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決着の時1

少し時間を遡る。僕の心の中での事。



「賀露島君にお願いがあるの!」



ハンナにお願いをされる。なんとかしましょうかと言ってしまった手前、断ることなんて出来ないだろう。さらに真剣な顔に変わる彼女の顔を見ていたら尚更断れない。



ハンナはまずアキことヨンナの過去の話を話してくれた。


ヨンナが昔はどんな生活をしていて、どういう性格の子だったのかも聞けた。

とても良い子で自慢の妹だったようだ。



そこからはハンナがヨンナを助けて、死んでしまう話に変わり、聞いていて悲しくなってきた。


そしてそれを自分の所為にして、自らを痛みつけた。ハンナはそんな彼女が苦しんでいる姿を死んでからもずっと見守っていた。

ヨンナが泣きながら何度も何度も頭を叩きつけてハンナの墓の前で謝っていた時は彼女も一緒に泣きながら、ひたすらにハンナも許しの言葉を投げ掛けつづけた。


ヨンナがハンナに対して謝る度にハンナもヨンナに「もう良いんだよ?だからもう自分を責めたりしないで?」と何度も話しかけるが、ヨンナの耳には届いていなかった。


届く筈がない。死んでしまったハンナの声は、いくら思いを口に出そうと生きているヨンナに聞こえる筈が無いのだ。



その見えない壁のようなものがヨンナとハンナの間には残酷にもあった。

たった一言でよかった。一言「大丈夫」とだけ伝われば良かったのだ。



更にしばらくしてから、さらにハンナを苦しめる出来事が起こる。



自分を傷つけ憎んでいたヨンナにも限界が来ていた。最早冷静な判断なんて出来るものではなかった。


ヨンナは自殺を図ろうとしたのだ。自分が命をかけて守ろうとした大切な妹が助けた事により死のうとしていたのだ。



ハンナの目からは涙が止まらなかった。どれ程泣き叫んだだろうか。

だがどれ程悲しみ、大声をあげてヨンナに「もう大丈夫だから」と叫んでも届く筈がないのに彼女はそれでも叫んだ。

叫ばずにはいられないのだ。



その叫びが届いたのかヨンナは自殺を寸前で止めたのだ。ヨンナは恐怖から自殺を止めたが、もしかするとハンナの声がある意味届いていたのかもしれない。



それから自殺を出来なくなったヨンナは苦しみから遂に耐えきれなくなり、この苦しみから逃れるようにハンナを憎むようになった。


最初はショックであった。愛する者から憎まれるのは、慣れる訳がなかった。

それでも以前より明るくなったヨンナを見てハンナは安心した。




「それでアタシはあの(ヨンナ)に恨まれてもいいかなって

思ったのよね?..でも本当はアタシの思いをちゃんと届けたいの!アタシはあの子を救えた事を!それで死んでしまった事を公開してないって!!」



僕は彼女の昔話を黙って聞いていた。これが全部ウソって言われたら、凄くよく出来た話だと思う。

だがそういうわけでも無さそうだ。



これは200年間ずっと妹に思いを届けることが出来なかったハンナの悲痛な本当の声に聞こえた。



「ねえ賀露島君...」



「はい...」



「アタシがヨンナに今までの想いを伝えるのは駄目なのでしょうか?我儘なのでしょか?」



涙目で震えた声で怯える体で脆い心で僕に問いかけるハンナ。

急に敬語に変わって今さら感がある。



賀露島は座りながらハンナの話を聞いていたが立ち上がる。「んー!」と長い話を聞いた時のように体を伸ばし、そして背を向けたまま話を始める。




「それは我儘ですよ..。死んだ人が生きている人に話しかけるなんて本来出来ませんよ。僕の前の世界でも、今のこの世界でもきっとね。」



賀露島にしては厳しい言葉だった。だが酷いと思うのはお門違いだ。

本来は死んだ者と今こうして話していることすらあり得ないことなのだから。



「そうですよね..」とうつ向いて目を擦りながら笑うヨンナ。涙をぬぐったその顔にはまだ悲しみが伝わってくる。



「ですが駄目ではありませんよ!」



「..え?」



「確かに死んだ君が生きている人に想いを伝えたいから、話をさせてくださいってのは我が儘でしかありませんよ。他にもそんな事をしたい人は沢山居ます。..でも大切な人に想いを伝えたいって気持ちは決してダメなんかじゃないと思うんですよ。」



予期せぬ答えにハンナは戸惑いの顔を見せ、賀露島は笑顔で答える。



「当たり前じゃないですか!僕は今だけ絶賛ヒーロー中なんですよ。だから困っている人は人間だろうと獣属だろうと...」


「幽霊だろうと敵だろうと僕はその人の我が儘を叶えられるようにしますよ!だって今だけはヒーローですから!!」



ハンナは再び涙を流した。

今度は止まることのない涙がボトボトと滴る。

きっと長い長い時の中でやっと見つけた希望だったようだから。



「それに君はもう十分な程、その我が儘を叶える資格があると思います...」



200年。これはナルタリカが閉じ込められていた時よりも2倍近い時間がたっている。ゴーストとはいえ、何も伝えられる成仏せずこの世に孤独に居続るなんて簡単に出来ることではない筈だ。



「だから教えてください...具体的に僕は何をすれば良いですか?」



今だに泣き続けるハンナは鼻を(すす)りながら、持っていたハンカチで目を擦り、何とか涙を止めた。本題に入るためだ。




「それは...あの子をぶん殴って欲しい!」



「はい?」



いきなり自分の愛する妹を殴って欲しいなんて言われるとは思わなかった。

しかしこれは今の北玄の巫女には必要なのだろう。



「あの..え~と...分かりました。でも実はもう何発も、もうやっちゃってますよ?」



「いや。あの程度じゃまだね。それにただ殴るんじゃなくてアタシの思いも一緒に届いて欲しいの。」



「え!?実体の無いハンナさんが、どうやって殴って思いを伝えるんですか?」



「拳を出してください。」



僕は不思議に思ったが、とりあえず言われた通りに右手の拳を出す。


するとーーー。



パーン。僕の右手拳にハンナの右手拳を思いっきりぶつけた。



イタッ。

何するだと文句を言おうとした時、それは感じた。



僕とハンナのぶつかり合う拳から伝わってくる。目まぐるしい程の数のハンナの記憶が蘇る。所々見てないけなさそうなのもあったが今はやめておこう。




「これがアタシが生きてきた時の想いと、死んだ後のヨンナへの想いよ!!」



これが200年の想いなのか?重すぎる。腕がどんどん下に下がっていく。

だから分かった。




「君は本当にヨンナさんの事が好きなんですね...。」



「..当たり前じゃない。だってアタシの可愛い妹なんだから!!」




ハンナは肩にあった重い荷物を下ろしたような顔をする。その代わりなのだろうか僕の肩に大きな荷物がのし掛かるような感覚がした。



それだけ僕を信頼してくれているのだろうし、託しくれているのだ。

だから失敗は出来ない。



「ハンナさん..僕は成功させて見せますよ..この拳に乗せた君の想いをヨンナさんに当てて見せますよ」



「頼むわよ!思いっきりいって頂戴!」



「ええ」



そんな約束をした。1人の少女のたった1つの願い。



場面は戻る。

目の前にいる北玄の巫女が本気で殺しに来ている。しかも見えない速度で攻撃をしてくる為、防御も回避も不可能な状態。

そんな怪物に僕は拳を叩き込めるのか?


無理に決まってる。冒険者100人に聞いたら100人皆がそう言うだろう。



僕だってそう思う。力量に差があるのは僕だって分かっている。

勝てない。絶対に勝てないだろう。僕では北玄の巫女には勝てない。

チート能力は持ち合わせているが無敵という訳ではない。生き返らせたり、生き返ったり、超強力な魔法だって使える。


それでもこれらを使いこなしている訳ではない。僕は中途半端にチート能力を持ち合わせた廃課金者なのだ。



今までの人生も半端な人生だった。特に学校でも勉強は途中で放り投げ、仕事も明日やるから今日は帰ろとやっていた仕事を中途半端にして帰っていた。


結局は本気になれなかったんだ。





人は好きなことだけでは生きてはいけない。だから嫌な道をひたすらに進まなきゃいけない。


そんな事を色々な夢で溢れている学生時代によく聞かされた。

漫画家、ゲームクリエイターやお笑い芸人など僕の好きなジャンルの趣味は全て否定された。



そんなこと考えてたら、この先は真っ暗だな。とかできもしない夢ばっか見てないで、ちゃんとした社会人になれとか。

散々に笑われ、怒られた。



そんな事が毎日続いてみろ。誰だって心が折れるさ。

夢は諦めてはいけないとか綺麗事を言う奴がいるけど、出来ない人だっている事を棚上げして自分が成功したから皆だって出来るでしょとか簡単に言う奴だ。




そうして何処にでもいる立派な社会人に僕はなっていた。

生きるためと自分に言い聞かせ、自分が昔憧れを抱いていた夢を持つものを僕も一緒に笑っていたと思う。

本当に最低だ。それで誰かの為に頑張りたいなんていってるんだ。ハンナなんかより、よっぽど偽善者だ。




でもきっと今は違う。

誰かに信用され託される事を知ったから。本気でその人の期待に応えたいと思えたから。



今なら数多くの人間に否定されても、つっぽねる事が出来る。

そこに期待をしてくれる誰かがいるから、本気になれる。



ゴゴゴゴゴ。

魔力が恐ろしく音をたてる。

周りの建物がミシミシと軋む音も聞こえてくる程に。



北玄の巫女アキは神聖霊装モードになっている。

左拳に貯めた絶望を思わせる程の神聖と魔力でそれを地面に叩きつけようとしている。

あんなのを放てばこの町一帯が消えてしまうのは見て分かる。



「賀露島ァァ!あれ止めないと不味いぞ!!」



「分かってます!!」



アキはそれを地面に叩きつけようと腕を上げる。それを止めるため僕とビーザルは走り出した。



スローモーションの世界に入る。ゆっくりと動く世界で僕はゆっくりと全力で走っている。


アキとの距離は絶望的に離れている。僕たちが止める前に拳を地面に叩きつけるアキの方が先だろう。




「やぁぁぁめろぉぉぉぉぉぉ!!」



心では叫んでいるが、スローモーションの世界ではまだ「やぁぁ..」の所である。

それほどまでに時間の流れが遅い。意識のみがアキの動きを捉えていた。



それが地面に当たればこの町一帯が消える。この町の魔法学校にはキュウカだっているし、ジャンマ達だっている。


やめろ。やめてくれ。そう心で願った。



だがその願いは叶った。




ドォォォォォン!!



地面から黒い手が出現し、アキが地面を叩きつける前に彼女を上空へと打ち上げた。




「死神ごときにやられてたまるかっての!!」



小さな体のメナスィートが後ろの大きなバックから黒い手を地面に通していた。

そしてその手がアキが地面を叩きつける前に彼女を上空へと追いやったのだ。



「よくやったメナスィート!この戦いが終わったら何か褒美をやるぞ。」



「ええ!いいの!?じゃあメナのお願いは今日ビーザルと一緒に寝る事!...てなに言わせるのバカァァ!!」



顔を真っ赤にさせながらピョンピョン跳ねるメナスィート。

かなり恥ずかしがっているようだが、なかなか可愛いものだ。小さな小動物が何かを訴えて来ているみたいだ。




「戦いはまだ終わってない。死神がまた降ってきてアレで地面叩かれたら今度こそ本当に終わりだぞ。」



一時的にアキが上空に打ち上げられた事により、一先ず難は去ったがアキがまた地上に落ちきった時は本当に最後だ。

メナスィートが使った手は、もう通じないだろう。



あれを叩き込まれたら僕のこの世界での全てが消えてしまう。仲間と思い出。意外とこの町にはお世話になっていた気がする。

初めて来た町で初めてこの世界で生活して、今の今まで生きてきたこの町。故郷と言っても良いのだろうか。

それぐらいの想いはこの町にあった。



「ビーザルさん..お願いがあるんですが...。」



僕の問いかけにビーザルは振り向き「なんだ?」と答える。



「その大剣で僕をあの北玄の巫女の所まで運んでもらっていいですか?」

その問いにビーザルは少し止まった。

そして口を開く。



「なるほど..死神が地面に到達する前にやろうってやつだな。まあそれしか無いからな...。」



「それもありますけど、身動きの取りづらい今がチャンスだと思うんですよ。それに僕がやらなきゃ駄目なんで...。」




拳を強く握る賀露島。それを見てビーザルはフッと笑みを溢す。



「その拳..。強い想いを感じるな。それもそこら辺の生半可なものじゃない。何十年、何百年とそれぐらいの強い想いを感じる。」



「スゴいです..よく分かりましたね?そうなんです..僕は託されましたから。これで北玄の巫女とは決着を着けます。」




ビーザルはそれ以上は聞かなかった。

とりあえず大剣の平らな部分に乗る賀露島。ビーザルは賀露島が乗った大剣を持ち上げて、構える。

目指すは北玄の巫女。上空にいるアキの場所。



「ウオオオオラァァァァァァ!!」



ブンッ!と風を切る音が聞こえる。大きな風を発声させると共に僕の体は上空へと放り出された。



体が空気により締め付けられている気持ちになる。空気抵抗がそうとう強いことが分かる。

段々とアキに近づいく、場所はピンポイントだ。



「うおおおおおおおお!!」



気合いを入れるため大きな声で叫ぶ賀露島。

それに気づいたアキは体勢を直し賀露島の方向を見る。



「..本当にしぶとい偽善者ッス!どうせ生き返ると思うッスけど貴方に当てるッス!!」




あっ。そういえば〈死亡フラグ〉を地面に刺すのを忘れていた。

〈死亡フラグ〉は言わば自分の拠点のようなもので、その拠点を増やすためにある。複数旗は立てることが出来るので、折られても何度でも刺せることを完全に忘れていた。


だが今はもうかなり上空、それに勢いでここまで来たんだ。今さらそんな事をしてる暇はない。



僕がやらなければいけないこと。それはもう1つしかない。


ただ北玄の巫女ことアキ。かつてのヨンナに拳を叩きつける事だ。




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