最強の病み
主様は今何処にいますか?
僕は1人ぼっちで何処かも分からない場所に居ます。
ある日、目を覚ますと見たことの無い世界が広がっていた。僕の知っている世界から僕は追い出されてしまったのだろうか?
主様は今何処に居ますか?
僕はただこう願っただけだ。
キ・ミ・二・ア・イ・タ・イ
もう主様無しでは生きられない。胸に刻まれた烙印が酷く痛む度に主様を思い出してしまう。
どうしよう僕が僕で無くなってしまう。
いや。もう。
多分主様の知る僕じゃ無くなってると思うよ。
だけど探せど探せど見つからない。主様が見つからない。
だから今は我慢してこの世界に馴染もう。
僕は待って待って待って待って待って待ってた。
そしてついに見つけた。いつかの世界で見たことのある黒い雷を。
ついに彼を。
ミ・ツ・ケ・タ。
「ハルさん!危ない!!」
ハルの真後ろに立つ人影が突然現れた。どす黒く長い後ろ髪と顔が認識出来ない程伸びた前髪が不気味さを生む。
どうやら女性であることは予想出来たが、今この場にいる全ての生物は現れたこの女について、こう考えていた。
コイツは敵だ。
フユは直ぐ様その女の両足を凍らせた。
「おや?」
言葉を発する謎の女は自身の凍った足を見て不思議に思ったのか首を傾げた。
ハルは、やっと我に返ったように謎の女から距離を置く。
「..あらあら~。私でさえ気づかずに背後を取るなんて貴女はただ者では無さそうですね?」
足が凍っている女は身動きがとれずにいた。
当然だ。この氷は足の細胞の隅々まで凍らせているので無理に動こうとすれば、簡単に凍った足は崩れてしまうだろう。
だが。
謎の女はフユの方を見る。すると彼女が凍られた氷が徐々に消える所を見ていた。
「なっ!?一体どうやって!?」
酷く動揺を隠せない巫女達。
「ねぇ君の魔法さぁ..?」
「..何よ...」
「その魔法気に入っちゃた。ちょっと実験するね?」
カチーーーン!!
大きな氷が一瞬の内に出来上がる。大きさにして約10メートル位の大きさの氷の塊。
そこ中にフユが氷付けになって動けなくなっていた。
「フユ!!」
ナツはフユが氷付けにされている氷に触れる。すると氷は一瞬にして水に変えた。
「!?」
氷は溶けて、液体に変わりフユの本体が姿を現したが彼女は動かなかった。
「ナツさん!ヤバイッス!!それただの〈属性変換〉の氷結魔法じゃ無いッスよ!!!」
ナツはフユの体に触れて彼女が今どのような状態なのか気づく。
そしてナツは魔力を使用する。するとフユの体から湯気が大量に発生した。
「あははは..冗談だよね?体の中まで凍ってるし..これってフユと同じ魔法?」
フユが止まっていた心臓を再び動かすと、彼女は手に膝をつきゲホゲホと咳き込んでいた。
敵を凍らせる魔法は〈属性変換系〉の魔法として沢山あり、これに関しては対して珍しくはない。
魔力を氷結させ敵を凍らせるなんて〈属性変換〉の魔法は数多く存在する。
だがその魔法はあくまで自身の魔力を氷結魔法として発動させているものでしかない。
言葉の通り〈属性変換〉は魔力を様々な属性に変換して成せる魔法。
なので全身を凍らせた所で体の表面に付いた使用者の魔力が凍っているだけなので、内部からでも外部からでも割ってしまえば済む話なのだ。
だがフユの氷結魔法はそれらとは訳が違う。
彼女の魔法能力は〈完全氷結〉と呼ばれ、彼女の能力範囲であれば全てを凍らせる事が出来る。
細胞や魔力素など細かいところまで内部から凍らせる事が出来る。
これを溶かすには時間で氷が全て解けるのを待つか、熱による強制的な温度上昇によって溶かすかだ。無理に外部から溶かそうとすると簡単に割れてしまう。
これが可能なのは、〈完全氷結〉の魔法能力をもつフユだけなのだ。
「へぇ~。体の温度を上げて溶かしたんだね。そんな穴があるのかこの魔法..なるほど...この世界にきて散々程度の低い魔法を見てきたけど、今まで会ってきた人達と違うみたいで僕はとても嬉しいよ...。」
どんな瞳をしているのかはよく見えないので分からない。
だがうっすらと笑う口元はハッキリと不気味さを表していた。
「でもゴメンね?今は君たちに構っていられないんだ?だってもっと嬉しいことがあるから!」
一歩も動いて居なかった謎の女は右足を一歩も踏み出す。
巫女である彼女達ですら呼吸の仕方を忘れてしまう程の存在感。
周りは誰も動かない。いや動くことが死を意味するというのだろうか。
誰も動けないでいた。
「ねぇ...僕を覚えてる?僕の主様...」
賀露島は頭をフル回転させる。この声とこの風格としゃべり方。
そして1人だけこれに当てはまるキャラクターの女の子を導きだした。
「...リスフィス..ちゃん?」
その名前にピタリと立ち止まる謎の女。何かが起こる。
そう皆が思った。ゆっくりと時間が経つのが分かる。
しかし何も起きない。
僕は思った。実は何も起きないのではと。
「主様..流石だね。正解だ。」
「うおっ!!」
耳元でささやかれる女の声。いつの間にか賀露島の後ろにいた女。この声は確かにそうだ。
女は賀露島の体の前にクルっと回り込むと賀露島は両手でギュッと抱きしてられた。
「流石僕の主様だ..こんなに変わってしまっても気づいてくれるんだ。...」
リスフィスロアトリア・ネティラヤンディーレ。
とても長く覚えにくい名前の彼女はゲームのフェアリーワールドで登場する女の子だ。
声や体つきは僕の知っているリスフィスだったが、髪の毛の異常な長さは、始めに彼女を見たときにはリスフィスだと気づかなかった。
「ハハハ..リスフィスちゃん..凄く髪の毛伸びたね...?」
その言葉にリスフィスは自身の髪の毛を触り自分がどれだけ髪の毛を伸ばしているのかを確認した。
そして笑顔でこちらを向く。
「あっ..主様。こんな髪の毛じゃ僕の顔がよく見えないよね?うん..分かってる直ぐに切るよ。」
そういうとリスフィスは指をピッと動かすと彼女の髪の毛が一瞬で短くなった。
「!?」
僕は髪の毛が短くなったリスフィスの顔を見た。
黒く濃い髪の毛は短くなっても存在感を放ち、その紙の色の所為なのか分からないが肌の色は思いの外、白っぽい感じだった。
そして何より長く尖った耳が彼女をエルフの種族であることを示していた。
そこにある僕を見つめる両目は余りにも黒くくすんで、瞳の中に引きずり込まれる感覚に陥った。
リタカートや理楊も同じ目をしているが彼女程は濁っては居なかった。
「ねえ..主様...もう2度と僕から離れないでよ..じゃないと僕の胸の烙印が痛くなるんだよ...」
僕の手を握り顔を赤くしながら自分の胸に押し当てるリスフィス。
熱い。確かに彼女の胸にある傷、烙印が熱くなっている。
何かに共鳴しているのだろうか?よく分からないが僕の知るリスフィスで無いことは確かなようだ。
リスフィスはフェアリーワールドで奴隷として売られていたエルフの少女だったが、僕では無いが主人公は彼女を雇い普通の女の子のようにさせていたようだ。
最初はあどけない感じのビビりな、か弱い女の子だったが、徐々に仲を深めていきヒロイン格まで上り詰めた子だが、こんなに病んではいなかった。
彼女の過去の記憶からすれば確かに主人公を好きになるのは、何となく分かる。
だがそれは僕であって僕でない人物だ。
彼女を助けた事はない。
助けたのはフェアリーワールドの主人公だ。
僕はただのプレイヤーだ。
「あの..この際だから言うけど、僕は君の好きなフェアリーワールドでの主人公じゃないよ...?」
この言葉がしばらく静寂に包まれる。
巫女達とナルタリカ、ビーザル達に喋る権限は最早与えられていなかった。
そんな静寂の中、リスフィスが口を開いた。
は?
たった一言。言霊なのだろうか。そのたった一言に込められた殺気は周りにいる者達に恐怖を贈った。
この空間から音が消えて、身体中の毛が逆立つ。
ナルタリカとビーザルは此に耐えきれず気を失った。
大気は震え、地面が軋む。
「ハルさん!本当にヤバイ!!もうこれアタイ達には勝てないって!!」
「ハルさん!確かにナツの言う通りよ!!ここは引きましょう!!」
大きく体を震わせながら、目の前にいるリスフィスという神をも越える領域の脅威に逃げる以外の選択肢は無かった。それは賀露島だけじゃない。ここにいる者全てが思った。
だが賀露島だけは動けない。彼女が掴む手が離れない。
「そう言って逃げるんだよね?また僕の前から逃げるんだよね!!!」
「いや..え...ちょっと...」
どうやら僕は言葉を間違えてしまったようだ。
巫女達が逃げようとしている姿が見えた。あんなに強キャラ感出してて、いざ自分より圧倒的に強い敵がいたら逃げるのか?
逃げようとしていたハルは突然立ち止まっていた。
「ちょっとハルさん早く逃げ...」
逃げる体制に入っていたフユとナツも立ち止まる。
それはあるものを見たからだ。
「ちょっと待つッス...」
僕は見た。一人逃げず捕まっている僕に近づくアキを。
「なんだい?今僕は主様と話しているんだけれど?」
リスフィスの肩にポンと触れ彼女を止めた。
震えて声の出せない賀露島はリスフィスに抱き締められて動けなさそうだ。
しかもリスフィスは賀露島をこのまま絞め殺そうとしただろう。
「僕は逃げようとする主様を逃がさないようにしているだけなんだけど?」
ミシミシと賀露島の骨が音をたてている。
それにつれて賀露島はもがいているが動けないでいた。
「良いから離すッス!」
リスフィスの肩を強く掴むアキ。
それを見ていた他の巫女のハル達は考える。
明らかに今目の前にいるエルフは神をも越える存在感を放つ怪物。
そんな挑むことさえ許されない怪物に立ち向かう巫女の一人を見てハル達は考えていた。
何故一番小さな北玄の巫女アキが逃げる事を考えずに立ち向かえたのか?
それはきっと心だろう。
それに今のアキは一人では無いのだ。
「..全くッス...実力に差があると分かってる相手に立ち向かうとか..本当にとんだ偽善者ッス...でも。」
アキは拳を握りしめる。
大声と共にリスフィスの頬に拳を叩き込んだ。
「今なら分かるッス..こんな偽善者であっても助けを求めてる人がいるッス...だからウチは逃げないッスよ..それをウチの大切な人が教えてくれたッスから!!!」




