物語の始まりと終わりの話
短編とはなんだったのか…(愕然)。いやマジでスイマセン、書き直しも視野に入れてますが、行けるところまで行こうかなと。
この話はある意味裏(兄:ウィズワルド視点ではない)話です。まあ、あんまり重要でもなく、シャルロットの中の人がインストールされる前の感じと蛇足、そして、シャルロット視点で前3話分がどんな感じだったのかを書いています。(途中ですが書きます、ってか重複する部分は8割です)
猛烈な虚無感、心を充たす絶望、感情が凪と時化を繰り返すような感覚。
そんなものを感じながらシャルロットは今ベットに横たわる。
貴族社会の汚さを、苛烈さを、辛酸を、苦汁を、全て知った訳では無いが、もう無理だった。
私は耐えられなかった。自分を偽りで覆い隠し、自暴自棄の如く振舞い、それでも周りは放っておいてはくれない。
両親も、兄も、家に仕える使用人達も、何も言わない、諌めてはいたが、私が拒めば、すぐさま退いた。当然だろう、彼らは後ろめたいのだ。
私が、この十年近くの間感じている感覚の発端。貴族社会というモノを、醜悪な実態を知ったあの出来事が。
だからだろう、この体調を崩し、意識が朦朧としつつも、安堵感に包まれていた時、幸せを感じ、彼女の許へと想い、
シャルロット・エアスト・モルボードは生涯に幕を降ろす筈だった。
シャルロット…モルボード……?
ふと自分の名前に何かが引っ掛かった。そうまるで懐かしい感覚、働かない頭で、混濁した意識の中でつらつらとその要因を考える。
そして思い出す。私の事を。そして今の自分を。
そして、何時の間にか、妙な匂いの男性が来て、山は越えましたよ、シャルロット様。と言い、そそくさと部屋から出て行った。
まだ頭がボーっとしているが、現状を確認する。自分は誰か。そして、今が何時で、どこの状態なのか。そして自分の願いを。
そんな時部屋がノックされ、一人の男性が入ってきた。
切れ長の目、薄暗い部屋でも金色に輝く髪、無表情がデフォルトで、他者を見詰める目線は凍えるように感じられる、私のお兄様
そして、部屋の前に佇む彼が口を開いた。
「シャルロット、もう身体は良いとの事だが、大丈夫か」
重低音で怠い身体に響く声で、労わるこの男性は…。
「ウィズ様?え?本当に?アレ?夢じゃなくて、え?現実?え?」
そう思わず声に出してしまった。混乱も最高潮と言っていいだろう。口走った内容に思わず、不味いと思い、恐る恐る見るが、声が小さく聞こえなかったのかジッとこちらを見詰めている。
無言はまずいと思い、身を正し、令嬢らしく振舞って答える。
「……ご心配をお掛けしました、お兄様、もう体調の方は元通りです。多くの者に迷惑を掛けしましたわね。」
そう答え反応を見るが、少し目を動かしたと思ったが
「………そうか、いや妹の心配位するさ、だが無理はするなよ、何時でも相談したいことがあったら言うんだぞ、シャル」
普通に返されたので、若干ホッとしつつ、幼い頃の愛称に気恥ずかしさを感じつつそれより嬉しさが上回ったが、ボロを出す訳にはいかないと思い
「はい、もう少し横になろうと思いますので、お兄様は外に出て頂いてよろしいですか、あと侍女の方々にも用があるまで自由にと伝えておいてください」
「ああ、伝えておこう、では、失礼する」
返答を返し、一人で考えたかったのでお兄様を部屋から退出して頂こうと言葉を重ねると、すぐさまお兄様は部屋から出て行った。
良かったという思いと同時に若干見舞うにしては短いんじゃないかと思うこの心はやはり、私と私の違いなのだと思った。
私は一般家庭と言える場所で不自由なく育ち、両親は共働きだったが、少し離れた歳の兄が面倒を見てくれていた。
家にいる時、親よりも兄と会話が多かった私は、何時からか趣味となった乙女ゲーと呼ばれる類の話を振るようになった。
兄はその話になると苦笑しつつも、私を邪険には扱わなかった。今思い返せば迷惑だったのだろう。だがそんな生活も突如終わりを見せた。
私が高校卒業した日、兄が交通事故で亡くなったのだ、茫然とした。何が起きたのか理解できなかった。遺影で微笑む兄の顔を見て、棺に納められた兄の青白い顔を見た時、ようやく理解が追い付いた。
当時の事はあまり覚えていない。呆然と大学生活をしていた、そう周りからは言われた。
そして、大学卒業を残すのみになった時、懐かしいモノが部屋から出てきた。一本の乙女ゲーだった。
当時はハマり、兄にも攻略できないキャラや、こんなキャラが居たんだと言いながら、全てのエンディングをがんばって踏破したモノだった。
そして私はいつの間にか、ゲームをセットしていた。スチールを見、ボイス集を聴き、特殊資料を読み返し、懐かしさに胸が一杯になった。涙が頬を伝い、いつの間にか意識が朦朧として、そのまま意識を手放した。
そして私は、懐かしさで涙を流した乙女ゲーのシャルロットになっていた。
シャルロットは最初はただの侯爵令嬢だった。いや、身分に囚われず、使用人とも分け隔てなく接する侯爵貴族の娘だった。
だが全ては過去の事である。ある事件から私は変わった。いや変わらずにはいられなかった。貴族社会の醜悪さを垣間見、そんな筈はないと思いながらも、私の心は傷付きたくない、そんな世界を見たくないと心に仮面を着けた、脆くいつか崩れる薄氷のような仮面を。
その頃から家族すらも遠ざけ、事務的な会話をする程度になっていた。初めは心配をしていたが、態度からか、何かしらで気付いたのだろう、家族すらもあの事件を起こした存在程度にしか見なかったのを。いや、身近だからこそ、余計に、私の仮面の下が解ってしまったのだろう。
そして十年、精神的にも肉体的にも疲れ果てた私の仮面は彼女を呼び覚ますまでに到った。でも彼女は昔の私なのだ。長年着けていた仮面は呆気なく砕けた。卵の殻の様に。
そしてそんな回想とも、夢とも思えるモノを見て、朝日が差し込んできたのを合図に、目を開けた。頬を濡らしているこの雫は、昔を思ってか、今を思ってか、複雑になりながらも私は、行動を起こした。
まずは、悪趣味とも言える服や装飾を全部売り払い、品の善い、華美になり過ぎない服や装飾を最低限揃える事から始めた。
そして毎晩のように参加していた夜会も最低限にし、ダンスも若干今の私は下手化しているので断り、目立たないように壁を背にし周囲観察に専念すことにした。
食事内容も質素にして、多かった量も少なくするように言いつけ、過去のトラウマからコロコロ変えていた料理人や使用人の交換も控えるようにした。
また、今の私になってから再度学び直そうと思い、習い事、歴史、周辺国の状況などを重点的に学んだ。これはゲームとしての展開に関係していたのも意欲が出たポイントでもある。
ただ、急だったからか、教師の数人には訝しげというか、驚かれたりしていたと思う。
また、衣服、装飾品の余ったお金を持参しつつ、重要人物がいると思われる場所へと足を運んだ。もちろん変装として男装姿で、万が一私だとばれない様にして。
苦労したことと言えば、上手く護衛を巻いてこの場所に足を運ぶことだろうか。
そして、私は、彼女に再会した。
続く……