怪物
バーミンの顔を押さえつけ、体を動かせなくなるように両手でガッシリと押さえつける。
「てめぇ...なんで生きてやがる...」
賀露島に押さえつけられ全く身動きの取れないバーミンが心臓を貫いた筈の賀露島が生きてる事について聞いている。
当然それに正直に答えるつもりもない。てか答えない。
バーミンは何も答えられず、身動きを封じられた事に苛立ちを抑えきれず歯軋りを始める。
それを見てフクニーグが大声で笑い出す。
「ガハハハ!賀露島やっぱりお前生きてやがったのか!」
僕は知っていた。この声この体格の男を。
「あっ貴方は...」
「あのどしゃ降りの雨の日以来だな?」
そうだ。この人は僕が雨の日にハリケーンを使って飛ばした人だ。
あれくらって生きてたのか。
しかし改めて見ると彼の凄さが分かる。
体はかなりの筋肉質で肌は黒色で声もそれとなく覚えている。
だが大量雨の所為でよく見えなかったが異常な程の筋肉が脈打つのを見て自分がどんな恐ろしい人と戦っていたのかが分かる。
そんな彼にフッと手を出される。握手を希望しているようだ。
「あっ...あの時はどうも...」
フッと何も考えず僕は右手を差し出す。
その時のフクニーグの顔を見ると彼は不気味にニヤリと笑っていた。
「賀露島~お前バカだろ?」
「え?」
体がぐらつく。
(しまった!)
僕が片手を離した事によりバーミンに対しての拘束力が無くなり、バーミンが僕を弾き飛ばして立ち上がった。
「不意打ち決めたからって調子に乗んなよぉぉ!!」
バーミンの回し蹴りをくらい僕の体はあっという間に隣の部屋まで壁をぶち抜いていった。
「ガハハハ!バーミン!お前も見事に不意打ち決められちまったな!!」
「うるせぇ殺すぞ?...とはいえ借りを作っちまったからな今回は許してやる。」
すぐに会話を止め隣の部屋で倒れている賀露島に追撃の蹴りをくらわせさらに奥へと進んでいった。
建物の端から端まで壁を破壊して建物もいつ崩落してもおかしくない状態になっていた。
そしてもといた部屋はボロボロに崩れていたが大男のフクニーグと見た目は獣属と人間のハーフ少女理楊だけが瓦礫の上に残っていた。
「なあ聞いてもいいかいお嬢ちゃん?」
「ん?何?」
理楊は賀露島がいるときよりも少し低い声でフクニーグに返事をする。
「君は賀露島の援護をしなくてもいいのか?」
「賀露島?お兄ヤンの事?それなら手を出すなって言われちゃったからね。お兄ヤンのいうことは絶体だもん。正妻なら当然だよね?」
顔を両手で抑えながら照れ隠しをする理楊。
フクニーグを彼女の異様な恐ろしさに恐怖し始めていた。
「そんな貴方もお兄ヤン刺した男を助けなくていいの?」
「ガハハハ!あの男はただ賀露島と遊ぶのを見たいが為の男だからいいんだよ!この為に呼んだんだよ!」
理楊はフクニーグに「悪趣味ね」とニヤケながら言う。
「だがあの賀露島の顔を見ただろう?あの驚く顔は傑作だったぜ!」
その言葉に理楊は下を向いてプルプルと震えている。
しまった。流石に怒らせてしまったのかもしれない。
そう心配するフクニーグ。
そして理楊が口を開く。
「そおおおおおお!!そうなのよ!あの顔スゴく良かったわァァァァァ!!」
突然の大声にフクニーグは予想外の反応に硬直してしまう。
そして理楊の目を見て気づく彼女の異常さを。
(見たことねぇよこんな奴...完全に化け物だ...)
真っ黒に染まる瞳。
そして魔力を一切感じない理楊から漏れだす絶望ともいえる何かを感じとる。
魔力で全てが決まるこの世界で初めて感じる魔力ならざるものの脅威を目の当たりにした。これを化け物と言わずして何だ。
「貴方あたしと相性が良いみたいね?奴隷にして飼い慣らそうと思ったけど善き友として、あたしと対等に扱ってあげる!」
「がははは...それはどうも...」
ありがたく受けとるしかないこの状況。断れば確実に首が飛ぶだろう。
体が自分よりも2分の1程度の大きさの少女に圧力で負けてしまった。
フクニーグに最早プライドなんてものはない。
キュウカのような獣属と人間のハーフであろう女の子に下手から出てる時点でプライドなんてものはなくなっていたからだ。
それにしょうがないと割りきる事もできる。何故なら。
「あァァァァァおにィィヤァァァァァン!!次はどんな素敵な顔を見せてくれるのォォォォォ!!」
彼女の呻き声のような声がボロボロに崩れる部屋に響く。
この少女は小さな可愛い女の子では無い。
この世界全ての何よりも遥か怪物だ。
人間では怪物には、勝てない。
カッターでミスをして指を切ってしまった。
さらに、それで切っていた段ボールでも指を切った。
さらにさらに、かなりの血が出てきて咄嗟に舐めてしまい腹を壊した。
さらにさらにさらに、その手を洗うと激しく染みる。
まさに幸運な程の不幸とはよく言ったものだ。