言ってるのが分からないの?」
更に煽る理楊に空気がピシッと割れる音が聞こえてくる。
ヤバイ..。リスフィスをこれ以上刺激してはいけない。
理楊を止めなければ。
「あの..理楊ちゃん..落ち着こうか...あまり人を怒らせるような事を言わない方がいいよ...。」
ここは一旦この場を静めた方が良さそうだ。
しかし僕が止めに入ろうとするが2人共何も聞いてはいない。目の前にいる敵に夢中になっている。
どうやらお互いに気の抜けない相手のようだ。
「フフフ..君は面白いみたいね。君みたいな小さい子供が正妻なんて後20年は早いんじゃないかい?」
「は?年の差とか関係ないし、女性は魅力で決まるものじゃん?アタシはお兄ヤンの子を生むのに相応しい体をしているけど..オバサンはねぇ...」
理楊はリスフィスの無いわけでは無いが理楊よりも小さい胸を哀れみの目で見る。
これはマズイ。何かが起こるぞ。
ニコリと笑うリスフィス。
そして気がつく頃には一瞬にしてキラキラと光に反射して輝く氷の世界が広がっていた。
音も発する事なく氷の世界は造られた。
「え?」
あまりにも突然な事に驚きを隠せない。つい言葉が口から漏れでた。
その氷の所為なのか少し寒く感じる。
「はー..さて...肉団子は消えたみたいだし主様~?何処にいったんだい~?」
どうやらリスフィスは激しく一帯を凍らせた為、賀露島が何処にいるのか気づいて居ないようだ。
まさにチャンスだ。
「逃げるなら今か..」
ソソッと匍匐前進でバレないように、ゆっくりとその場から逃げる。
これならバレずにリスフィスから逃げられる。とりあえずここは脱出だ!
「あれ?お兄ヤン何やってるの?」
心臓の音が1つ大きく脈をうつ。
あともう少しで匍匐しなくても逃げられるだろうという時に後ろから声をかけてくる。
先程凍らされたと思っていた理楊が何も無かったかのように僕に話しかけていた。
「あれ?理楊ちゃん?何で僕の場所が分かったのかな?」
「そんなの決まってるよ!アタシは、お兄ヤンがそれだけ大好きなんだから!!」
駄目だ話にならない。
まあ恐らく狼の血をひく彼女の嗅覚が普通に凄いからだろう。
少しの臭いだけでキュウカの場所を探り当てたのだから当然だろう。
警察犬ばりの働きだ。
っと言うかあまり大きな声を出さないで欲しい。
「でもあの女はお兄ヤンの事、好きみたいな感じなのに全然見つけられないみたいだね?」
それは大体予想が出来る。
リスフィスに理楊のような驚異的嗅覚は持ち合わせていない。
恐らく彼女が必死になって探しているのは僕の魔力だろう。
リスフィスは魔力検知タイプのエルフの魔術師だ。彼女がいたフェアリーワールドではエルフは魔法特化型の生き物でエルフ達の右に出る魔術師は居ないだろう。
だが魔力特化ゆえに賀露島を見つけられずにいた。
魔力検知で見つけられるのは魔力反応のみで賀露島や理楊などの魔力を持たない無能者は彼女のサーチには引っ掛からないのだ。
まだリスフィスは此方に気づいていない。
「それじゃあ理楊ちゃんも早くここから離れ...」
匍匐前進を再び始める賀露島に理楊は賀露島の上に乗っかった。
赤い鎧を外し、下着同然の格好になった理楊が賀露島の背中に張り付いてくる。
何か背中に柔らかいものを感じた。
「..あの理楊ちゃん?何やってるんですか?」
単純な疑問なので質問する。
「ん?えへっ..お兄ヤンに抱きついてるんだよ。」
可愛い笑顔で僕の問いに答える理楊。
普通に可愛いしスタイルも文句なし。
まだ幼い彼女の行動は、まあ何となく好意を抱いてくれているのが分かるし、有難い事ではあるのだろうが今はそんな事を考える暇は無い。
まだ近くで今にも爆発しそうな程に荒れるリスフィスにこんな現場を見られたら何が起こるか分からない。
「まあいいです..。理楊ちゃんはそのままジッとしててね?」
理楊を乗せたまま匍匐前進を続ける賀露島は、さっきと同じようにリスフィスにバレないように1歩1歩前に進む。
本当にあと少し!あと腕を2回動かせば...その時だ。
「イッタァァァァァ!!」
賀露島は思わず叫ぶ。何故かって?痛いからだ。
賀露島は痛みの感じる方を向く。そこには賀露島の肩から大量の血が流れ出ているのを確認できた。
「何をしてるんですかぁぁぁ!!理楊ちゃん!!」
そこには口が血で真っ赤になっている理楊が賀露島の肩の肉を食べていた。
理楊は顔を赤く火照らせながら一生懸命に肩から出てくる血を自身の舌で舐め回す。
「..んっ..チュッ..ごめんねお兄ヤン...アタシね?お兄ヤンの匂いを近くで嗅ぎすぎて止まらなくなっちゃった..」
あまりに理解しがたい現実が目の前で起こっている事に僕は言葉が出なかった。
ゾンビ映画を見ているのだろうか?B級映画でよくゾンビが人を食べるシーンで見る光景が目の前で起きている。
異常だ。ついていけない。
僕は恐怖で体が動けない。
「あぁぁぁぁ..ああああああ!!お兄ヤン!とっても良い顔してるよ!!その絶望に溢れる顔もアタシは大好きだよォォォォォ!!!」
僕の顔を見るなり更に叫ぶ理楊。
叫んだ後に理楊は僕の肩を更に大きな口を開いて噛みちぎる。最早痛いと叫ぶことすら出来ず、痛みで涙を流すしか他ならなかった。
しかしこんなに叫べば彼女が気づかない訳がない。
この世界に存在してはいけない者が僕らを睨み付ける。
「..見つけたよ肉団子。そろそろ死になよ?」
冷たい言葉が放たれた瞬間、理楊は何かに引っ張られるように賀露島から離れていく。
それに抵抗するように賀露島の元へ戻ろうとする理楊だが、どうやら彼女を引っ張る力の方が強いようだ。
「お前ェェ!!邪魔するじゃねえよオバサン!!今良いところだろうがァァァ!!」
理楊を引っ張る何かはリスフィスの横で黒く渦巻くブラックホールのようなものがあった。それが彼女を吸い寄せていた。
「君を見ていると実に不快になってくるよ。主様をたぶらかすばかりか傷付けるなんて...当然許される行為ではないよ。」
かなり賀露島との距離が離れる理楊。恐ろしいほどのブラックホールの吸引力が理楊をあともう少しでの所まで吸い寄せる。
氷に爪を立てて何とか堪えているが、所詮は氷なので不安定な場所である為、みるみるブラックホールに引き寄せられる。
「まあブラックホールに入れて潰すのもアリだとは思うけど、僕の主様を傷付けた事は痛みでもっと知って貰わないとね?」
ブラックホールを消し人差し指を理楊に向け、口を開けるリスフィス。そして唱える。
「ヘル..フレア...」
その瞬間、理楊の体が赤く燃え上がる。それほどまでに痛いのだろうか叫びまくる理楊。
それを見ながら満面の笑みで大声で高らかに笑うリスフィス。その目はどこまでも黒かった。
「フフフ..どうだいとっても痛いよね?僕のヘルフレアは君の痛覚神経に敬遠を思わせる程の痛みを味あわせる地獄の炎さ。痛いよね?痛いよね?と~~ても痛いよね?僕もさっき君にそれぐらいの痛みを貰ったんだ。だから君はじっくりジワジワと苦しみながら死ぬといいよ。」
リスフィスは勝利を確信し、理楊の燃え上がる姿に大いに勝ち誇る。
しかし燃えゆく炎の中、ゴロゴロと転がり回る理楊はみるみる体が大きくなっていく。
その光景にまた更に驚きを隠せないが僕は知っている。理楊に今起きている状態を。
炎は次第に弱くなっていき、消え去る。そしてそこには大きな白い狼がリスフィスを睨み付けていた。
体長にして10メートルは超えているのだろうか?あまりにも大きすぎる白い毛皮の狼はグルルルとリスフィスに対して威嚇する。
まるで獲物を狙う獣そのもの。
お互いに睨み合うリスフィスと理楊だったが、リスフィスが口を開ける。
「いや~これは驚いたよ..君の正体は白い犬だったようだね..。なら犬団子って名前の方が良かったかい?」
ドーーン!
巨大な狼となった理楊が前足でリスフィスを弾くと彼女の体は血を撒き散らしながら3キロほど飛ばされ、一瞬の内に見えなくなっていった。
理楊が体の巨大な白い狼になったのは彼女の能力によるものだ。
彼女は人狼の生まれなので元は今の狼の姿が正しい姿なのだ。つまり理楊は自分の元の姿に戻っただけなのだ。
しかしこの姿に戻るという事は彼女がそれだけ本気で戦いを挑まざるを得ないと判断したのだろう。
彼女自身この狼の姿が好きではない。人として生きることを決めていた理楊にとってこの本当の姿にはなりたくないのだ。
理楊は白い狼の姿のままリスフィスを飛ばした方角を凛々しい立ち姿で見つめる。
白い毛皮が1面氷の世界にキラキラと輝きを放ち、逞しくも美しいその姿に僕は言葉を失われた気がした。
そんな理楊が一瞬僕の方を振り向いた。何かされるのでは?っと思ったが理楊は特に何もせずそのまま去っていった。
恐らくリスフィスのヘルフレアを受けてしまい、身体中が火傷してしまったのだろう。そんな姿を見られたくないと言う理楊らしい考えだろう。
リタカートも理楊もリスフィスも僕の事を第一に考えてくれてとても嬉しいし、ハーレム的この状態に喜ばない男は居ない。
だが第一に考えすぎていて度が過ぎている。僕の事を第一に考えすぎていて自分勝手な考えに変わってしまっている。
私が愛しているから貴方も愛しているよね?っと言う無茶苦茶な考えを持つ彼女達を恐らく僕の前の世界にいた頃の人々はこう呼ぶのだろう。
『ヤンデレ』ってね。
周りを見渡すと巫女達の姿は消えていて、そこら辺に弔い会場にいた人達が倒れている。僕は肩の上に乗っているナルタリカと共にフーと息を吐く。
やっと終わった。
瓦礫の山の中でポツリと座る。
そんな中、静まり返るこの一帯で小さな風が吹く。その風と共に複数の小さな声が聞こえてきた。
「おーい。怪我人はいないか~?」
何やら複数の男達が皆同じ青色の服を来て僕達の安否を確かめている。
どうやら彼等はこの世界の救助隊のようだ。最早原形の留めていないこの一帯で何が起こったのかは、彼女達の戦いを見ていた僕達だけなのだろう。
でも最初に滅茶苦茶にしたのは僕達だって事は秘密である。
そんな事を氷の氷柱から滴る雫を見て思った。




