死亡フラグ
偽善者は嫌いだ。
勝手に誰かに認められたくてカッコつける。
それで助かる人もいるかも知れないが、それで助けた側が死んでしまったら助かった側は何を思えばいいのだ。
自分の所為で死ぬなら自業自得だ。だがそれに巻き込まれ、正義を振りかざした者が死んでしまったら?
それは殺人だ。直接は手を下していないにしても、やはり間接的には殺しているのだ。
それが他人だろうが身内であろうが、助けられた方は罪悪感に押し付けられる。それが大切な人であればあるほど自分を恨んでしまう。
ヨンナも何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も謝る。
何十回、何百回と毎日のように謝るが死んだ者は何も言わない、許してくれない。
それが幼いヨンナには耐えられなかった。何度死のうとするが、あと一歩で恐怖で止まってしまう。意気地無しだ。
こんな死んで当然と思うヨンナは自分だけ、のうのうと生きているのが辛くて悲しくて仕方が無かった。
どれ程顔が腫れるまで自分を殴っただろうか。
どれ程血が流れるまで地面に額をぶつけただろうか。
どれ程体が折れるまで体を限界まで自分を追い込んだろうか。
それでも許してくれる訳がなかった。姉はもう死んでしまっているのだから。
だがある日、自分が自分を恨む理由が分からなくなってきた。いよいよ頭がイカれてきたのだ。
そしてヨンナは考えた末、姉を恨むことにした。それでうまくいくと思ったから。
するとどうした事か気分は以前よりマシになっていた。
それからウチは姉のような偽善者を悪として見るようになった。だって自己満足でやってるようにしか見えなくなってきたからだ。
誰かの為?人々の為?困っている人達の為?
ふざけるな。偽善者が。ヘドが出る。
気分が悪くなる。だからこの賀露島だけは殺さなければならない。
自分が正しいということを。
「ハァァァァァ!!」
アキは音速すら越えるスピードの拳で連撃するが、賀露島はこれを難なく全て受け止める。
この男はアキの予想の遥か上をいっていた。
初めは出来ても神聖を開放した拳を止められる程度だと思っていた。だが切り札である最終形態の神聖霊装状態で神獣と同等の力になった腕力でさえ止められてしまう。
万策は尽き欠けていた。
巫女の中で一番筋力に自信があるアキだったが、力で賀露島を倒せないとなると、いよいよ何も出来なくなる。
「ハー、ハー。一体どうなってるッス?神聖霊装でも倒せないとなるとウチ何も出来ないッスよ...」
アキの神聖霊装にも限界はある。神獣と同等の力にまで強制的にステータスを上げるのだが、これをノーリスクで発動出来るほど世の中は甘くなかった。
今こうしている今もアキの魔力は削られ続け、これが尽きてもなお神聖霊装を使用しつづけると命の元である魔力素を消費する必要がある。
なのである一定を越えると体に危険信号が発令する。そして。
「不味いッス..口から血が出てきた..早くしないとッス...」
神聖霊装に使用される魔力が尽き命を消費し魔力に変換され始めた。
しかし魔力素から消費する魔力は純素な為、対価として神聖霊装の効果は更にその能力を上げる。
「ハァァァァァ!!!」
放つ拳は更に重く速くなり、次第に賀露島を押し始めたした。
押され始めた賀露島は徐々に後ろに後ずさる。
しかし賀露島は腕ばかり気にするアキに気づいたのか右足を振り上げアキの顎にクリーンヒットさせる。
それにより口から大量の血が出き、フラフラと揺れるアキ。それに追撃で腹に拳を放つ。
更に口から血が漏れでるアキに賀露島止めの一発を食らわせようとしていた。
それを感じ取ったアキは死ぬ前にせめて賀露島の命だけでも道連れにしようと拳を振る。
その寸前であった。
「..ん?あれ?」
今まで一言も言葉を発しなかった賀露島が気の抜けた声で喋った。
すると賀露島の拳は止まった。
「ハァァァァァ!」
アキは突然の事ではあったが、そのまま拳を賀露島の顔面にぶちこんだ。
賀露島の首は、見事に彼方へ飛んでいき残った体の首部分から大量の血が噴き出す。
顔を失った賀露島の体は、足から崩れ落ち、地面に倒れたが溢れた大量の血も体でさえ姿形なく無くなっていた。
とりあえず戦いに一服ついたアキはフーと息を吐いて呼吸を整える。
しかしまだ終わってはいない。
「..なるほどッス..生き返る謎が分かったッス...」
「うおおおおおお!なんだ今のは!?急によく分からない拳が飛んできた!?死んだよね今!?」
賀露島は黒い旗の前で立っていた。どうやら死んでしまいこの旗の能力が発動したようだ。
この黒い旗はアキに対して攻撃で使用していたが、実の所がこの旗の効果を発動する為のフェイクである。
この旗は〈死亡フラグ〉というガンフローオンラインで使用する旗だ。
ガンフローオンラインではクラン同士の戦いで旗揚げというゲームがある。
ゲーム内にある特定の位置にこの旗を立てる事で、自軍の拠点を拡げ時間になった時に立てた旗の数が多い方が勝ちというゲームだ。
その際、敵に殺られてしまうとその旗のある拠点で復活出来る。そんな効果がこの旗にはある。
ゲームでは指定された場所でしか旗を刺せないが、この世界は違った。どこでも刺せることが分かった。
「すぐにバレると思ったけど意外と行けるんだな~。」
「うわぁ~スゴいね!本当に生き返っちゃったよ!?」
突然の頭の中に聞こえてくる声に僕はビクッとなった。
この声は先ほどまで心の中で聞いた少女の声だった。
「うわぁ!?ハンナさん?もしかして話しかけてます?」
「うん!賀露島君の心の中にいるからね...。そういえば賀露島君!あの約束よろしくね?」
賀露島はクスッと笑って頷いた。
「やっぱりッス..その黒い旗が貴方の生き返る理由みたいッスね..。」
フラフラと近寄るアキは口から血を垂らしながらユラユラと近づいてきた。
端から見ると彼女は息の根である。だがそれでも巫女だ。気は抜けない。
ゆっくりと何も仕掛けず、少しずつ近づいてくる巫女に危機感を感じていた。
下手に動けば殺られてしまう危険があるし、そのままでも殺られる危険がある。
「..今の貴方からは、先程の危機感は感じられないッス..なら別に神聖霊装を使うまでもないッス...」
僕は構える。ハンナの話を聞いた後にアキを見ると心が苦しくなってきた。
先に仕掛けてきたのはアキだ。賀露島目掛けて拳を振る。
だがコレは読んでいた。彼女が顔目掛けて拳を振ることを。
しかし。
スパーン!
強烈な音が響く。
賀露島はアキの攻撃を守る事なく、アキの拳は見事に賀露島の顔面を捉えた。
「うぶっ!!」
賀露島は殴られた事により鼻から大量の血が出てきていた事を確認できた。
不味い。次が来る!
再び殴る体制に入るアキに対して僕も警戒の体勢に入る。
今度は腹だ。彼女の目線が僕のお腹を向いていた。
ならすぐに守らなければ。
アキが攻撃体制に入る前に、お腹に攻撃が来ると読んだ僕は腹部を両手で防ごうとする。
しかし、アキの拳は僕の腹部を捉えていた。それも賀露島は防ぐことはなかった。
「グェェェェェ...」
強烈な腹痛がする。あまりの痛さにお腹を抑えてしまう。
それを逃すアキでもなかった。
賀露島が両手で腹部を抑えカードが出来ない状態になった賀露島にダメ押しで顔面に右ストレートを食らわせた。
生々しい音が響き、大量の血が溢れ出る。
賀露島が何故みすみすアキの攻撃を受け続けているのか。それは賀露島がアキの攻撃を防がないのではなく防げないからだ。なら何故に賀露島はアキの攻撃を防げないのか。
賀露島が防御の体制をとるべく手を動かそうとする。だがアキはそれより先に攻撃したのだ。
つまるところ賀露島が守る間もなくアキの攻撃を先に受けてしまうのだ。
何故このような事が起きるのか。アキは拳を握る際にある能力を発動させていた。
〈心臓圧縮〉自らの心臓に負荷を与え、心臓の鼓動速度を限界まで速めることにより、自分の体内時間を速める能力。
心臓の鼓動速度と寿命は関連している。
この世に生きる色々な生き物達は体の大きさにより、心臓の大きさが変わり、それぞれが違う速度の鼓動を刻む。
心臓の鼓動は生き物達の命を表し、生きている生物全てが心臓の鼓動が脈を打つ。
世界は理不尽にも早く死ぬ生き物、長く生きる生き物が存在する。
ネズミで2年、象で70年なんて言われている。
何故このような差が生まれてしまうのか。それは心臓が鼓動する時間が関係しているからだ。
ネズミが心臓を1回鼓動して次に鼓動するまでの時間が0・2秒なのに対して象は3秒程である。
単純な計算でネズミは3秒に15回。象は3秒1回になる。
心臓は脈打つ速度に比例して寿命が変わるのだ。
鼓動は刻めば刻むほど命を削る。だからネズミは早く死んでしまい世の中は理不尽だと思うかもしれない。
だが違う。意外と世の中は平等であった。
生き物が体感する体内時間は基本どの生き物も変わらない、心臓が鼓動する回数は皆同じ位である。
ネズミは2年、象は70年と説明したが、そこには35倍も寿命に差が出来ている。
だが体内時間は心臓が刻む速度。
同じ1秒でも、象が1秒を体感した時にはネズミは5秒を体感するのだ。
ネズミと象が同じ速度で走れるとして象が50メートルを10秒で走ったとするとネズミは既に同じ10秒でも250メートルまで走っている事になる。
この体内時間が生み出す時間の差は心臓の鼓動速度によるものが大きい。
これを生かしたのがアキの超加速パンチである。
自らの心臓を圧迫し、その鼓動速度をあげたことにより、賀露島にとっての1秒とアキの1秒の体感時間に差をつけ、賀露島が判断し、防御の体制をとるまでの時間よりも先にアキが攻撃を可能にする速度まで速めたのだ。
賀露島にとっては、この攻撃は突然の現れる攻撃。
まるで彼女に時間を止められてような感覚だ。勿論そんなの止められる筈がない。
賀露島はアキ渾身の右ストレートを受け、体は宙を浮き、5メートルは飛んだだろう。
意識がぶっ飛びそうになったが死ぬまでには至らなかった。
「悪いッスけど、この旗は折らせて貰うッス..。」
地面に突き刺さる黒い旗を蹴り、へし折る。これで賀露島は生き返る事は出来ないだろう。
アキは倒れる賀露島に追撃を更に与えるため賀露島の元へ走る。
一瞬フラッと立ち眩んだが、なんとか踏ん張る。
神聖霊装の発動により魔力がほぼ尽き、命を対価にした為口から止まることなく溢れる血が彼女がどれ程痛みを堪えているのかを物語っている。
ましてや〈心臓圧縮〉により更に体は削られている。
だがここでアキは負けるわけにはいかなかった。
「うらぁぁぁぁぁ!!」
渾身の一撃を放ち、これを賀露島の手向けとしよう。
もう魔力のないアキは倒れる賀露島の心臓目掛けて、拳を降り下ろす。動いていない賀露島なら魔力が無くても殺せるだろう。
「させるかよ!!」
スパーン。
賀露島に止めをさす筈だった拳は大きな大剣によって弾かれた。
それにより大剣によって切られた右手は、親指と人指し指の間を4センチ程切り裂いた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大量に流れ出る手からの大量出血で流石に痛みに耐えきれず、叫び出すアキ。
立ち上がろうとする僕でさえ彼女の手に視線を向けるとその状態が痛々しくて見ていられなかった。
「ハハハ..本当か.?全力で振り抜いたのに、まだその手は繋がってるのかよ...」
間一髪の所でビーザルの助けにより、救われた賀露島。
立ち上がりポーションで回復した後にビーザルにお礼の言葉を伝えた。
「別に気にするな。それよりも勝とうぜ巫女に。」
「はっ..ハイ!..あっ..あとコレどうぞ!!」
フラフラになりながらも大剣を強く握りしめるビーザルに僕はポーションを投げた。
それを受け取ったビーザルはポーションの蓋を開けて、ゴクゴクと飲み込んだ。するとーーー。
「うおお!スゴいぞ!!傷が癒えてくし、力が湧いてくる..。」
賀露島に渡された謎の液体ポーションを飲んだビーザルは一瞬で消えた傷や痛み、沸き上がる力に驚きを隠せなかった。
正しくは沸き上がるのではなく疲れが無くなりベストコンディションに戻っただけだ。
「ちょっとそこのお前!メナにもよこせ!」
突然横からヒョコっと出てきた幼女。明らかに僕がキュウカの〈変化の術〉により幼児化した時と同い年位の女の子が出てきてビックリしてしまった。
幼女はピンク色っぽい髪の毛がサイドテールにまとまっていて、体と同じくらいのバックを背負っていた。
見た目だけで言うなら、迷わず可愛いと言うだろう。だが言葉がキツいように見受けられる。
ジャンマやマウルも彼女位の年だろうが、やっぱり口が悪い。この年齢の子供達は皆口が悪いのだろうか。
ビーザルのあまりの反応に賀露島が渡したポーションに興味を抱いたようだ。
とりあえずこれ以上嫌なことを言われると心が折れるかも知れないので素直にポーションを渡す。
それを一所懸命に飲むメナスィートを見て僕とビーザルは和む。だが残念な事に僕はロリコンでは無いので、これ以上は何も思わなかった。
「ぷわぁぁ!なにこれ!?美味しくないけど疲れが取れてる感じがする!!」
「身体的にキツいときに飲むともっと実感できますよ?全て回復するんですよ!痛みも呪いも!」
こんな普通の量産課金アイテムを、こんなに誉めてもらえるとつい嬉しくなってしまうものだ。
「おいお前!後でコレ10本位よこせ!」
さっきからよこせ!よこせ!と煩い子だ。こういう生意気な子は無視するのが一番なのだ。
「すまんな賀露島..アイツはまだガキなんだよ...」
「はい..かなりプライドの高い子ですね...」
コソコソ小声で話す僕らに察したのかメナスィートのカバンから黒い手が出てきて僕とビーザルの頭を軽く叩いて、ビーザルの体に引っ付いた。
「絶対今メナの事言ってたし!あとコショコショ話は許さないから!!」
なるほど口は悪いが扱いやすそうだ。
だがそんな和やかな雰囲気も一瞬で恐怖に変わった。
3人に伝わる死を連想させる程の殺気。メナスィートも直接向けられる殺気に息を飲む。
「仕方ないッス..もう全力で殺すッス...ガハッ!..」
アキによる死を連想してしまう程の殺気。最早常人の冒険者ではもう心が折られているだろう。
そして再び命を削り神聖霊装状態になるアキ。解除により短く戻っていた髪の毛が再び伸びる。
空気は歪み、死のみのイメージだけが張り巡らされる。
やはり神聖霊装の影響なのか口から大量血が流れ、耳、鼻の方からもポタポタと血が垂れているのが分かる。
目は赤く染まり、そこからも血が溢れだす。
彼女も相当の覚悟なのだ。
「もうこれで最後ッス..皆殺すッス...」
最後の命で削り取り続けた魔力を大量に左の拳に込める。
その拳から溢れ出る魔力は図ることすら出来なかった。分かるのは絶望だけだ。こんなのが放たれたら、この場所は、この町は、跡形も無く無くなってしまうだろう。
見たことがあるわけではないが、それがそのような結果をもたらすだろうと本能が察している。
僕だけではない。隣にいるビーザルもメナスィート、ナルタリカや、付近の住民達。冒険者だろうが、なかろうが全ての人々がこの魔力に対してそれほどの危機感を持っていただろう。
僕はこれを何かに例えていた。それは核兵器だ。
一発だけで全てが無くなってしまうだろう魔力が放たれようとしている。防がなければここにいるアキ以外が明日を迎える事が出来なくなる。
その前に止めなければ。
僕は右拳をギュッと握りしめた。
約束を果たすため。




