迷走
今は何時だろうか?
昨日の集落から逃げた後俺はまだ一度も眠れていない。
少しづつ夜が明けていく。しかし俺とエマの間に会話はなく車内は静寂に包まれる。
車から見える景色は変わり映えしない町だけが見える。
どれだけ違うものに目を向けようとしてもあの集落でできた友人が頭を離れない。
無意識に俺は視線を落として軽く頭を振りまぶたを閉じる。暗くなった視界はまだ翔馬のことを映している。
別に忘れたいとかどうとか思っているわけじゃない。だが、今はただ頭空っぽで車に揺られながら時間が過ぎていって欲しいと思っている。
自分自身が今どうすればいいのかどういう心持ちでいればいいのか分からぬまま俺自身眠れずにいた。すると、エマが静かに話しかけてくる。
「主人少し眠るべきです」
「できたらやってる」
俺自身も休みたいと思っている。心も体も疲弊しているのは自分が一番わかっているのだから。
「……努力はする。」
今言えるのはこれぐらいだな。自分の状態すら理解していない俺がこれ以上いう事はできない。
「分かりました。…もし休みたければ言ってください。車はいつでも止められます」
この世界が崩壊した日、俺以外にも家族を失った者や死んでしまった人はたくさんいるだろう。そう考えたら翔馬はまだマシな方だったか?
「俺は、翔馬を救わなかった」
「あれは救えなかったの方が正しいと思います」
log15
おかしいのは言葉遣いがおかしいからか。または人として目を向けるところがおかしいからか、主人が人として変わっている。
普通はあの集落の人間の怖さやたらればというものを考え吐露してしまうものだ。
だが主人は自分が受ける可能性があった被害に全く目を向けていない。
これは、危機感の薄さの理由の一つと捉えることもできる。
現在はまだ情報が少ない。まだ私は見て判断していこう。
意外なことにも俺の思考は翔馬との会話をループさせていた。
淡々と壊れた機械音声をリピートしているように。
そこでただ1つの会話に意識を向け考える。
『何で旅をしているのか』
死のうとしていた俺が何で旅をしている?
旅が好きだから。それはもう知っている。
誰かと新しい関係を作りたいから?
それはない。全て捨て去って死のうとした俺が思う事はないだろう。
いや、エマと出会って話して旅をしている。ならエマが理由か?
それも違う気がする。結局俺は自分自身が分からない。
翔馬は、確かこんなことを言っていた。
――旅ってさ、何かを探してる人がするもんじゃないのか。
はっきりした言葉じゃなかった気がする。
笑いながら、深い意味もなく口にしただけだったかもしれない。
その時の俺は、曖昧に笑って誤魔化した。
答えなかったのか、答えられなかったのかは覚えていない。
今になって、その言葉だけが引っかかっている。
探しているものがあるのか。
それとも、何もないから歩いているのか。
考えようとした瞬間、頭の奥で何かが拒絶した。
思考が滑り落ちる感覚だけが残る。
……結局、分からない。
長々と考えたが結局俺は自分を理解することができない。そう悟って思考を放棄する。
エマは無言で車を走らせている。
俺はまだ自身の心の整理が付いていない。
立ち止まってしまっている俺に目もくれず時は進んでいき次の集落へと車は進んでいく。
ここで俺は旅を続ける理由を見つけられるのだろうか?




